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【症例報告】 Cucumis Meloによる口腔アレルギー症候群(Oral Allergy Syndrome)が疑われた症例

   はじめに

 Cucumis Melo(英名:melon、和名:メロン、甜瓜や真桑瓜の呼称もある)は、ウリ目ウリ科キュウリ属の一年生草本植物で、品種による差異もあるが、その果実は頗る美味である。イランやインド周辺の南西アジアが原産地とされており1)、B.C.2000頃から人為的な栽培が始まった古くからの栽培植物で、多様な品種が育成されている。

 我が国においては、レティクラトゥス群(Reticulatus Group)のメロンが最も多く栽培されている。これには夕張メロンアンデスメロン、アールスメロンなどが代表的な品種として挙げられる。この群の品種は麝香のような香りを発することからマスク(Musk)メロンとも呼ばれる。レティクラトゥス群には成熟に伴い表面に網目ができるものが多く、ネット系とも称される2)

 農産物流通においては、ネット系をさらに青肉種と赤肉種に分け、イノドルス群 (Inodorus group)やマクワ群(Makuwa Group)、カンタルペンシス群(Cantalupensis group)などの網目の発生しない品種をノーネット系とするものが、メロンの分類としてしばしば使われている(Table)。

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  年々作付面積が増加し、一人あたりの摂取量も増加しているCucumis Meloであるが、摂取すると口腔や咽頭部に違和感や掻痒感を生じるという症例も増加している。食物を摂取した際に生じるこのような口腔内の反応を口腔アレルギー症候群(Oral Allergy Syndrome、OAS)といい、アレルギーの報告の多い果物はキウイ、リンゴ、モモ、メロン、ブドウ、バナナの順となっている。本症候群は、シラカバやブタクサ、スギといった花粉との交叉反応性を有する可能性が示唆されている3)

 今回は、メロンを摂取した際に口腔に違和感が生じる口腔アレルギー症候群を疑う症例を経験したため報告する。

   症例

 症例は50歳代の男性。非喫煙者で、特記すべき基礎疾患はない。これまでにアトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎などのアレルギー性疾患の既往はない。症例報告に際しては、研究報告の趣旨を説明し、文書によるインフォームドコンセントを得ている。

 アレルギーを疑わせる事象が発生した日時は、2020年7月1日午前7時頃である。発生場所は福岡県福岡市内の一般民家の屋内である。

 患者は同日午前6時45分頃より、朝食に供するためにネット系赤肉種メロン(マリアージュ)を切断し、1/4量の外皮および内部の種子を除去の後、20mm角に細切してガラス製のボウルに入れ、牛の乳分泌物を乳酸菌および酵母にて発酵させた食品(明治ブルガリアヨーグルト、株式会社明治)200gと混和の後、摂取している。半量ほど摂取した時点で、咽頭周辺に違和感が発生し、同部に若干の掻痒感を自覚した。違和感は軽度であったため、そのまま残りの半量を摂取している。咽頭周辺の違和感は、食後30分ほど残存したが、暫時、症状は軽減し、同日午前8時には完全に消退した。

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今回患者が摂取した赤肉種メロン マリアージュ

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切断面の状態を見ると追熟のタイミングは適切であったことが分かる

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実際に摂取する直前の細切されたCucumis Melo

 翌7月2日午前7時にも同メロンを1/4量摂取し、前日と同様な症状の発現と経過を見ている。

 さらに、7月3日午前7時および7月4日午前7時にも同メロンの1/4量を摂取し、同様な症状の発現と経過を見ている。

 いずれも、咽頭部の違和感は自然に消退し、後遺障害に該当する症状の残存は認められていない。

   考察

 本症例は、Cucumis Meloを摂取するたびに、口腔や咽頭部に違和感や掻痒感を生じたことから、口腔アレルギー症候群が疑われる。患者への問診にて、20歳代後半には、数年間にわたり夏季の昼食にはメロン1/2量を常食としており、頻回に摂取するようになってから数年後にはCucumis Melo摂取後には時折口腔の違和感を自覚するようになっていたとのことであった。その後30歳代に入ると、昼食としてCucumis Meloを摂取する習慣はなくなっているが、現在は夏季の朝食にCucumis Meloを摂取するケースが頻回に生じているとのことであった。

 本症例については、Cucumis Meloに対する血中特異的IgE抗体の測定やCucumis Melo抽出物を用いたプリックテストを実施していないため、Cucumis Meloによる口腔アレルギー症候群と確定できたわけではない。

 また、口腔アレルギー症候群との交叉反応性が示唆されている花粉症についてであるが、問診によると2020年の2月から3月にかけての山中歩行においては鼻粘膜の異常や眼瞼の発赤などのアレルギー症状を疑わせる症状の出現をみたことがあるとのことであった。ただし、症状は軽微であったため、これまで花粉症の診断を受けたことはないとのことであった。

 口腔アレルギー症候群はラテックスアレルギーとの交差性を示唆する研究もある。ラテックスアレルギーとは1979年にNutterによって始めて報告された、ゴム製の手袋などの天然ゴム製品に接触することによって起こるじんま疹などの即時型アレルギー反応である4)。天然ゴムはゴムの木から採取される樹脂から作られるが、これに含まれるタンパク質と特定の果物に含まれるタンパク質が交叉抗原性を示すことがある。このため、口腔アレルギー症候群を有する者がラテックスアレルギーを呈することや、その反対も生じえる。本症例においては、2007年にラテックス抗原によるプリックテストを受けており、陽性の反応を認めている。このことから、ラテックス抗原に感作を受けたためにCucumis Meloに対してアレルギーを生じる可能性と、Cucumis Meloに対する感作を受けたためにラテックス抗原に対して皮内反応を呈した可能性が考えられる。

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同患者のプリックテストの結果 H:ヒスタミン(陽性コントロール)、S:生理食塩水(陰性コントロール)、RS:ラバーシート抽出液 陽性コントロールと同程度の皮疹がラバーシート(ラテックス)抽出液穿刺部位にも生じているのが分かる

 いずれにせよ、本症例のCucumis Meloの摂取頻度とその量はあまりに多量だといわざるを得ない。20歳代後半に連日Cucumis Meloのみを昼食として摂取していたころに感作を受けたとしても仕方がないものと思われる。本症例には食事指導を実施してみたものの、現在までのところ行動変容を得るところには至っていない。どれほど嗜好に合致したものであろうとも、摂取量が過度にすぎる場合には害悪が生じるのも無理はないという症例であろうと思われる。

 

   参考文献

  1. The new Oxford book of food plants. Oxford University Press. p134. 2009.
  2. 瀬古 龍雄:メロンの作業便利帳―品種・作型の生かし方と高品質安定栽培のポイント、農山漁村文化協会、2002.
  3. Amlot PL, Kemeny DM, Zachary C, Parkes P, Lessof MH. Oral allergy syndrome (OAS): symptoms of IgE-mediated hypersensitivity to foods. Clin Allergy. 1987 Jan;17(1):33-42.
  4. T Naito, R Ogata, M Yokota: Prevalence of contact dermatitis from latex glove use in a Japanese dental school, J Kyushu Dent Soc, 53, 2, 271-277, 1999.

 

   要約(Kumamotian訳)

メロンば食いよったら喉の奥が痒うなるったいね。ばってん、うまかけんが止められんと。我慢して食いよったら良くなるかして食いよるけんが、どげんなるか分からんと。