福岡市中央区六本松の交差点にある三和珈琲館。昭和49年開店のこの店は、福岡の珈琲好きならば必ず知っている名店。道路の拡幅を伴う都市計画に伴い、2019年12月25日をもって六本松店は閉店となる。昭和の名残を色濃く残した店舗がまた一つ、幕を下ろしたという気がする。
自家焙煎の店で、昼に訪れるとオーナーの井出一博さんが豆の選別をしているところに出会うことが多い。選別をしていない時には、奥で焙煎をしている。本当に珈琲が好きな方のようだ。
ときどき豆を買いに行っていた。井出さんがいる時は必ず、「家に帰ったらすぐに冷凍庫に入れて、淹れる30分前に冷蔵庫から出してね」と何度も言われる。家までついてきて、冷蔵庫に入れるのを確認しそうな勢いで何度も言うのだ。言われたことはないが、「今日はすごく焙煎がうまくいったから売るのが惜しい」とか言い出しそうな調子の時もあり、美味しく飲まないと許さないぞという気持ちがひしひしと伝わってくる。
ネルドリップにこだわりがあり、オリジナルの器具を勧められたが、ものぐさな私は今でもペーパーフィルターを使用。ここは申し訳ないが許して欲しい。違いが分からない男なのだ。
この店で一番好きな銘柄はインドネシア産のセレベス・カロシ(Celebes Kalossi)。もともと濃厚な味わいの豆だが、三和珈琲館のセレベス・カロシはトロリと感じるぐらいひときわ濃厚で、グッとくる苦みと、鼻に抜ける強い芳香、そしてチョコレートのような甘みを感じる後味が特徴。これを購入するたびに、高倉健さんもこの珈琲をまとめて買っていたと言われる。昭和の店の昭和の味がする。