とりあえず、歩くか。晴れた日は星空の下で寝るのもいい。

週末の九州自然歩道のトレッキングや日常の雑感です。英語版のトレッキングログもこちら https://nayutakun.hatenadiary.com/  で公開しています。

2020年10月4日 九州自然歩道 56日目 熊本県球磨郡水上村白蔵越~湯前町湯前駅 通行止めの球磨川源流域を迂回

 本日は五木村水上村の境界である白蔵越から、2kmほど小川内川に向かって谷を下った地点からのスタート。本来、九州自然歩道は白蔵越よりも5kmほど北の白蔵峠を通過して球磨川源流域に進むのだが、白蔵峠、球磨川源流域ともに通行止めの情報により、昨日の時点で白蔵峠の10kmほど手前から迂回路を巡り巡って白蔵越までたどり着いている。

 昨夜は、白蔵越を過ぎて水上村に入って2kmぐらいの地点の、杉の植林のために整備された林道脇の草地で一夜を過ごした。虫の音が子守唄のように一晩耳元で鳴ってくれていた。

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 本日の目標とするのは、九州自然歩道上にある、くま川鉄道湯前駅。非常に残念なことに本年7月の豪雨災害のためにくま川鉄道は運行を休止しており、鉄道を利用することはできない。くま川鉄道は前身が国鉄湯前線の、戦前から営業している歴史のある路線。未乗区間だっただけに残念だが、それ以上に月曜からの仕事のために福岡に帰らなければならない私にとって運行休止は切実な問題。ようやく最近、くま川鉄道はバスによる代替運行を始めたようだが、定期券利用者のみ利用可能で、かつ平日のみの運行というかなり渋い対応。同区間を1日4便ほど運行する他社のバスの時間に間に合わせるしかない。

 テントの中で6:00に起床したが、まだ谷間には日は差してこない。近くの水場で歯を磨き、顔を洗う。冷たい水で顔を洗うと、朝の気分は大分違う。テントを撤収していると、山の上の方から1発の銃声が響いてきた。2分ほど間を置いて2発目の銃声が聞こえた。どうやら仕留めたようだなと思いながら、日が差し込んできた6:47に行動を開始した。

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山から流れる冷たい水で顔を洗う

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周囲が明るくなって行動開始

 晴れた日の山の朝には素晴らしい光景が見られる。今朝は、谷間に漂う細かな水滴に朝日が散乱して薄紅色に染まった山々を見ることができた。写真ではその質感を伝えられないのが残念。だれか一緒に歩いてみませんか?と言いたくなるぐらい美しい朝がある。

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九州山地の朝

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 野営地からは、ほどほどに整備された林道を下る。植林されたスギの周囲の下草は丁寧に刈られており、この林道が林業のために活用されていること、山が大切に育てられていることがよくわかる。周囲の山を見渡すと、針葉樹の収穫を終えたばかりの区画や、幼木を植えたばかりの区画、40年は生育したであろう立派なスギの育った区画などが見事に管理されていることがわかる。球磨地区の山林の手入れで気づいたのが、北側の枝は丁寧に払ってあるのに対して、南側の枝は落としていないところが目立つこと。一般には下枝が成長すると節目を形成するので、柾目を良しとする針葉樹では全周を丁寧に落とすかと思っていたので、不思議に感じる。林業関係者に尋ねてみたい質問項目とした。

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林道の整備状況は良好

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南側の下枝が払われていないのが目立つ

 そんなことを考えながら林道を下っていると、白い軽トラックが山の上から降りてきた。通り過ぎるときにチラリと見えた荷台には、首から血を流したシカが横たわっていた。さっきの銃声の標的がこれだったのかと分かる。

 ここから先の林道は地図には記載されていなかったが、問題なく通行できた。8:00に林道は谷底を走っている県道161号線に合流した。ここは地図上では4軒ほどの家の集まる水洗集落であるが、居住者はいないようだった。県道161号線は昨日、五木村の竹の川から下梶原川を上流に向かって走行していた道路と同じ番号。峠を越えてふたたび復活しているが、地図では峠の手前で消えており、峠を越えた谷で記載が始まり、連続してはいない。どこから復活したのか遡って見てみたい気もしたが、今日はやめておいた。

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もう一度歩きたいと思わせるほど快適な林道

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県道161号線に合流

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荒スゲ谷川に沿って進む

 舗装路を球磨川の源流の一つの荒スゲ谷川に沿って下る。この川も透明度が高い。少し深さのあるところは緑色に見える。そんなところには大きなヤマメが隠れているような気がする。紅葉が始まったばかりのカエデもちらほら見られ、あと1月もすれば渓流を美しく染めているだろうなと思われた。

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 9:00に数軒の手入れの良い庭を持った家の集まる坂下集落に到達した。ここでは川の畔に座って、ビスケットの朝食をとった。今回は予期しない長距離の迂回も覚悟していたため、荷物を軽くするためにコンロを積んでいない。残念ながら、朝のコーヒーを楽しむことはできない。

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坂下集落

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川縁で朝食

 このあたりから川の名称は小川内川に変わっている。しばらく川に沿った道をのんびりと歩く。このあたりの田んぼは、稲の収穫を終えて、はざ掛けをしているところがある。今どき手のかかるはざ掛けでの天日干しは珍しいだろうなと思ったら、無人販売所に新米が置いてあった。1.5kgとずっしり重いが、迷わず購入した。おそらく目の前の田んぼで収穫したはざ掛け米。自分の目で確かめたはざ掛けの、その新米を食べるという贅沢はなかなかできない。

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収穫を終えた田も目立ちはじめた

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はざ掛けで天日乾燥している稲

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無人販売所を覗いてみる

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おそらく目の前の田んぼで収穫された米 買うしかない

 そこから1kmほど歩いたところに水上村の街並みが現れた。水が良いからだろう。酒造所もある。家の建ち並ぶ町では、自転車で通りかかった中学生と思しき集団が元気よく挨拶してくれる。正しい日本の姿を見たようで、こちらの背筋も伸びる。

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水上村の市街地に入る

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メインストリートで中学生と挨拶を交わす

 診療所や小学校の並ぶ通りを抜け、球磨川にかかる橋を渡る。橋の下の球磨川は、川辺川と同じく美しい緑色の水に牛乳をこぼしてしまったような色調。きっと上流の石灰岩質のところを激流が削った結果なのだろう。東の方には市房山の堂々とした山が聳えている。

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水上村の診療所

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村立小学校のデザインも素敵だ

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球磨川は独特な色合い

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東の方角には霊山市房山が聳える

 球磨川を渡ると、湯前(ゆのまえ)町に入る。時計のある通りを過ぎ、湯前駅に到着した。湯前駅をターミナルとするくま川鉄道は、2020年7月豪雨で甚大な被害を受け運休中。線路は赤く錆び付いていた。

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湯前町のメインストリートに立つ時計台

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現在運行を休止しているくま川鉄道湯前駅

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赤く錆びた線路が悲しい

 駅からすぐそばの、歴史のありそうな商工会館の前を通り、湯前まんが美術館を覗いてみようと行ってみたが、ここも7月豪雨の被害を受けたようで現在休館中。11:30にふたたび湯前駅に戻って、湯前ではとびきり有名な徳丸のチャンポンを食べるために行列に並んで、本日の行動終了とした。 

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湯前商工会館

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湯前まんが美術館

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満員の徳丸に並んでちゃんぽんの昼食

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2020年10月4日 九州自然歩道 57日目 熊本県球磨郡水上村白蔵越~湯前町湯前駅 晴れ 気温27/9 距離17.1km 行動時間4:43 平均速度4.3km/h 23988歩