とりあえず、歩くか。晴れた日は星空の下で寝るのもいい。

週末の九州自然歩道のトレッキングや日常の雑感です。英語版のトレッキングログもこちら https://nayutakun.hatenadiary.com/  で公開しています。

雷山の紅葉 なぜ楓の葉は赤くなるのか

 福岡市の西、糸島市の雷山(標高954m)には何度か登山に行っているが、中腹にある雷山千如寺大悲王院(らいざんせんにょじだいひおういん)は紅葉の名所としても有名。たまには山登りだけではなく、季節の情緒も味わってみようかと、千如寺の樹齢400年を超えるという大楓の紅葉を見に行った。

 今回は歩きではなく、自宅から自動車で。約30分で雷山千如寺に到着。駐車場から参拝路の階段を登ると、左右には紅葉した楓がお出迎え。

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雷山千如寺大悲王院の参道の階段

 正面には仁王門が現れる。ここも紅葉した楓に彩られている。仁王門から直接入ることはできず、右手の門から入る。

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仁王門

 入山料100円を払い境内に入ると、砂紋の施された白砂の庭園の中央に、樹齢400年と言われる大楓が存在感を放っている。なかなかいいじゃないですか。

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雷山千如寺の大楓 樹齢400年

 庭には苔が付けられており、その上に舞い落ちた落葉もいい味を出している。

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千如寺の本堂渡り廊下から

 と、ここまで紅葉を観賞したところで、どうして楓には紅葉が発生するのか気になってきた。たしか、小学校のときに読んだ学研の「科学」には、紅葉は越冬を前にした葉に貯蔵された糖の色、みたいなことが書かれていたような気がする。江戸時代の植木職人が、楓の紅葉の発色をよくするために、砂糖を水に溶いて霧吹きでかけた、といった記述もどこかで読んだ記憶がある。しかし、越冬用のエネルギーを貯蔵した葉が落葉してしまっては役に立たない。この記憶内容にはどこか間違いがあるのだろう。ということで調べてみた。

 まずは紅葉の定義から。おもに落葉広葉樹が落葉の前に葉の色が変わる現象のことを紅葉(こうよう)、もみじ(紅葉)と呼ぶ。紅葉が鮮やかなイロハモミジ、オオモミジ、ヤマモミジなどのムクロジ科(旧カエデ科)カエデ属の数種をとくにモミジと呼ぶことが多い。狭義には、赤色に変わるのを「紅葉(こうよう)」、黄色に変わるのを「黄葉(こうよう、おうよう)」、褐色に変わるのを「褐葉(かつよう)」と呼ぶ。しかし、これらの色は経時的に推移し、また同じ種類の木でも生育条件や個体差があるため、厳密に区別するのが困難な場合も多く、いずれも「紅葉」として扱われることが多い。

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 さて、それでは紅葉が生じるメカニズムについて。まず、植物の葉が緑色に見えるのは、クロロフィルが含まれるからである。十分な日照がある条件では、葉ではクロロフィルが光を吸収して活発に光合成が行われ、エネルギーが生産される。この時期、葉に蓄えられている他の色素の顕著な物質としては、黄・赤色色素であるカロテノイド(カロテン、リコペンなどのカロテン類やルテインアスタキサンチンなどのキサントフィル類)や褐色色素のタンニン性物質(いわゆるポリフェノール類で、カテキン縮合体や糖エステルなどで、渋みの成分)が含まれる。

 黄色のカロテノイド色素系のキサントフィル類は若葉の頃から葉に含まれるが、葉緑素が葉に豊富に存在する時期には、クロロフィルとカロテノイドは8:1ほどの比なので、カロテノイドの黄色はクロロフィルの緑色にカバーされてしまって視認できない。

 秋になると日照時間は短くなり、光合成の効率が悪くなる。また、気温も下がり、光合成にかかわる酵素反応も低下する。葉はエネルギーを生産する場であるとともに、呼吸によってエネルギーを消費したり、水を蒸散させる消費の場でもあるため、日照時間が少なく、気温の低い冬には、葉を維持するエネルギーが不足するため、植物の生存にとっては不利になる。そこで、落葉広葉樹では葉を落とす準備として、まず再利用できる物質であるクロロフィルの分解と回収が始まる。分解された物質は、冬芽や根などの器官に運ばれ、翌年の資源として貯蔵される。

 このように資源の回収が進むと、葉柄の付け根には「離層」と呼ばれる細胞層が形成される。離層により葉と枝を結ぶ管が遮断されると物質の流れは止まり、細胞の液胞には老廃物とともにグルコースが蓄積する。

 この時期になると、葉は赤色色素であるアントシアニンの合成を増加する。アントシアニンは、前駆体であるアントシアニジンにグルコースが結合してアントシアニンとして完成するが、秋になって老化の進んだ葉では葉柄の付け根の離層によってグルコースの含量が増加するため、鮮やかな赤色を呈するアントシアニンの生産が増強されることになる。

 紅葉の前に黄葉を呈する葉もある。これが黄色色素のカルテノイドの色だ。葉の老化に伴ってクロロフィルが速やかに分解される一方で、カロテノイドは葉緑体の膜中にあるタンパク質と結合しており、比較的分解されにくい。両者の分解速度が違うために、クロロフィルが分解されるにつれ、緑色にカバーされていたカロテノイドの黄色が目立つようになる。

 紅葉は赤や黄色に色づいた後、茶褐色になる。この色の原因が褐色色素のタンニンである。タンニンは皮革のなめし剤として使われるようにタンパク質と結合しやすく、動物や昆虫が摂取すると消化酵素と結合して消化不良を生じるため、被食から回避するための忌避剤として働く。また、タンニンは紫外線を吸収することから、細胞内のタンパク質や核酸などを紫外線から保護する働きもある。タンニン性物質は、若葉にも含まれるが一般には成長した葉で含量が高くなるとされている。ただし、葉が健全な状態では、タンニンは液胞の中に隔離された状態で存在しており、その強い反応性で自己の細胞に障害を与えることはない。葉の老化が進み、アントシアニンやカロテノイドも分解されると、細胞の液胞内に多量に含まれるタンニンは、分解されたさまざまな物質と、あるいはタンニンどうしが次々に結合していき、その過程で葉は茶褐色になっていく。

 このように、季節により紅葉が発生するのは、葉に蓄えられた栄養が幹へと回収される一連の過程のためである。再利用可能な栄養が十分に回収された葉では、植物ホルモンの1つであるエチレンの働きによって葉柄の付け根に作られた離層から切り離されて落葉し、無駄な水分やエネルギーが冬の間に消費されるのを防ぐようになる。

 ということで、紅葉には糖であるグルコースの蓄積がアントシアニンの発色に関わっていることから、小学校の時に読んだ「科学」の記載は間違いではないことは分かったが、それほどシンプルな反応でもなかった。

 ところで、霧吹きで吹きかけた砂糖で、鮮やかに紅葉するというのは本当だろうか?吹き付けたグルコースが葉の中のアントシアニジンと結合して、アントシアニンの合成が進むかどうかは、さらに確認を要する。