とりあえず、歩くか。晴れた日は星空の下で寝るのもいい。

週末の九州自然歩道のトレッキングや日常の雑感です。英語版のトレッキングログもこちら https://nayutakun.hatenadiary.com/  で公開しています。

ドクダミ

 家の前の草取りをしていると、隣のアパートから若い男女が出てきた。おそらく大濠公園にでもジョギングに行くのだろう。二人ともTシャツに短パン姿で、さて走りましょうかという出で立ちだった。

 草取りをしている私を見て、山積みになった雑草を指さしながら、女性がこう尋ねた。「コレモラッテイイデスカ?」

f:id:nayutakun:20200911083841j:plain

 「いいですよ。大濠公園から帰ったら持って行って下さい。」と答えてから、「どちらから?」と尋ねると、すぐに「ベトナム」と返ってきた。「シンチャオ Xin chào」と唯一知っているベトナム語で挨拶をすると一気に距離が近づいた。

 昨年の5月に夫婦で日本に来たこと、近所にはまだ知り合いがいないこと、今年は故郷に帰れそうもないこと、などなど。「サンポノカエリニ、クサヲモラッテイキマス」と言いながら、大濠公園に向かって走っていった。

 その草というのがドクダミ(蕺草、蕺、Houttuynia cordata)。ドクダミドクダミ属の多年草。日本から東アジアに広く分布する。やや湿った日陰を好んで繁殖する。我が家の玄関は北向きで繁殖の適地。どんなに頑張って抜いても、しばらくすると残った地下茎から次から次へと顔を出す厄介者。

f:id:nayutakun:20200911083903j:plain

 深緑色の葉とコントラストのある4枚の花弁をもった白い花をつけるように見えるが、花弁に見える部分は苞(ほう、蕾を包む葉が変形した部分。とくに花序全体を包む形のものは総苞という)。本当の花の部分は、白い総苞の上の2cmほどの穂のような形の花序に小さな黄色い花が密生しているところ。しかも、この花には雄しべと雌しべしかなく、花弁そのものはない1)。それでも離弁花に分類されているのは学生のころから謎のまま。ちなみにスミレのように花弁が1枚1枚離れているものが離弁花で、アサガオのように花弁がくっついているものが合弁花。

 ドクダミが知られているのは、夏にしか咲かないこの花よりも、独特な臭いによるだろう。密生したところからは、そよと風が吹くだけでドクダミと分かる臭気が漂う。

 そんな臭いとは裏腹に、ドクダミは有用植物である。胃腸病、食あたり、下痢、便秘、利尿などに対する様々な薬効を持ち、民間薬として古くから使われている。ドクダミ茶は健康食品としてよく目にするし、「はとむぎげんまいつきみそう♪どくだみはぶちゃぷーあーる♪」の歌で知られる爽健美茶にも使われている。臭いの成分はデカノイルアセトアルデヒドDecanoyl acetaldehyde C12H22O2やラウリルアルデヒドLauric aldehyde C12H24Oなどで、抗菌作用や抗真菌作用を有する2)

 ベトナム料理では、魚料理の香草として使われるようだが、彼女たちは何に使うんだろうかと思いながら、目につく限りのドクダミを摘み取っておいた。

 

   参考文献

  1. 矢野佐・石戸忠:原色植物検索図鑑 第18版、北隆館、1980.
  2. Wikipediahttps://ja.wikipedia.org.wiki.ドクダミ