今回の九州自然歩道トレッキングは、鹿児島県鹿屋市の市街地から高隈山系の縦走。距離が20kmを越えるほど長く、海抜数十メートルの市街地から1000mを越える尾根を数キロにわたって歩き、さらには標高差も結構あるタフなコース。土曜日の始発で福岡の自宅を出ると鹿屋市到着が10:30頃になるので、標高1000mの尾根の上でビバークになる可能性が高い。この季節に、しかも雨の天気予報となっている中で、そんな辛いことはしたくないので、金曜日に鹿屋に前泊とした。金曜夜に鹿屋にたどり着いて、鹿屋のバスセンター近くにある開業してから2年目という小綺麗なドーミトリーに泊まった。ドーミトリーというのには泊まった経験がないので興味津々。面白そうなので相部屋の標準コースで泊まってみた。店舗によって違いはあるだろうが、カプセルホテルのようなもので、リーズナブルで居心地もよかった。いい経験だった。
さて、本日はそのドーミトリーで5:00に起床して、顔を洗ってお湯を沸かしてサーモスに詰めてから、5:30に出発。愛想の良い店長さんが笑顔で送り出してくれた。しかしながら、今日は朝から雨だった。バスセンターの隣のスーパーマーケットで食料を購入して、上下の雨具とゲーターを装着しながら、6:00発のバスを待った。定刻2分前にバスが到着して、定刻ちょうどにバスセンターを出発した。6:08に前回のトレッキング中断地点の慰霊塔前交差点に到着して、6:10から行動を開始した。
日の出の時刻は7:10ごろで、辺りはまだ真っ暗。交差点からルートに従って北に向かう。まずは交差点から300mほど先の、特攻隊の戦没者の眠る慰霊塔にお参りしようと探すが、300mほど進んでも入り口が見つからず、何度か行き来して、小学校の校庭脇にあるのを見つけた。真っ暗な中で慰霊塔に向かって手を合わせて先に進む。雨は強く降っている。
6:32に国道269号線のトンネル前の交差点を渡ると、街路灯は少なくなり、足下もよく見えないようになってきた。雨の中を3kmほど歩き、6:57に大浦の集落で左折し、北にある高隈山系にまっすぐに向かう道を歩く。大浦の曲がり角には標識はなく、さして目立つ通りではないので、地図をしっかり見ながら進まないといけない。この曲がり角の商店が今回の縦走路の最後の自販機のある場所になる。
集落の中の道を10分ほど歩き、山にさしかかる手前で芝生の大浦公園に到着。ここにはトイレと水道がある。今日はあいにくのひどい雨で、ここでしばらく一休み。
大浦公園から先は林道岡元線に入る。きれいに舗装された林道で、針葉樹が両側に植えられている。雨はさらにひどくなってきた。何度かスイッチバックをしながら高度を上げていくが、景色は見えない。
7:40に農道との分岐が現れる。岡元林道の表示に従って、進路を右にとる。正面には高圧線が見える。7:54に飛行機のアイドリング音が聞こえてきた。音は次第に高くなり、姿は見えなかったが離陸したようだった。先週も8:00ぐらいに鹿屋航空自衛隊の滑走路から離陸した飛行機がいた。定時の朝の演習なのかもしれない。
しばらくは標識に従って高度を上げる。次の重要なポイントは非舗装の山道の入り口。雨の中を、地図を見ながら確認した。尾根を登るのが終わって、ほぼ平らな道の右カーブが300mほど進んだところから山道が始まるはず。ここかと思ったところはものすごい藪。雨の中をこの藪漕ぎはきついなと、絶望的な気分で舗装路の先をチラリと見たら、30mほど先に九州自然歩道の標識があった。早まらなくてよかった。それでもなかなかハードな山道で、8:10から山道を登り始めたが、250mほどの標高差の直登のコースで、体力をかなり消耗した。
1時間ほどの山道との格闘が終わったときにはヘトヘトで、9:13に舗装路に抜けたときにはホッとした。しかし、まだまだ雨は容赦なく降り続く。勾配の緩やかな舗装路を2kmほど歩き、9:37にテレビ塔下登山口との標示のある駐車スペースがいくつかあるポイントに到着した。ここではしばらく休憩。レインコートの下に着込んだダウンジャケットはまったく不要なぐらい汗をかいたので、畳んでザックの中にしまい込んだ。
テレビ塔下登山口駐車場から右に300mほど舗装路を上ると、カウンターの設置してある登山口に到着した。ここで時間は9:47。カウンターを一つ押して、ステップのつけてある山道を一歩一歩登り始めた。さすがに大隅半島では随一の人気の山らしく、整備状況は良好で、要所要所に鎖やロープが丁寧に設置してある。
10:06に放送局の中継装置が多数設置してあるテレビ塔に到着した。ほんの一瞬だけ雲に切れ目ができ、これから登る高隈山系の稜線を遙か向こうまで見ることができた。おそらく一番向こうのピークが本日のメインイベントの大箆柄岳だろうなと思ったが、いやになるぐらい遠くに見えた。
