以前のエントリーにも書いたが、JRには大都市近郊区間という、東京、大阪、福岡、新潟、仙台の都市圏において一定のエリア内では乗車する列車や経路を自由に選択できるようにした制度がある。片道利用で、重複区間がなく、途中下車ができないなどといった制約はあるが、このエリア内ならば実際に乗車した経路にかかわらず最も安くなる経路で計算した運賃で乗車できるというものである。
JR九州のICカードであるSUGOCA利用に際して、それに類似した制度で、福岡近郊区間よりもはるかに広い区間に対して、「運賃計算の特例に使用する路線」として運賃計算上の「最短距離」に組み込める制度がある。ICカードを利用した場合は、福岡から熊本や大分を通過しても、最も安い運賃が適用になるというルールが適用されるエリアがあるのだ。しかも、特急券を別途購入すれば乗車ができるという夢のような制度である。これをテツ学的にはSUGOCA大回りという。
今週末は日曜に用事が入ってしまったために九州自然歩道を歩くことができない。休みが1日しかないと、トレッキング再開現場にたどり着いて、歩かずに戻っても、土曜のうちに福岡に戻ることができないという状態だからだ。ということで、やむなく今週末はSUGOCA大回りの旅に出てしまった。懺悔。
九州自然歩道に出かけるときと同じように4:30に起床。土曜になると目覚ましなしで4:30に目が覚めてしまう。シャワーを浴びて5:15に出発。今日はテントも寝袋も食料もないため装備は3kg足らず。いつもの1/4以下の荷重で、軽すぎる。荷重が足らないと体が前傾するような気がする。ならば水を3800mlほど積み込もうかと思ったが、あまりにばからしいので止めた。どうも週末に平地にいると調子が出ない。
トレッキングの時と同じように、福岡市営地下鉄西新駅5:36の始発に乗車し、博多駅に5:50に到着した。JR九州のみどりの窓口に行き、熊本9:09発別府行の特急券と、別府12:53発折尾行のソニック30号の特急券のみ購入した。窓口では「乗車券は?」と聞かれたが、「特急券だけで」と毅然と返した。最初に大回りをしたときには、背徳感から声が裏返ってしまったが、もう大回り3回の歴戦の戦士だ。どこからでもかかってこいである。
特急券を手に入れた後は、コンビニで朝食とおやつ、それからコーヒーを購入。いつもの山行きの時と異なり、カロリーや重量を気にしなくてよいから、好きなものを購入できる。山に持って行ったならば、圧縮のために粉々になってしまうようなポテトチップスでも平気で購入できる。一般の人はこんなことは考えることもないだろうなと思いながらおやつの品定めをする。
6:10に博多駅中央改札口でICカードをタッチし、大回りの旅が始まる。6:21に5番線に入線した鹿児島本線区間快速大牟田行に乗車する。先頭車両に乗っているのは私のほかに2人のみ。クロスシートの車内は空いており、快適に過ごすことができる。
二日市を過ぎたあたりで雨がパラついてきた。左の車窓には昨年登った太宰府竈門(かまど)神社の上宮のある宝満山(ほうまんざん)が見えてきた。
定刻どおり、6:58に鳥栖(とす)に到着した。鹿児島本線は鳥栖の前後でわずかに佐賀県内を走る。鳥栖を過ぎれば久留米になるが、そこは福岡県である。並行して走る西鉄大牟田線は頑なに福岡県内を走って大牟田まで行くのだが。
鳥栖駅前には駅前不動産スタジアムが見える。サッカーJリーグのJ1に所属するサガン鳥栖のホームスタジアムである。サガン鳥栖は2012年にJ1に昇格してから一度もJ2に転落したことがない。福岡をホームとするアビスパ福岡がJ1とJ2を行き来しているのに比べ、安定した成績で羨ましい。
鳥栖駅は鹿児島本線と長崎本線の分岐にあたり、交通の要衝である。鉄道全盛期の鳥栖駅の見取り図には当時は西日本一の規模であったとの記載がある。今でも長い連絡通路などに往時の面影が遺されている。
