とりあえず、歩くか。晴れた日は星空の下で寝るのもいい。

週末の九州自然歩道のトレッキングや日常の雑感です。英語版のトレッキングログもこちら https://nayutakun.hatenadiary.com/  で公開しています。

2020年9月21日 九州自然歩道 51日目 通潤橋から豊穣の地を歩く 熊本県上益城郡山都町笹原~山都町内大臣峡

 本日は標高500mの山都町笹原からのスタート。よく知られた通潤橋という江戸時代に造られた石造りのアーチ水路橋の取水口がここにある。水路の長さはおよそ6km。このあたりもずいぶん人里離れたところで、昨晩も近くでシカの鳴き声が何度も聞こえた。

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通潤用水円形分水

 昨夜は星空がとてもきれいで、星のない部分の漆黒があまりに黒く、見上げると空に吸い込まれそうなほどだった。明け方は放射冷却のせいか、半袖では耐えられないほどの寒さ。残念ながら電波が届かないので気温はわからない。寒さをこらえながら5:30に起床して、6:33に行動を開始した。

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 稲穂の揺れる田んぼを見守るような集落を過ぎる。このあたりは休耕田が少なく、よく手入れされている。川は集落よりもかなり下方を流れているので、通潤水路の恩恵を受けている可能性が高い。

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 7:12に国道218号線に合流。合流地点は聖橋という、山都町では最も古い石造りアーチ橋。立派な造りだが現在は使用されておらず、すぐ隣の国道には景観を損なわないように上手に橋を架けてある。国道は交通量が多く、歩くには適していない。歩道があるのがせめてもの救い。

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 7:40に道路沿いにファミリーマートがあったため、イートインでコーヒーとサンドイッチの朝食とした。イートインコーナーに電源があって感謝!野営地は電波なしだったので、ここでブログの更新を行う。来店者が、今の気温は10℃で寒いと電話していることから、野営地の朝はもっと寒かったのだろうなと納得。

 8:27にファミリーマートを出発して通潤用水に沿って通潤橋に向かう。この道は回り道になるのだがこれが正解。稲穂を実らせた田んぼが美しく、用水沿いに花を着けたヒガンバナが映えている。30分ほど台地の上を歩くと通潤橋が見えてきた。

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 通潤橋1854年に布田保之助を代表として建造された日本最大級のアーチ橋。上流の取水口から台地の上に水を送るためにサイホンの原理が応用されている。重機のない江戸末期にこれだけの工事ができたのは驚異的。通潤橋のある上益城町は2016年の熊本地震で被害を受けているが、現在は復旧を終えている。当地では布田保之助は神格化されている。

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 通潤橋からは20分ほど歩いた位置にある五老ヶ滝に向かう。ここは通潤橋下流にあたるところで、落差50mの豪快な滝を吊り橋から眺めることができる。

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 つり橋を渡り終えて地図を確認すると、九州自然歩道の本線の赤いラインは五老ヶ滝に沿って南東に伸びているにも関わらず、九州自然歩道の緑色の文字は通潤橋から真南に本線のラインなしで伸びている。こんなケースは初めてだ。ひょっとすると、五老ヶ滝沿いのコースは大雨で流されたため、やむなく南向きの県道をう回路というかショートカットとして採用したような気もする。迷いに迷って、昨日から山都町内藪漕ぎなしの実績を信頼して、10:20に五老ヶ滝沿いの九州自然歩道オリジナル墓穴を掘るかもしれないコースに歩を進めた。

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 つり橋から50mほど先に進んだところに九州自然歩道の標識があったが、標識の指した方向にはおそらくこの2、3か月は誰も歩いていないような雰囲気を漂わせる藪が見える。一瞬引き返そうかとも思ったが、地図を改めて見ると危険そうなルートは1km足らず。墓穴を掘る覚悟で先に進むことにした。

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 山都町の藪はやっぱり優しかった。たいした苦労はなく、顔面に蜘蛛の巣が4、5回貼りつくぐらいのことで藪をクリアすることができ、その先に拡がる棚田の中の道を心地よく歩くことができた。棚田の畔ではおじさんが草刈り機で畔の草取りをしている。挨拶をして通り過ぎると、「こん先は柵に電気ば流しよるけん」とわざわざ追いかけて教えてくれた。「はい、気を付けます」と返事をしたものの、気を付けようがなかった。九州自然歩道の行く手には、イノシシ除けの電気柵が水平に、30cmほどの間隔で背丈ほどの高さまで張り巡らされていて、脱走できない収容所のような状態だった。

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 通常はこのような時は人の手で開けられる部分がどこかにあるはず。ところが、右に進めども、左に進めどもそんなところがない。台地の末端にあたるこの圃場には、向こう側に行く理由はないため、ドアに使われる部分はなく、柵を突破するかそれとも1.5km戻るかの2択となった。

