とりあえず、歩くか。晴れた日は星空の下で寝るのもいい。

週末の九州自然歩道のトレッキングや日常の雑感です。英語版のトレッキングログもこちら https://nayutakun.hatenadiary.com/  で公開しています。

ホキ美術館 頑張れホキ みんながついてるぜ!

 上野の森美術館上野の森美術館の巻参照)に次いでの推しメンがホキ美術館。知っている人しか知らないだろうが、知っている人にはお気に入りのハズの美術館。2010年開館のまだ若い美術館だが、そのエッジの効いたコレクションにはコアなファンが間違いなく多い。

 美術についてこれというほど知識のない私が、ホキ美術館のことを知ったのは、2017年に佐賀県立美術館にホキ美術館名品展がやってきたのをたまたま見たから。その時は、初めて見た写実絵画の超絶技巧に卒倒しそうだった。会場は撮影禁止だったので、この超絶技巧の絵画の数々をお見せできないのが残念だが、会場入り口のパネルを撮影したので上げておく。

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佐賀県立美術館で開催されたホキ美術館名品展のパネル 2017年5月4日に訪問 初めて体験した写実細密画にシビれた

 これが写真でないのが驚き。穏やかな表情でベッドのシーツの上に横たわった女性に、レースのカーテン越しの柔らかな光がやさしく差し込む。シーツの皺、リネンのシャツのヒダまで、春の日差しを浴びて匂い立つような、その質感まで再現されている。女性からは軽い寝息まで聞こえてきそうな、写真以上にその場の空気や情感まで描き込まれたような、これが写実絵画。いったいどんな人が、どんな手法で描いたのだろうかと、のめり込むように鑑賞させてもらった。2時間ほど堪能した後、出口の関係者の女性に尋ねたところ、ホキ美術館に行ったらもっとたくさんありますよ、と言われ、行くぞ行くぞと火がついてしまった。実際に訪れることができたのは1年後の2018年4月29日。ところは千葉。とはいっても外房線の土気(とけ)駅からさらにバス。都内からは1時間半ほどかかる。ちょっと遠かったが、行く価値は十分にあった。

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1年後に訪問を果たしたホキ美術館

 ホキ美術館は、医療用不織布製品で有名なホギメディカル代表取締役社長だった保木将夫氏が、退任後に自らのコレクションを基に設立した私立の美術館。展示されているコレクションは写実絵画のみ。それもほとんどが日本人の画家の手になるもの。ここに作品たちをお見せできないのが残念だが、草原からは若草の匂いがたつようで、森からは遠くを飛ぶ雲雀の声が聞こえそうで、乳白色の女性の肌からはうっすらと石鹸の香りがしそうな、そんな絵画がずらりと並んでいる。

 建物もいい。コンクリートの打ち放しの外観だが、空に向かって飛び出していくような、宙に浮いたギャラリー。力強く、未来を感じさせる。保木氏が、「そこを通ったら入りたいと思わせる美術館を建ててくれ」とだけリクエストして建てられたとのことであるが、十分とその意が汲まれている。設計は日建設計。いい仕事してる。

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この角度からもイイ!

 でも、コレクションよりも、建物よりも、さらに心を揺さぶられるものがこの美術館にはあった。それは、設立者の保木将夫氏の哲学。日本人は細密画が得意だと狙いを定め、コレクションを始めた。ここまでは普通のコレクターの考えることだろう。しかし、おそらくこの分野がまだ未成熟だと感じたのだろう。保木氏がとった行動が凄い。ホキ美術館に展示するための作品として、ベテランにも、そして新人にも、「私の代表作」を描いてほしいと依頼し、新人にチャンスを与えるとともに力量を伸ばし、巨匠にも全力投球をお願いして競わせるかのごとく、日本の写実細密画のレベルをグンと引き上げた。髪の毛の1本1本まで集中して、息を止めて描き上げるような作業を進める至高の画家たち。1年に数枚しか書くことができないような絵を描いている画家さんたちを、物心両面から支援している訳だ。それまでは、数えることができるほどしかいなかった細密画の巨匠によってかろうじて支えられてきた、日本の写実画、細密画というジャンルそのものを育成してしまったのだ。この保木氏の姿勢にはシビれてしまった。じつは仕事でホギメディカルの製品を使うことがあるのだが、これからもバンバン使いまくってしまおうと思ってしまうほど、ホキ美術館の成り立ちには感動を覚えてしまう。

 しかし、最後になってしまったが、これを読んでくれたみんなに伝えたいことがある。ホキ美術館は、現在閉館中なんだ。2019年10月25日の台風の影響による関東甲信越地方の記録的な豪雨によって浸水を起こしてしまい、しばらく開館できないほどの被害があったんだよ。地下の電気設備だけでなく、収蔵庫や展示室にも被害が及び、コレクションも100点近く被害に遭っているよう。画家の方たちが、その身を削るような努力を払って描き込んだ、あの絵画たちがダメージを受けているようなんだ。保木将夫氏もさぞやショックを受けているんじゃないかと、とても心配だ。

 だれか、気の利いた人がいたら、ポチッとしたら寄付できるホキ美術館支援募金サイトとか作ってくれないかな。すぐにでも支援したいんだ。だれか手伝って!