東京駅を起点として新橋駅に至るまで、丸の内、銀座、築地、新橋界隈の著名な建築物を歩いて巡る一筆書きの旅の12番目の建造物。銀座松竹スクエアから首都高速道路の橋梁を越え、新橋演舞場に向かって南西に進む。3ブロックで区立銀座中学校入口の信号を渡り、狭くなった路地を200mほど道なりに進むと、異様なコンクリートのブロックの集合体が見えてくる。
(12) 中銀(なかぎん)カプセルタワービル 中央区銀座8丁目16-10 設計:黒川紀章
黒川記章の初期の代表作であるとともに、「メタボリズム」の代表的な作品である。メタボリズムとは新陳代謝を意味するが、1959年に黒川紀章や菊竹清訓ら日本の若手建築家・都市計画家グループが開始した建築運動。社会の変化や人口の成長に合わせて有機的に成長する都市や建築を提案し、古い細胞が新しい細胞に入れ替わるように、古くなったり機能が合わなくなったりしたユニットをまるごと新しいユニットと取り替えることで、社会の成長や変化に対応することが構想されたが、中銀カプセルタワービルを含めて実際にはユニットの入れ替えが行われることはなく、彼らの運動も分岐してしまう。
中銀カプセルタワービルは1972年竣工の鉄骨鉄筋コンクリート構造の集合住宅で、現在も居住者が存在し、集合住宅の管理組合もある。
外観はドラム式の洗濯機をランダムに積み重ねたような形状をしている。設計上は、それぞれのドラム式洗濯機状のカプセルの部屋が交換可能とされているが、一度も交換されたことはない。
1つのカプセルは400cm×250cm。テレビで居住者が内装の説明をする画像を見たことがあるが、ベッド、エアコン、冷蔵庫、テレビなどが効率よく造り付けになっているが、イメージとしては1979年発売の初代ウォークマンの一つ前の世界。まだオープンリールの録音機が活躍しそうな世界観である。
歴史的な建造物であり、保存が望まれるものの、すでに50年近く経過して老朽化が進み、また外壁内側に吹きつけアスベストが使用されていることなどから、立て替えや大規模修繕の動きはあるものの、いまだ行方は決まっていない。管理組合は禁止してはいるものの、2015年頃にはAirbnbで宿泊可能となっており、人気の上位にランクされていた。現在は、良品計画が内装をリノベーションした賃料12万円のマンスリーカプセルとして賃貸されている部屋もあるようだが、なかなか人気が高いようだ。
参考文献:中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト:https://www.nakagincapsuletower.com/