とりあえず、歩くか。晴れた日は星空の下で寝るのもいい。

週末の九州自然歩道のトレッキングや日常の雑感です。英語版のトレッキングログもこちら https://nayutakun.hatenadiary.com/  で公開しています。

ナンバンギセル 可憐な姿に似合わぬ妖しい生態

 北九州市平尾台は日本でも有数のカルスト台地で、山口県秋吉台愛媛県高知県にかかる四国カルストとともに、日本3大カルスト地形の一つとされている。カルスト台地とは石灰岩などの水に溶解しやすい岩石からなる地形である。

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北九州市平尾台 日本3大カルスト地形の一つ

 雨水による浸食を受けた石灰岩はギザギザと尖った石灰岩柱を形成するものが多いが、石灰岩がマグマの熱を受けて変成作用で再結晶したものは結晶質石灰岩(一般には大理石)と呼ばれ、浸食によって丸みを帯びた形態を呈する。これが草原の土から顔を出したものは、あたかも草原の中で草を食んでいる羊の群れのごとく見える。平尾台には、それらが特徴的によく発達したエリアがあり、羊群原(ようぐんばる)と呼ばれている。

 9月の半ばは平尾台のススキの美しい時期である。九州自然歩道の一部である平尾台の羊群原のススキの茂った山道を歩いていると、ススキの根元に薄紫色の可憐な花を見つけることができる。ナンバンギセルである。

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平尾台のススキの根元に花を付けたナンバンギセル

 ナンバンギセル(南蛮煙管、Aeginetia indica)はハマウツボナンバンギセル属の寄生植物で、日本を含む東部、南部アジアに広く分布している。イネ科の植物(とくにススキ、サトウキビ)、ミョウガ(ショウガ科)、ギボウシ(キジカクシ科)などの根に寄生し、花柄のみ地上に出して花をつける。生育期には地中で宿主の養分を得て生長し、突然、夏から秋の開花時期に花柄のみをニョッキリと地上に伸ばして咲くところが、どことなくヒガンバナにも似る。

 名前の由来はその姿。南蛮人と呼ばれていた西洋人の船員がくわえていたマドロスパイプに見立てて「ナンバンギセル」の名前が付けられた。南蛮人の渡来前からナンバンギセルは日本に分布していたようで、万葉集にも登場する。「道のへの尾花が下の思い草今さらさらに何をか思わむ」というのがその歌。道端のススキ(尾花)の下の思い草(ナンバンギセル)よ、いまさら誰のことを恋い焦がれているのか、と歌われている。万葉の時代には、可憐な薄紫色の花を、うつむき加減に恋にもの思う姿としてとらえたようだ。

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 このナンバンギセルは、かわいらしい花を付けた姿に似合わず、寄生植物として嫌う向きもある。葉緑素を持たず、自らエネルギーを生産することができないため、寄主の根から吸収した栄養分に依存して生育するため、宿主の生長を阻害するからだ。このため、イネ科である陸稲やサトウキビの栽培地帯では害草として嫌われている。人を傷つけることのないような可憐な少女のような姿をもった生物も、その生態には油断しない方がよいという戒めか。