私の推測では福岡市民の80%はMyラーメン店を持っている。Myラーメン店というのは、定期的に巡回（来店）し、味に劣化がないことを確認し、親父さんに顔を忘れられないようにマーキングするような、そんな店である。
中性脂肪が高かったり、体重増加のために職場健診の際に体重を減らすように内科医から厳命されていることもあり、私のラーメンの摂取頻度は月に2～3回程度と低いものの、いまだにMyラーメン店を3軒維持しており、なかなか忙しい。
そんなMyラーメン店の中でも、最も巡回頻度が高いのが「げんこつ」である。濃厚な豚骨ラーメンの店で、おそらく無化調。カウンターの奥では月に2回ぐらいしか笑わないような無骨な雰囲気を漂わせる親父さんがラーメンを作り、若干軽薄が過ぎるバンダナのお兄ちゃんがそれを客のもとに運んでくれる。大阪近辺には博多ラーメンげんこつというチェーン店が展開しているのを見かけたことがあるが、おそらくそれとは関係のないインディー系。
カウンターに8名程度とテーブル2卓の店で、昼時は並ぶ覚悟がいる。ここのサラダ油でカラリと揚げた、下味のしっかりついた唐揚げも美味で、ラーメン、唐揚げ、白ご飯を合わせて1000kCal越えを覚悟のうえで、ついつい唐揚げセットを頼んでしまう。
親父さんは私の名前は知らないが、入口のドアを開けるたびに、チラリとこちらを見て左の口角だけピクリと挙げてくれるところを見ると、私が定期的に来店していることは現認してくれているよう。最初に来店してから14年ほど経つが、親父さんの声は3回ぐらいしか聞いたことがない。健さんのような、低めの渋い声であった。
最近、その声を聞いたのは2018年12月23日。福岡近郊の登山の帰りに冷えた身体を温めに入って注文したところ、2分後に娘から1時間後に福岡に帰るから晩ご飯を一緒に食べてもいいよというメールが来た。恐る恐る親父さんにキャンセルできるか尋ねると、「いいですよ。」と一言。今度来ますから、と店を出た。
翌日のクリスマスイブ、昼食の時間が長くとれたので、げんこつを訪れた。ドアを開けたら、親父さんの左の口角の挙げ方はいつもの2倍ぐらいだった。注文したのは唐揚げセット。唐揚げが通常よりも一つ多い4個だった。カウンターの中を覗いて、こちらも右の口角をピクリと挙げたら、親父さんも左の口角を挙げてくれた。
博多ラーメンげんこつ
〒814-0174 福岡県福岡市早良区田隈1-10-7
Tel: 092-874-1396
