週末を福岡の自宅で過ごす朝は、大濠公園のジョギングから始まる。
大濠公園は、福岡市の中心街である天神から西に1kmほどに位置する県営の公園で、福岡市民の憩いの場として知られ、多くの市民ランナーがここにやってくる。
まずは花に水やりをしてから、ランニングパンツをつけて、ジョギングシューズを履き、iPhoneをお気に入りのアルバムにセットしてから家を出る。大濠公園まで1.2km。信号は5つ。ウォーミングアップとしてゆっくり走り始める。
大濠公園の南口に到着。正面には大きな池が見える。1周2km。週末の朝はランナーが多いが、走りにくいというほどではない。
池の周囲のラバーの張られたコースを反時計回りに走り始めるが、すぐ右に見えるのが福岡管区気象台の建物。柵の向こうにはサクラやカエデの標準木が植えられている。毎年、このサクラが5、6輪咲いたところで開花宣言が出される。
続いて見えるレンガ色の建物は福岡市美術館。設計は前川國男。上野の国立西洋美術館の設計で知られるル・コルビジェの弟子で、東京都庁舎など多数の作品で有名な丹下健三は前川事務所の出身になる。近現代美術とアジア古美術が所蔵作品の中心をなしており、ダリやウォーホール、バスキアの大きな作品もある。ダリの絵画を購入した際には、数億円の出費に福岡市議会で大揉めしたとのことであるが、現在の価値を考えるとよい買い物だったのではないか。
もし、この美術館の収蔵品を1枚あげるといわれたら、迷わずレオナール藤田の仰臥裸婦を選ぶ。あの乳白色の女性の肌がとても好きだ。足下に座る猫のツンと澄ました表情も愛らしい。この絵が家に来るようなことは絶対にないが、もし、もしだけれども、手元に置くことになったら、アールデコ調の家具をそろえて、絵にふさわしい部屋を作るぞ、と夢想しながら走る。
美術館の先には、公園に溶け込むようなデザインのスターバックスコーヒーがある。ここは岩根英紀設計。地元の設計事務所だ。福岡近郊には彼の作品が所々にあるが、直線的なシャープなデザインながらも遊び心があり、やんわりと自己主張しながら風景と調和しているのが特徴。いつか豪邸を建てるときには彼に設計を依頼しようかなと、これまたありえもしないことを夢想しながら走る。
大濠公園のスターバックスのような家を建てることはできないが、ここにはときどき池を眺めながら本を読むために来る。週末は人が多くて、ソファに座って本を読むのは気後れするが、平日の夕日が池の水面に反射しはじめた時間帯ならば、ゆっくり本を読んでいても人に迷惑をかける可能性は少ない。
公園の南口から1km走った地点になる北口は、大濠公園の正門にあたる。ここにはカフェがあり、ボートハウスがあり、スワンボートに乗る子供連れが列を作っている。また、広い駐車場があり、車で来るランナーはここでウォーミングアップをしている。週末にはホットドッグスタンドが営業している。
北口から100mほど進んだ右手には米国領事館がある。ガラス張りの特徴的な建物だが、いつも警察官が数名警備にあたっている。27年前にここにビザを受け取りに来たときに路上駐車したら、ドアを開けて3秒で警察官から注意されたことを思い出す。
そこから先は、かつて福岡城下のお屋敷が並んだエリア。かつてのお屋敷はマンションに替わってしまったところも多いが。
もう少し走ると南口あたりで、iPhoneが2kmを告げてくれる。これを4周回り、また5つの信号を渡って家に帰る。合計10.4km。のんびり走ってちょうど1時間。冷たいシャワーを浴びながら、今日は何をしようかと考える。