テレビ塔を通過した後、再び雨が強くなり、視界は悪くなった。足下は滑りやすく、気をつけて登らなくてはならない。8合目を10:53分に通過し、11:06に9合目を通過した。だんだん足が上がらなくなってきた。最後に力を振り絞って、11:23に御岳(1182m)頂上に到着した。
御岳頂上は360°の眺望のあるところで、晴れていればきっと素晴らしい眺めのあるところ。残念ながら今回は雲海だけを眺めることができたが、山岳信仰の山らしく荘厳な雰囲気を味わうことができた。
御岳の山頂は風が強く、長くは滞在できなかった。11:33に行動を再開し、稜線を北に伝って小箆柄岳、大箆柄岳と向かう。雨はほぼ止んだがガスがあり、視界は得られない。山道の笹に付いた水滴は容赦なく身体を濡らす。12:08に妻岳への分岐を通過し、12:41にスマン峠に到着した。コースタイムよりもずいぶん遅いペースだが、ここから大箆柄岳まで1時間と表示があるのを見て安心した。
スマン峠での小休止の後、笹の山道を進み、13:08に小箆柄岳への分岐点に到着した。今日はなぜか足が重く、先に進まない。小箆柄岳まで15分と書いてあるが、九州自然歩道のコースでもないことから、今日はこの小ピークはスキップすることにした。
背丈を超えるような笹の茂みの中の道をひたすら歩く。そういえば大箆柄岳の「箆」の字はまったく読めなかったが、漢検準1級の難読字だった。音読みがヘイ、訓読みがへら、の、すきぐし、かんざし。もとの意味は、竹片を薄く削ったへらや、弓矢の矢軸に使われる矢竹のこと。高隈山系の縦走路にはこの矢竹と呼ばれる笹が多いからだろう。これをスズダケと呼ぶものもどこかで見た。ちなみに、竹と笹は同じイネ科だが、成長すると外側の皮がとれるのが竹で、より小型で成長後も竹皮がとれないのが笹という違いがある。
そんなことを考えながらガスの中を進む。何度も立ち止まり、息を整える。大腿筋がつってきた。フルマラソンに例えたら35kmあたりの消耗量。息を切らして、ようやく14:29に大箆柄岳(1237m)のピークに到着した。残念ながらガスのために眺望はゼロ。こんなに苦労して到達したのに残念だ。地図を確認すると、ここから北の垂桜登山口までのコースタイムは2時間半。下山路のくせに長すぎるではないかと文句も言いたくなる。ゆっくりしていると日が落ちてしまいそう。山頂での写真を撮り終えると、休む間もなく下山を開始した。
上りに比べると、下山が楽かと思いきや、ぬかるんだ道が滑りやすくまったく楽ではない。背中の荷物が、段差を下りるたびに大腿四頭筋にこたえる。滑る斜面で手をつくたびに、体力を奪われていく。コースタイム20分の杖捨祠には10分遅れの14:58に到着した。
ここから先も、山道はぬかるんだ火山灰の台地にコンパスで線を書いたような、えぐれた滑り台のような状態で続く。雨をたっぷり含んだここは、海の中道海浜公園プールのウォータースライダーなみの摩擦係数。勾配のあるところは滑って転倒しないように気をつけて下りる。眺望のひらけた5合目展望台には16:00に到着した。ガスが一瞬なくなり、正面には七岳が見えてきた。
ここから先は傾斜が少し楽になるが、滑りやすい道であるところは変わらない。しだいに広葉樹の背丈が高くなってきたかなと思った頃に、ようやく垂桜登山口に到着した。16:58だった。もう、ヘロヘロ。一昨年、福岡マラソンに出たとき以上の消耗だった。
登山口からは林道を歩く。林道は楽だ。ときおり日差しも差し込んできて、気分も楽になってきた。上下ともに雨具はつけたままで、ゲーターも装着しているが、靴の中は雨で湿っているのが分かる。ついさっきまでは、そんなことを感じる余裕もなかったが。
太陽は錦江湾にずいぶん近づいてきた。夕刻の柔らかい日差しに照らされた林道の風景を楽しみながら3kmほど歩いて、18:00に垂桜集落に到着した。
今日の日の入りは17:45で、すでに太陽は畑の向こう側に隠れてしまっている。圃場が拡がるこのあたりには、野営に適した場所が見つからず、次の大野原集落に向かう。ヘッドライトをつけて大野原集落を歩いていると、町外れに大野原小中学校跡地があった。芝生の校庭が快適そう。時間は18:40。もう真っ暗だ。今日はここで行動を終えることにして、テントの設営を開始した。
2021年2月6日 九州自然歩道 81日目 鹿児島県鹿屋市今坂~御岳~大箆柄岳~大野原 雨のち曇り 気温14/3℃ 行動時間12:24 距離28.5km 47347歩
往路交通:西新福岡市営地下鉄-博多九州新幹線-鹿児島中央鹿児島交通バス-鴨池港垂水フェリー-鹿児島交通バス-鹿屋(前泊)
(当日朝)鹿屋6:00鹿児島交通バス-慰霊塔前6:08