とりあえず、歩くか。晴れた日は星空の下で寝るのもいい。

週末の九州自然歩道のトレッキングや日常の雑感です。英語版のトレッキングログもこちら https://nayutakun.hatenadiary.com/  で公開しています。

パッションフルーツ 外見からは想像もできない芳醇な香り

 パッションフルーツという植物の名を初めて見たのは大学1年生の時に読んだ団伊玖磨のエッセイ集「パイプの煙」の中。団伊玖磨は著名な作曲家で、多くの交響曲や「ぞうさんぞうさん、おはながながいのね」の歌詞(作詞 まど・みちお)で知られる「ぞうさん」などを作曲しているが、エッセイストとしても知られている。40年近く前に読んだままなのであいまいになるが、南米に演奏旅行に行った先で見慣れない植物を見た団先生が現地の方に名前を尋ね、「Passion Fruits」という答えを聞いて情熱passionの花かと思ったところで、キリストが磔の際に使われた十字架の形に似ていることから、受難passionに由来してその名前が付けられたと改めて説明された、という内容の文章を読んだ記憶がある。

 パッションフルーツは4、5年前ぐらいから福岡の青果店にも時々並ぶようになり、生の果実を味わうことができるようになってきた。直径4、5cmほどのプラタナスの実よりも一回り大きいぐらいのサイズで、紫茶色で表面はつるっとした球形の果物だ。え?プラタナスがわからない?街路樹のスズカケノキのことですよ。大きな手のような、柏のような葉をつけたあの木のことです。秋には実をつけていますよ。

 それはさておき、初めて福岡市内の青果店パッションフルーツの果実を見つけたときはその姿に驚いた。紫色の卵のような果物が、どうみても美味しそうには見えなかった。食べ方もわからなかった。お店の人に尋ねたら、皮に皺が寄ってきたら食べごろで、半分に切って中の種を食べてくださいとのこと。種を食べるの?と思ったが、実際に半分に切ってみて分かった。実の中にはとろりとしたオレンジ色の果肉があり、その中に多数の緑色がかった種がある。スプーンですくって食べてみたら、強い酸味と芳醇な香りが口の中いっぱいに拡がった。主役にはならないタイプの果実であるが、ヨーグルトに乗せると絶品。リンゴ(フジL玉)半分を1.5cm角ダイス、白桃(白鳳あるいは川中島L玉)1個を2cm角ダイスにしたものに200gのヨーグルトをかけ、その上にパッションフルーツ1個をスプーンで乗せたものは、朝食の最強のバリエーションの一つである。

 パッションフルーツの苗を、定期的に巡回している青果店の店先で見つけたのが3年前。グリーンカーテンにも使われるぐらい成長が早いとのことで、1鉢購入してポットで栽培して、生け花の花材としてときどきチョキンと切って活用していたが、青果店で福岡産のパッションフルーツを見つけて、ひょっとしたら自力でパッションフルーツが収穫できるかも、と思って収穫目的の栽培に着手した。

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ベランダですくすく成長するパッションフルーツ 後方に見えるのがその10Lぐらいの鉢

 収穫目的の栽培開始の前に、まずは苗を増やしておくことにした。切ったものを生け花に使用していても、1週間ぐらいで花器の中で根を出しているのが観察されていたので、挿し木での培養は容易と判断していた。実際、生育の良い脇枝を先端から30cmの部分でカットし、1時間ほど放置の後(根を伸張するホルモン分泌促進のためのおまじない)、水をたっぷり入れたガラス瓶の中に入れておけば、1週間以内に50%の確率で根が伸びてきた。この方法は植物の生長を直接確認できるので楽しい。カットした挿し木をポットに植えるだけでも、80%の確率で生着した。

