トレッキングを始めたばかりで、歩くことに精一杯で、十分な記録を残してこなかった九州自然歩道のスタートとなる福岡県エリア。これまでに、福岡県、佐賀県、長崎県と歩き継いできた。九州自然歩道の反時計回り1周が完遂するならば、再び大分県から福岡県に北上してくるが、今回は福岡県内の往路について記憶が新鮮なうちに総括しておこうと思う。
九州自然歩道の北端は、北九州市八幡にある皿倉山頂上。そこから稜線を伝い、福智山まで南下する。そこから東に向きを変え平尾台を歩き、仲哀トンネルを抜けて筑豊地域に入る。香春から南に添田町の油木ダムに向かい、英彦山に至る。今度は西に向きを変え、嘉穂アルプスと言われる馬見山、屏山、古処山の稜線を歩き、秋月市街に下る。長崎街道の通った冷水峠を越えて三郡山系を縦走し、宝満山から太宰府に入り、二日市を抜けて天拝山から基山に至るのが福岡県内の225.6kmのコース。
JR鹿児島本線の八幡駅で下車すると、正面に見えるのが皿倉山(622m)。この山は北九州市のシンボルと言っていいだろう。ケーブルカーが山頂まで運行しているが、八幡駅から山頂まで歩いても2時間ほど。海抜0m付近から600m以上高度を上げるこの道のりは、眺望が良く、整備状況の良い複数のコースが選べるので、歩くのもお勧め。皿倉山の山頂からは、北九州市の市街がグルッと見渡せる。
山頂のビジターセンターには飲料水の自動販売機がある。ここから先30kmは一切の補給はないので、手持ちが不安ならばここで飲料水の補給をしておく必要がある。
皿倉山からの九州自然歩道は山道だが、整備状況は良好で、コースを示す標識も必要箇所に設置してある。皿倉山を出てから、権現山(617m)を経由し、尺岳(608m)までは概ね稜線に沿っているが、いくらかのアップダウンはある。尺岳までは4~6時間ぐらい必要。尺岳山頂近くには四阿と整地された広場があるので、ここで野営することも可能である。さらに2時間ほど進む体力があれば、最後の急斜面をよじ登って福智山(901m)の頂上を目指しても良い。あるいは、福智山の頂上の手前の烏落としには、避難小屋と水場があるので、ここを野営地にしても良い。福智山の頂上からは、小倉、遠賀、筑豊と、360度の雄大な景色を味わうことができる。
福智山からは、北九州市の水源地の一つである鱒淵ダムに向かって下りていく。下山路は6km近く、2時間ほどを所要する。鱒淵ダムから先は舗装路を歩くことになる。国道322号線が近づけば人家が増え、商店もいくつか現れる。この辺りはJR日田彦山線の石原町駅が最寄りの駅となる。
国道322号線から2kmほど舗装路を進むと、平尾台の登り口になる。この間の2kmは商店がいくつかあり補給のチャンス。平尾台の登り道は一般道で、交通量は多く、かなりのスピードで峠を攻める車やバイクも多いため、騒音がうるさく、また危険である。眺望もそれほどないため、早々に登り切った方がよい。
坂を登り切ったところが吹上峠で、平尾台のカルスト台地への入口である。ここで舗装路から分かれ、カルスト台地の中の小さなピークである大平山(587m)に向かう道を進む。ご存じとは思うが、カルスト台地とは石灰岩からなる地形で、草原の中に羊のような白い石灰岩柱が並ぶ様は一度見たら忘れられないほど美しい。平尾台は、山口県の秋吉台、愛媛県と高知県との県境近くの四国カルストと合わせて日本3大カルストとされている。吹上峠からは5km近くにわたり、カルスト台地の中を歩くことができる。
