エノコログサSetaria viridisは、イネ科エノコログサ属の一年生草本。日当たりの良い道端や野原で頻繁に見かける植物。犬の尾に似たフサフサの円柱状の花序を特徴とし、ネコジャラシの俗称でも知られる。漢字では狗尾草と書くが、まさに犬(狗)の尾の草。
大学1年生の時に、下宿の周りで採集される植物の標本を作製しているときにエノコログサの押し花も作ったが、新聞紙に挟んで上から電話帳を置いたときに、ジャワジャワと聞こえた音がまだ耳に残っている。
縄文時代前半に日本にアワとともに伝搬したようで、アワの原種であるため食用にできる。脱穀してからそのまま食べたり、製粉してから食べることもできる1)。
なぜ、ありきたりなエノコログサのことが気になったかというと、2階のベランダにぶら下げたゼラニウムのプランターに繁殖したため。これまでは、2階のプランターに生えてきた外来の植物は、キク科のタンポポやニガナ、ジシバリのような綿毛に包まれた浮遊するタイプの種を持つ植物しか見かけなかったからだ。エノコログサの種は、2階のベランダまで風の力で飛んでくることは難しそう。
アワの原種ということで気がついた。プランターの縁に腰を下ろして楽しそうに井戸端会議をしているスズメや、ときおりはシジュウカラを見かけたことがある。彼らがおやつに食べたり持ってきたエノコログサが、落とし物(や排泄物)としてプランター内に落下したならば合点がいく。ゼラニウムのプランターから駆除するのが悪い気がしてきた。
- 河合初子、山口裕文:雑穀の自然史 その起源と文化を求めて、北海道大学図書刊行会、2003.