7:15ごろに入線してきた7:24発鳥栖始発の熊本行きの鹿児島本線の車両に乗車した。今度は古い国鉄415系の電車のクハ411だった。ロングシートのため、あまり車窓を楽しむことができない。残念だ。鳥栖から1時間半以上、あまり車窓を楽しむこともなく、本を読んで過ごした。
熊本には9:05の定刻に6番線に到着した。次の豊肥線は3番線から9:09発なのであまり時間がない。3番線までダッシュをしたら、入線していたのは別府行きの特急あそぼーい!だった。当日なのによく指定席が空いていたものだ。席は1号車の通路側だが、前方のパノラマシートの車窓からの景色もチラリと見えて、満足な席だった。
立野ではスイッチバックのために5分間ほどの停車がある。家族連れはほとんど外に出て記念撮影をしている。私もとりあえず車外に出て、駅名標の撮影をした。そして、2回目のスイッチバックの後は、カメラを携えた少年たちに混じって、分岐する線路の撮影をした。
その後は、熊本大地震で崩落した橋のかわりに新たに架橋中の阿蘇大橋を右に眺める。あそぼーい!もこのあたりは最大の勾配を迎えているようで、喘ぐように走っている。しばらく過ぎると阿蘇岳が右の車窓に見えてきて、ようやく勾配がほとんどなくなった。
内牧(うちのまき)駅を過ぎたあたりで、左の車窓の外輪山に見覚えのある光景が見えてきた。たぶん、外輪山の右の端ぐらいがかぶと岩だ。先月の9月6日にあのあたりを降りてきたなあと思いながら写真をパチリ。先月、菊池から外輪山を経て内牧まで下ったときには、かぶと岩から先の九州自然歩道は以前の水害で跡形もなくなっており大変な思いをしたが、終わってみれば良い思い出だ。
10:25に到着した阿蘇駅では多くのお客さんが下車をした。終点の別府まで行って、折り返しのあそぼーい!に乗ろうというのはよっぽど物好きだ。阿蘇から先は半分ぐらいの座席は空いており、車内は急に静かになった。そのかわりに、一眼レフを持った少年たちが前後に忙しく動き始めた。
そこからしばらくは田園風景を楽しみながら列車に揺られ、12:17に大分に到着した。ここでは4分ほど停車。
ここから先は、しばらく別府湾の風景を楽しみながら終点の別府には12:32に到着。別府の北に聳える標高1375mの鶴見岳の頂上は雲の中だった。
別府では特急のソニック30号に乗り換えだ。12:53の発車時間まで20分ほどあるため駅弁を探して購入した。郷土色のある弁当を買うことができて満足。ここからは弁当を食べながら車窓を楽しんで日豊本線を北上した。
ソニック30号は14:03に小倉に到着し、方向を変えて博多方面に向かった。小倉から先の停車駅は、黒崎、折尾、博多となっているため、折尾で鹿児島本線に乗り換えなければならない。
14:18に折尾の3番線に到着した。ひょっとしたら名物の東筑軒のかしわめし弁当の立ち売りがないかと探してみたが見つからない。別府では駅弁を食べたばかりだが、もし入手できたらお土産に買って帰りたかった。残念。
折尾からは14:36発の鹿児島本線快速に乗車して15:19に吉塚に到着した。
前回の大回りの際は吉塚の改札にICカードを触れた瞬間にゲートが閉じてあたふたしたが、今回は心の準備は万全。
今回も改札でICカードをタッチした瞬間に赤いランプが点灯してゲートが閉じたが、落ち着いて有人の改札口に行き、ICカードを出して「時間超過です。」と渡すと、「大回りやったんですね。170円引いておきます。」とニヤリとカードを返してくれた。「まったく、いい年して。」とでも言うように目が笑っていた。そういわれても、こんな楽しいことは止められない。「また、空席があったら乗せて下さい、JRさん。」と目で返して吉塚の改札を通過した。