平尾台の南端部分には千仏鍾乳洞がある。1km近く奥まで進むことのできる鍾乳洞で、しばしの探検気分を味わうことができる。九州自然歩道は、千仏鍾乳洞のトイレの横を通過しているが、ここは標識が分かりづらく、迷いやすいポイントの一つ。このポイントを過ぎると、高度を下げながら行橋の方面に進む。この部分の山道は荒れ果てている。1時間ほど我慢して進むと、行橋市内の福丸集落に着く。ここには小規模な商店があり、飲料水の補給は可能。
ここからはほぼアスファルト舗装の道となる。貯水池や古墳の脇を通り抜けて進む。綾塚古墳は一見の価値がある。この辺りの新町地区には、商店やレストランがいくつか並んでいる。
その後、九州自然歩道は地図の上では筑豊地区との境界になる仲哀(ちゅうあい)トンネルに向かう。しかし、現在は仲哀トンネルは老朽化のため、通行できないように封鎖されているため、ずっと下方に新しく開通した新仲哀トンネルを進まなければならない。ちなみに、仲哀トンネルは1963年に全国で5人を殺害した連続殺人事件の最初の殺害が行われた場所として有名で、心霊スポットとしても知られていることから、近隣の若者たちの肝試しに活用されているようだ。かわりに通行しなければならない国道201号線の新仲哀トンネルは長さ1365mのトンネルで、交通量、とくに大型トラックの通行が多く、神経を病みそうなぐらいすさまじい騒音を20分ほど体験することができる。トンネルを抜けると香春町に入り、2kmほど先には道の駅香春がある。
仲哀トンネルを抜けたあとは国道201号線を離れ、大坂山(573m)に向かって山道に入る。山間の静かな呉の貯水池の水面には大坂山がきれいに映っているだろう。1時間ほどで大坂山の頂上には到達するが、ここには眺望はない。大坂山から先10kmほどは、山間の集落を縫うように歩いて、平成筑豊鉄道の源じいの森駅に到着する。ここにはキャンプ場、宿泊施設、温泉、レストランと、必要なものが何でも揃っている。
源じいの森駅から5kmほどは舗装路を歩く。途中に琴弾の滝、大音の滝と、趣のある名の付けられた滝の横を通過する。平山集落を通過し、峠を越えると舗装路はなくなり、いきなり驚くような悪路になる。300mほどで数軒の家のある田代集落を通過したら、さらに6kmほどはほとんど踏み跡のないところを地図を頼りに進まなければならない。かなり苦労すると思われるが、平山集落からは8km、3時間ほどで、油木ダムが見えるところに着くと思う。このあたりには、重機を入れた工事が進んでいたので、そろそろきれいな舗装路ができているかもしれない。
油木ダムからは、舗装路と山道を繰り返し、英彦山のエリアの北坂本集落に至る。北坂本には英彦山観光りんご園があるが、ここでは店頭でリンゴの小売りもしている。新品種の栽培にも意欲的にトライしており、質の高いリンゴが楽しめると思う。
英彦山エリアには、英彦山神社の下宮、上宮、北岳(1192m)、南岳(1199m)などを周回するコースもある。シンボルの銅の鳥居(かねのとりい)の辺りには、コミュニティバスがJR日田彦山線の添田駅まで運行している。
九州自然歩道は、銅の鳥居の先の南坂本の集落から山道に入り、緑川の集落に抜ける。緑川では舗装路を横切って歩道がつながるはずであるが、どこに進んだら良いのかは容易には分からない難所がある。地図を仔細に眺め、ここと思った地点から人家の庭を横切る度胸を要するポイントである。しかもそこからの山道がかなりの難所。一昨年の豪雨以来、歩道らしい痕跡がほとんど残っていない。しかし、なんとかがんばって峠を越えて長谷の集落にたどり着けば、長谷の里食堂で素朴な味の鶏モモ焼や団子汁などを楽しむことができるかもしれない。土日のみで営業時間は短いが、もしも開いていたらぜひ味わって欲しい。特別な材料を使ったり、手の込んだ調理をしているわけではないのだが、心に沁みる味がする。
