本日は川南町白髭の山中で、明け方近くの冷え込みのために5:00ごろに目が覚めた。7℃しかないので、夏用のシュラフ では少し寒い。寝る前に眺める空の星が多いときには、たいてい翌朝は寒さで目が覚めてしまう。
日の出は5:55だが、すでに東の空は明るくなってきた。今日一日の行程を地図で確認し、Webで天気予報をチェックし、本日帰宅の途につく都農駅 から出発する日豊本線 の時刻を確認する。今日は九州自然歩道 を10kmも歩けば都農駅 への再近接地点を通過するので、そこで行程を中断してもよいし、尾鈴山の登山口まで歩を進めて引き返してもよいし、さらには支線の尾鈴山瀑布群まで見てから引き返すという方法もある。3パターンともに、途中の最大移動距離40kmの範囲には土日に運行しているバス停がないのがネック。鉄道の時間を考慮しながら、どこまで歩くことができるか、体力を勘案しながらルートを決定する必要がある。
山の朝は寒い
テントの撤収を終えて、6:12に行動開始。いつもながら、日の出前後の時間の山の光景は美しい。清少納言 は「春はあけぼの」といったが、山もあけぼのだ。この光景を見たら納得するはず。などとどうでもいいことを一人考えながら歩いていたら、朝からいきなり道を500mほども間違えて20分以上浪費してしまった。
この時間の山はいつも美しい
日のながく差し込みたるもいとをかし
野営地まで引き返し、仕切り直し。今度はGPS で正しい道を確認してから歩き始める。スギの植林を抜けて、谷川を橋で渡り、山の斜面の林道を歩いていたら、海の上の太陽が見えてきた。山が急に明るくなってきた。牧場の脇を通って牛に挨拶し、水田に反射する太陽を眺める。白髭の隣の大内集落には6:51に到着した。
正しい道はこっちだった
苔のむした橋を渡る
海の上に太陽が現れた
牛から不審者をとがめる目つきで睨まれた
水田があらわれたら集落は近い
ここからは少し回り道になるが、九州自然歩道 の本線を外れて篠原集落の夫婦滝に立ち寄ることにした。九州自然歩道 から右に折れて、川に向かって高度を下げていく。最初にあった滝まで700mという標識に従って進んだが、地図を確認しても滝に近づいていかない。GPS で位置を確認すると、橋を渡って滝までアプローチするためには1km以上迂回が必要そう。結局、直線距離で200mほどの位置まで近づくことができたが、滝への降り口が見つからず、7:08に夫婦滝への立ち寄りは断念して、先に進むことにした。ここからすみやかに九州自然歩道 に復帰しようと思ったが、地図に見られる50mほどの連絡路はこれでもかというぐらいの藪の中であったため、さらに先の住吉集落まで迂回することにした。
夫婦滝に寄り道
標識に従って進むがなかなか出てこない
諦めて九州自然歩道 に戻ろうとしたが藪に阻まれる
迂回路を進み、7:20に住吉集落にたどり着き、九州自然歩道 のコースに復帰した。復帰地点には標識が立っていたのだが、標識の方向は地図と違っていた。標識は動くし、間違いもあるだろう。道路は新しく作られたり、付け替えられたり、藪に覆われたりすることもあるだろう。自分の責任において、知恵と五感を総動員してコースを確認することが大切。迂回して体力を消耗するのは自分であり、その責任は自分にある。
標識は他人が好意で立てたものと思えば怒る必要もない
ここからは巨大な材木の貯蔵地を通過する。これまで見たこともないほど大量の材木が積み重ねられている。林業 が国土を守ってくれることは今回のトレッキングでよく分かってきた。
大量の材木が集積してある
ずーっと向こうまで並んでいる様は壮観
7:42に椎原集落で左折し、高度を下げていく。林道は左に曲がりながら高度を下げていくのだが、地図で確認すると九州自然歩道 のコースは林道のカーブ部分から真っ直ぐ破線に従って進んでいる。地図の破線は山道である。地図を仔細に眺めるが、該当する山道の入口は、どこが山道か判別不能 なほどのひどい藪に覆われている。少し前までの私ならば、こんな場合はGPS を見ながらゴリゴリ進んでいただろうが、もう十分に学習した。藪漕ぎも堪能した。迂回路はほんの少し距離が長くなるだけだ。舗装された林道を心地よく歩く。手足に何の傷も負わないまま、木々の間から青鹿(せいろく)溜池が見えてきた。
椎原集落から高度を下げていく
地図ではこっちの方向に山道があるように書いてあるが、どこが入口?