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1年でグリーンカーテンとして十分成長した

 いまはポットに植えたパッションフルーツを3株、2階のベランダで栽培している。花が咲くのは5~6月とされているが、日当たりの良い2階のベランダで栽培をしている我が家では、1年を通して散発的に開花が見られる。開花直径40~50mmほどの大ぶりの花で、ウェーブを呈した白く細やかな花弁の中央部分が紫色に染まり、その中にロゼッタ状に黄色の雄しべが配置する幽艶な形態。実際にこの目で花を見た感想は、受難ではなく情熱に一票。朝、開花し、夕方には花が閉じ始める儚い花であるが、開花するとハチ、とくにクマバチがしばしば訪れる

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パッションフルーツの花

 さて、それではパッションフルーツの収穫について。これが今のところなかなかうまくいかない。7~9月が収穫期とされ、その時期に咲いた花の雄しべの一つをピンセットでつまんで取って、雌しべに受粉させる人工授粉を行ったが、我が家のパッションフルーツの雄しべの成熟が未熟と思われ、自家受粉を行うものの、花粉の飛散が肉眼では認められず、φ20mmほどの未成熟果実が黒変して落下するのみであった。

 ところがなんと、2019年9月6日の朝。いつものようにベランダの花に水遣りをしていると、パッションフルーツの果実が1つコロリと転がっている。まさか時々訪れてくる烏か鳩が、実をつけない我が家のパッションフルーツの状態を見て哀れになって運んできてくれたことはあるまい。知らないうちに結実し、熟した果実が自然落下したようだ。残念ながら成熟する姿を樹上で確認することはできなかったが、これを第1号果実としよう。表面に皺が寄ってから朝食のフルーツヨーグルトの上にかけて食べた。青果店で購入したものと同じく、芳醇な香りが鼻腔を刺激した。

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パッションフルーツ収穫第1号 ひょっとしたら鳩の贈り物かも

 最後にパッションフルーツのまとめを。

パッションフルーツ Passiflora edulis Sims (和名 クダモノトケイソウ

トケイソウトケイソウ属のつる性の常緑多年宿根草アメリカ大陸のブラジル、パラグアイあたりが原産とされている。

日照条件:日照要求は強く、グリーンカーテンとしても利用される。

生育適温:20~30℃で、越冬には4℃以上の温度が必要。また、亜熱帯植物のわりに高温を嫌い、30℃以上の気温が続くと高温障害を起こし、花芽や未熟果を落下させることがある。開花時期に20℃以下になると受粉しても結実は不安定になる。霜に注意が必要だが、庭植えも可能。プランター栽培の場合は、霜を避けるために、冬はつるを1/3程度まで切り戻し、室内に移動させて日当たりのよい場所で管理するのが望ましい。

水やり:生育は非常に旺盛で、大ぶりの葉からの水分蒸散量が多いので、水は多く必要とする。コンテナ栽培の場合は、朝、水やりが必要。冬は根腐れ防止のため控えめに。

樹形:つる性で3m以上に容易に成長する。ネットや細めの添え木に誘引すると、樹形を容易に整えることができる。地植えの場合は、伸びすぎ注意。

開花:5~6月とされているが、日当たりの良い2階のベランダでポット栽培をしている我が家では、1年を通して散発的に開花が見られる。

収穫:7~9月が収穫期とされている。開花から収穫までの期間は70~80日とされ、開花・受粉から14日で玉伸びを終え、その後45日で完熟、自然落下するはずであるが、我が家のパッションフルーツは栽培開始3年でようやく1個収穫したのみ。周囲の雄しべの一つをピンセットでつまんで取って、雌しべに受粉させる人工授粉で確実に受粉を行う。我が家では、人工授粉をするものの、φ20mmほどの未成熟果実が黒変して落下するのがほとんどである。

培養:挿し木での培養は容易。生育の良い脇枝を先端から30cmの部分でカットし、1時間ほど放置の後、プランターに植えるだけでも、80%の確率で生着する。水をたっぷり入れたガラス瓶の中に入れておいても、1週間以内に50%の確率で根が発生する。