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週末の九州自然歩道のトレッキングや日常の雑感です。英語版のトレッキングログもこちら https://nayutakun.hatenadiary.com/  で公開しています。

リンゴの蜜 蜜入りリンゴの美味しさの秘密

 毎日、毎朝、大量のフルーツを摂取している。中でもリンゴの摂取はかなり多い。リンゴは美味しく、貯蔵性が良く、スーパーなどでも品種を選ばなければ1年中手に入れることができるから、先のブログ(朝食にはフルーツの巻 参照)にも書いたように、朝食のフルーツの下層部分に頻用するためだ。

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12月9日の朝食のリンゴ サンフジ

 リンゴには品種が非常にたくさんあるが、歯ごたえや食味、果汁の豊富さから、安定して美味しいなと感じるのはなんといってもフジである。フジは10月頃から新物が店頭に並び始めるが、12月に入った頃になると、食味が非常に良くなる。それと同時に、半分に切ったときに種の周囲に半透明の層を形成した、いわゆる蜜入りの状態を呈したものが増えてくる。美味しい時期のフジには、蜜入りのものが多いなという実感である。ところが、この蜜が気になったので、半透明層の部分のみナイフで切り出して食べてみたところ、さして甘いわけではない。蜂蜜のような「蜜」という味ではなく、ほんの少しだけ水っぽく、さらりとした味。この部分よりも、どちらかというと果肉のほうが甘い。この蜜の正体が気になる。

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サンフジの内部に現れたいわゆる「蜜」

 リンゴに蜜が入る機序と蜜の正体について調べてみた。

 植物の葉では、太陽光によるエネルギーを用いて、二酸化炭素と水から糖類を合成している。基本となる反応は化学式でザックリというと次のようになる。

6CO2二酸化炭素)+12H2O(水) → 

     C6H12O6ブドウ糖)+6O2(酸素)+6H2O(水)

 実際の植物の葉緑体の中で行われている糖類の生産過程はかなり複雑で、非常に多くの酵素の触媒を必要とし、また植物種や葉緑体のタイプによって反応や最終生産物が異なるが、カルビン・ビンソン回路という工程を経て、空気中の炭素が固定されて糖や糖が重合して高分子となったデンプンなどが生産される。

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リンゴの果実に蜜が形成される仕組みをザックリと

 一般には、光合成によってブドウ糖が生産されて、デンプンが作られるが、デンプンを作らずにショ糖として葉に蓄積する物もあり、糖葉と呼ばれ、ネギ、ホウレンソウなどが代表的な物とされる。

 光合成で作られたデンプンは、ショ糖になって水に溶けて師管を通って貯蔵器官に運ばれる(転流)が、バラ科の植物は、ショ糖ではなくソルビトールという糖アルコールになって師管の中を転流する。ちなみにこのソルビトールは、バラ科ナナカマド属 (Sorbus) の植物から発見された糖アルコールのため、ソルビトール命名されている。

 リンゴはバラ科の植物で、葉で作られたデンプンの転流形態はソルビトールである。リンゴの果実内に転流してきたソルビトールは、ふたたびグルコースやフルクトースといった糖に変換されて果実内に貯蔵され、果実は甘みを呈することになるが、果実の成熟に伴って、ソルビトールからグルコース、フルクトースに変換する代謝系は停止する。しかしその後も、リンゴの葉から果実内へのソルビトールの転流は継続する。そのため、果実内の維管束の周囲である、リンゴの芯の周辺付近には逸出したソルビトールが蓄積することとなる。

 ソルビトールは、グルコースを還元してアルデヒド基をヒドロキシ基に変換して得られる糖アルコールの一種である。ショ糖(いわゆる砂糖)と比較すると、高保湿性(糖よりも多くの水分を保持できる)と高浸透性(細胞間に速やかに浸透しやすい)を特徴としており、その反面、甘味度はショ糖の60%と甘みを感じにくい。このような特性を持ったソルビトールが、果実の維管束周囲に蓄積して、多くの水分を保持して半透明部分を形成したものがリンゴの果実の「蜜」である。だから、蜜の部分は水っぽく、甘みがそれほどないのも頷ける。今回、朝食のために縦断したリンゴの内部に見られる蜜においても、師管から果実内へと続く液体の運搬路である維管束から放射状に形成されていることが観察される。

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リンゴ果実内部の構造とその名称 蜜が蓄積するのは維管束周囲の特に外側に放射状に

 今回の蜜の形成機序についての情報は、農林水産省 消費者相談 (http://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/1612/02.html)をおもに参考にさせてもらったが、なかなかためになった。注射器で蜜を入れているのではないですよ、というところが消費者相談の最も重要なところだったようだ。

 このホームページにはさらに、蜜の入りやすい品種と入りにくい品種、さらにはそれらの品種の両親、特徴が記載してあり、非常に勉強になった。農林水産省には粋な人がいるものだ。参考までにリストを挙げておく。

蜜の入りやすい品種

  • ふじ(国光×デリシャス)・・日本で一番栽培が多い晩生種。甘みと果汁が多く歯切れが良く、長期保存に適している。
  • 紅玉(アメリカ原産)・・・やや酸味が強く香りが優れる中手種。生で食べるのと、パイやジャム等の加工用として人気がある。
  • アルプス乙女(ふじ×ヒメリンゴ)・・赤色で平均30~70gの小さい実の中手種。果汁が多く食味が良い。

蜜の入りにくい品種

  • シナノスイート(ふじ×つがる)・・果汁が多く甘みがあって食味が良い中手種。
  • ジョナゴールド(ゴールデンデリシャス×紅玉)・・冷涼な気候で栽培が多い中手種。
  • 王林(ゴールデンデリシャス×印度)・・ふじに次いで栽培が多い晩生種。果汁が多く、甘い。