かしこく迂回する
目標の溜池も見えてきた
林道を快適に歩き、8:02に青鹿ダムに到着した。標識が途中にあらわれたことから、この迂回路はすでに九州自然歩道 の本線として使われているのではないかという疑念も生じてきた。ダム体の山の上に伸びていく山道の入口があったが、こちらは先が見えないほどの藪の中に進んでいく。迂回路の選択が正解だったと思う。
青鹿ダムに到着
標識もある
青鹿ダムの堤の上を歩き、かなり急なコンクリート 舗装路を歩いて、8:16に青鹿キャンプ場に到着した。ここはトイレと炊事施設のある無料のキャンプ場。金曜の夜からのキャンプ客だろうか、4張りほどのテントが芝生の上に張られている。居心地の良さそうなキャンプ場だ。
堤の上を歩いて、急なコンクリート 路を登ればキャンプ場
管理事務所と思われる小屋の外で、本日はじめてザックを下ろした。サーモス のお湯でコーヒーを淹れて休憩とした。ちょうどここではサバイバルゲーム の参加者が集合して、カートリッジにBB弾を詰めたり、機材にガスを充填したり、忙しそうに準備をしている。面白そうだった。気のよさそうな方から、無料で機材レンタルしますよと誘われた。とてもそそられたが、丁寧に辞退して先に進んだ。
8:38に行動再開し、眺めのよい丘の上の道を進む。集落の名前は旭ヶ丘。朝日のよく当たる丘そのものだった。日照が良いところだからか茶畑が拡がる。このあたりには曲がり角ごとに標識が建てられており、間違いなく先に進ませてくれる。
旭ヶ丘からは海が見える
まさに朝日の当たる丘
茶畑が拡がる
9:03に掛迫集落にあった自販機でコーラを購入して小休止。ピーナッツを食べて朝食とした。9:19に行動を再開して牧場の横を通過し、9:41に遊学の森入口に到着した。
遊学の森入口を通過
ここから先は、昨年通過したヤマトホがひどい藪の中を進み、最後はザイルまで取り出した難所が待ち受けているところ。GPS でYAMAPに記録されているヤマトホのコースを確認しながら慎重に進む。コースは民家の庭に続いており、通り抜けようとしたところで男性が家から出てきた。ここから先の九州自然歩道 は10年ほど前から道が消えてしまって通れないという。東の山を下るコースを進めば県道に出られると教えてくれた。
GPS に従って進んだら人家の庭先
こちらの迂回路を進めと教えられた
男性の家を離れ、9:48から東向きの迂回路に進む。舗装された林道で、快適に歩くことができる。しばらく進むと、9:57に迂回路上に九州自然歩道 の標識が現れた。どうもこの迂回路はすでに九州自然歩道 の本線として認定されているようだ。先ほどの民家の男性が白い軽トラックで後ろから近づき、窓を開けてあと300mぐらいで県道に出るからと、親切に教えてくれた。
迂回路に九州自然歩道 の標識が立つ
いい道ではないか
快適な林道を歩き終え、10:12に県道307号線に合流する込の口(こめのくち)集落に到着した。すぐ先には九州自然歩道 の標識も立っていた。このあたりで、宮崎県九州自然歩道 勝手にコース変更疑惑が確信に変わっていった。
込の口で県道307号線に合流
近くにも九州自然歩道 の標識が立つ
込の口から県道307号線を左折して、北の尾鈴山に向かって歩き始めた。片道1車線の道路で、ところどころに歩道がある。交通量は少なく、5分に1台ぐらい自動車が通過するのみ。
尾鈴山に向かって県道を歩き始める
田園風景の中を進む
このあとも県道307号線上には何度も九州自然歩道 の標識が現れた。ただし、片方には遊学の森と書いてあることから、さきほど山の上で入口を通過した遊学の森からも、県道307号線に通じる下山路があるのかもしれない。
ひたすら県道を北に
こんな標識があらわれた
そろそろ小休止をとりたかったが、県道上には木陰や腰掛けられるような場所がない。ようやく10:33に轟地区の対岸あたりに味噌か醤油の樽の転がった原っぱを見つけた。ここでザックを下ろし、コーラの残りを飲んで小休止。本日の行程について再考した。
県道沿いには休憩を取れるところがなかなかない
味噌樽原っぱで休憩
いま休憩している味噌樽原っぱから都農駅 までは8km2時間。次の目標地の尾鈴山登山口までは7km2時間。都農駅 から宮崎空港 への列車の時刻は17:25と18:39。ということは先に進んだ場合、逆算すると味噌樽には15:00に戻れば17:25の列車に乗ることができる。さらにさかのぼり、尾鈴山登山口は13:00に通過すればよい。しかも、この味噌樽には再び戻ってくることから、荷物を置いて往復することができる。ということで、10:50に味噌樽に荷物をデポジット して、スマートフォン と財布だけ持って行動を再開した。
手ブラで県道を北上するが、名貫川の渓谷が素晴らしい
細神社の鳥居だけが立つ
県道307号線は、美しい名貫川の渓谷に沿って北上する。下切、細の集落を通過し、11:24に川南町から都農町 の境界を越えて先に進んだ。都農町 の境界を越えたあたりから道路は1車線になり、法面には落石防止ネットが張られるようになった。橋の標識を見てみると尾鈴川南停車場線と書いてある。ここにはかつてトロッコ列車 が走っていたのだろう。