 行くしかない。イノシシ除けの電気柵は200Vである。まずはバックパックを外し、電気柵の向こう側に送っておいた。次いで、トレッキングポールを使って電気柵を上に引き上げ、柵の隙間からそろりそろりと匍匐前進で向こう側に進んだ。もう少しというところで、臀部が電気柵に触れた。銭湯にある電気風呂の10倍ぐらいの痛みが一瞬起きただけで、ズボンに穴が開くこともなく、無事に通過することができた。

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 電気柵の後は、200mぐらいで林道に出られるはずであるが、その先は道がまったく無くなっていた。やむなくGPSを頼りに、真っすぐ突き進んだ。こんな状況は南阿蘇外輪山で慣れている。最後は20mほどの崖。まっすぐ進めないので、巻いた。巻くとは通過可能なところまで迂回することを、登山用語でこういう。尻尾を巻くわけではない。ようやく20mの崖をクリアしたと思ったら、林道はすぐ先に見えるのに、またもや高さ1.5mの電気柵。こんどは300mほど迂回。尻尾を巻いた。1km足らずに1時間以上かかり、11:19に林道の米野橋に這う這うの体でたどりついた。墓穴を掘る覚悟で選択した道だが、実際に墓穴を掘ってしまった。

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 林道わきの木陰で肩で息をしながら休憩していると、白い軽トラックのおじさんが通りかかって話しかけられた。人の良さそうな林業のおじさん。杉の材木の値段は50年前から変わらないとぼやいている。イノシシの電気柵でお尻をやられたというと、大笑いされた。

 30分ほど楽しく話しをして行動再開。米内蔵の集落を通過し、11:56に10軒ほどの民家の集まる譲原集落を通過して、三差路を右折してスイッチバックして台地の上に向かう。傾斜はきついが、舗装路で路面の状態は良い。自動車は10分に1台通過するかどうかぐらいで歩きやすい。

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 しばらく進むと九州自然歩道の標識が唐突に現れ、しかも140度ぐらい地図上のルートとは違った方向を向いている。いま歩いている快適な舗装をそのまま行けば間違いなく九州自然歩道のオリジナルコースになる。一瞬だけ考えて、舗装路を進むことにした。ようやく学習したのである。

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突然反対向きの九州自然歩道の標識

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反対方向に怪しく登っていくルート

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選択した舗装路はこっち向き

 そのまま舗装路をしばらく歩き、台地の頂上近くの笠月に12:27に到着した。ここで立派な道路と交差するが、それは気にせずまっすぐ進む。12:33に白糸第一小学校の跡地を利用した山の都サテライトオフィスに到着した。自販機でもないかと訪ねてみたが、自販機はなく、誰もいない。玄関先で行動食の昼食を摂って休憩とした。

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サテライトオフィス

 サテライトオフィスの先は左折して県道180号線南田内大臣線に入る。今日の目標は内大臣内大臣は平家の落人の内大臣から付けられた地名のよう。この県道で九州自然歩道本線はショートカットコースと合流することになる。

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 棚田を眺めながら、わずかにアップダウンを繰り返して台地の上を進んでいく。1時間近く、自動車のほとんど通らない県道をのんびりと歩いた。

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 相藤寺という小さな集落を抜けた後は下りになる。正面には高い山が見え、中腹をスイッチバックしながら登っていく林道が見える。手掘りのような白藤第2トンネルと白藤第1トンネルを抜けると、地図では等高線15本(150m)以上の標高差があり、スイッチバック7回の道路が現れる。最上部から写真を撮ったが木に隠れて4回分しかスイッチバックが写らなかった。

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 7回のスイッチバックの末ににたどり着いた谷底を流れる川の名が内大臣川。水量の豊富な渓流である。地図では500mぐらい上流に行くとキャンプ場があるので行ってみた。おしゃれな斜張橋を渡り、しばらく進むと猿が城キャンプ場に到着した。入り口近くの道路がわずかに崩落しているためか、管理棟には人がおらず、営業していないようだった。

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 仕方がないので500mほど下流にある平家の湯という、これまた風情のありそうな温泉に行ってみることにした。電話をかけてみると、立ち寄り湯はないけれども料理だけならば出せるというので、とりあえず平家の湯に向かった。

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 内大臣川に架かるつり橋を渡り、内大臣水力発電所の脇の狭い道を進むと見えたのが平家の湯。こぢんまりとした川魚料理の店で、民宿もやっているようだった。看板はなく、秘湯感満載。料理を頼もうと思ったら、歩いてきたというとびっくりして、一部屋空いたから泊まっていくかと尋ねられた。渡りに船と、今日は15:27で行動終了し、平家の湯に浸かってゆっくりすることとした。

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2020年9月21日 九州自然歩道 52日目 熊本県上益城郡山都町笹原~山都町内大臣峡 晴れ 気温25/9 距離20.0km 行動時間8:44 平均速度2.6km/h 34158歩