長谷から4kmほど舗装路を進み、ほんの少しの山道を抜ければ、小石原に到着する。小石原は素朴な普段使いの陶器の窯元が50軒ほど開かれた陶器の町。気取りのない食器や花器を探すのも良い。小石原には、道の駅、商店、食堂などがあり、ゆっくり過ごすことができる。
小石原から1.5kmほど先の嘉麻峠までの舗装路は、大型トラックの交通が多く、楽しい行程ではない。嘉麻峠から山道に入ってしまえば、比較的快適な歩行ができる。嘉穂アルプスと言われる馬見山、屏山、古処山の稜線を歩くが、コースを通して地元の山岳会の標識が親切に案内してくれる。山道の整備状況は極めて良好。馬見山の頂上付近には宿泊可能な避難小屋が新設されたと聞いたが、ここを通過した時は濃いガスに包まれており、現場は確認できなかった。古処山は山岳信仰で知られている。頂上からの景色も良く、登山道も石畳などが丁寧に作り込まれているが、一部には豪雨の影響と思われる崩落が生じているのが残念。
古処山を下りたところは秋月の街並みになる。ここには見どころが多いので、半日ぐらい時間を使っても良い。
秋月からは、6kmほど舗装路を歩いて夜須高原記念の森に至る。このあたりは九州自然歩道ポータルサイトの地図に記載されているコースは、道路脇の標識や看板のコースとは明らかに異なっているので、注意がいる。地図よりも、道路脇の看板に記載されたコースが、現状の歩道を正確に反映しているという印象を持っている。
交通量の多い国道200号線と交差するのが冷水峠。ここからは大根地山(651m)の山頂近くの神社までつながる参道を快適に登っていく。山頂からは2kmほど下りの山道になるが、その後は舗装された林道を香園まで歩く。香園にはきれいに整備された筑紫野市竜岩自然の家キャンプ場があるが、事前予約が必要で、持ち込みテントは不可である。未確認ではあるが、香園の辺りには飲料水の自動販売機があると思われる。ここから先は、太宰府に至るまで補給はないので、山道に入る前に準備が必要。
2kmほど県道を北に進み、柚須原に向かう。県立射撃場の入口から、三郡山(936m)の頂上にある航空監視用のレーダーサイトのための舗装されたサービス道路に曲がる。三郡山の頂上までは、距離はあるものの、舗装路を歩くのは楽。また、南面が開けた道路からの眺望も良い。
三郡山からは、頭巾山(901m)、仏頂山(868m)、宝満山(829m)と、三郡山系の稜線を歩く。この道は太宰府市民に人気のコースで、整備状態の良好な、低木広葉樹に囲まれた心地のよい山道。宝満山を下りたところは、竈門神社という宝満山の下宮にあたる。こぢんまりとしているが、センスの良いリノベーションがなされた神社である。
ここから先は太宰府の市街地になる。太宰府市内には見るべきところが多数ある。せっかくここまで来たら、太宰府天満宮にお参りをしたり、名物の梅ヶ枝餅を食べてみるのも良い。太宰府政庁の跡地や令和の元号にゆかりのある坂本神社なども見逃せない。水瓶山(212m)、岩屋山(281m)は、太宰府の守護となった巨大な山城の一隅である。ここを歩いてみるのも良い。
太宰府を巡ったあとは、二日市温泉の熱いお湯に浸かって汗を流してから、西の天拝山(257m)に登る。ここも市民に人気のあるコースで、常に登山客が途切れることはない。
天拝山から1時間ほど山中を進むと天拝湖が現れ、さらに2kmほど山道を進むと佐賀県との県境が現れ、太宰府の守護として建てられた山城である基肄城址のある基山(404m)に到着する。ここから先は佐賀県に入ることになる。
九州自然歩道福岡県エリア 2019年8月31日~2020年1月12日 活動日数 11日 福岡県北九州市八幡駅(2019年8月31日)~佐賀県基山町基山(2020年1月12日) 距離225.6km 44787歩