川南町から都農町 に入る
渓谷はさらに鋭く
道路はさらに狭く
尾鈴川南停車場線の文字が
行動再開してから79分後の12:09に尾鈴山登山口に到着した。2時間の予定よりもずいぶん早く着いた。そこで、せっかくだからと少し欲が出た。登山口から南西に尾鈴山に向かうと、尾鈴山瀑布群という素晴らしい滝の連続する光景が見られるという。このコースは九州自然歩道 の支線だが、本線は登山口から北東に延びるため、南西の尾鈴山瀑布群には今回行かなかったら一生行けないかもしれない。そこで、少しだけでも瀑布群を見てみようと、南西方向の登山道を進んでみることにした。
尾鈴山登山口に到着
橋を渡ればキャンプ場
橋の上流には名貫川の清流
しばらく傾斜の強い登山道を登ると、急にゆったりとした傾斜の幅1.5mほどの山道が現れた。おそらくこれはトロッコ 道。ところどころに切り通しや、橋の名残の残ったいい道だ。左には渓流が流れ、小さな滝がときどき見える。
白滝方面への登山路にとりつく
緩やかな傾斜で一定の幅のトロッコ 道
切り通しも鉄路の特徴
こんな橋の上をトロッコ が通過していたと思うとワクワクする
周囲の景色もよい
トロッコ 道の保存状態はよく、歩きやすい。途中で看板が設置してあったが、昭和33年まで残っていた総延長50kmの尾鈴トロッコ 道の一部だ。うーん、ノスタルジック。
滝も次々出てきた。すだれの滝、さぎりの滝と続く。山道から滝が見えるように伐採しているわけではなく、滝は部分的にしか見えないがそれでも満足。
すだれの滝
さぎりの滝
トロッコ 道にはトンネルも残る。ひんやりして心地よい。
トンネルも残る
トンネルを抜けると、さらさの滝。その先には小さな滝が現れ、ここではトロッコ 道を離れて徒渉するように標識が立っている。ここですでに13:05。もう引き返さないと都農駅 17:25の列車には間に合わなくなる。
さらさの滝
この滝が徒渉地点
石を伝って渡ることができる
標識を見ると、支線の最終地点の白滝までは1.8km。白滝がどんなに素晴らしい滝か知らないが、ここまで来たら一目でも見て帰りたい。それに18:39の列車に乗るという選択肢を選べば、引き返すのは13:30でもよい。
ということで、ここから白滝まで走ることにした。転倒しないように慎重に徒渉して、急な斜面を走る。斜面が終わるとまたトロッコ 道に出た。急斜面はトロッコ 道のショートカットのようだ。このあたりのトロッコ 道は、歩く人が少ないようでゴロゴロ石が多い。何人かの登山客に道を譲ってもらって、ひたすら走る。荷物がないから走るのもさほど苦にはならない。
ここからは走ったので写真はあまりない
景色は素晴らしい
少し息が切れたが、13:37に白滝に到着した。来てよかった。素晴らしい滝だった。高さ75mの迫力のある滝。ここまでのアプローチの難易度を考えると、生涯にはもう二度とここに来ることができないかもしれない。滝をしっかりと目に焼き付けて、折り返しの道を走り始めた。
終点の白滝に到着
白滝からの帰り道は、4.5kmの登山道を1時間で走り、14:38に登山口に戻ることができた。
そこからも休まず走る。10:50に荷物をデポジット してから水を摂っていないため、喉が渇いてきた。行きの道で細の集落に自販機があるのを確認していたので、そこまで早く到着しようと我慢して走る。15:17に細集落の自販機に到着して、冷たい飲料水で喉を潤した。
15:47に荷物をデポジット した味噌樽に戻る。ここからは荷物を担いで歩き始める。もう本日の歩行距離は30kmを越えているので、12kgの荷物を担いだら走るのはつらい。ここから8kmは遠いなと思いながら田園の中を歩く。
16:08に高速道路の高架下をくぐり、さらに真っ直ぐの道を進んで都農駅 に向かう。どこまでも農地が続く。時間を見るとまだ17:25の列車まで時間がある。ひょっとすると間に合うかもしれないなと思いながらひたすら歩き、17:20に都農駅 に到着した。駅前のコンビニでシロクマ(アイスクリーム)とジンジャエール を買って、行動終了とした。
本日の歩行距離は44.2km。かなり長かったが、平地部分が多かったためか、疲労 は今年2月6日の高隈山 系の縦走の時の方が強い。17:25の列車に間に合ったのはできすぎ。それでも、白滝を見ることができたのは僥倖だった。公共交通機関 のみを使って、福岡から尾鈴山の白滝を見に来るのは、これまでのどの場所に行くことよりもよりも難しいと思う。一生に一度のチャンスだったかもしれない。
日豊本線 、ANA と公共交通機関 で帰宅
2021年4月11日 九州自然歩道 97日目 宮崎県児湯郡 川南町白鬚~尾鈴山瀑布群~児湯郡 都農町 都農駅 曇りときどき晴れ 17/7℃ 行動時間11:05 44.2km 62659歩
復路交通:
都農17:25日豊本線 -宮崎空港 18:19/20:40ANA4958-福岡空港 21:30