今朝は遠くの方で巨人が振り回すブーメランの音で目が覚めた。風力発電用の風車は300m以上離れているというのに、耳障りな音だ。夜半にテント近くにイノシシが集餌のために来ていたようだが、ライトを一瞬点けたらその後は静かになった。これとは対照的に、風車を静かにする方法はないようだ。
本日の行程には余裕があるため、テントの中でコーヒーを淹れて、香りと苦みをゆっくりと楽しんでから撤収を開始する。神社のメインテナンスに使っている広場のようだが、過ごしやすい公園だった。
7:42に行動開始。林道を下っていく。すぐに広い牧草地が見えてきた。牧草地の中で数回右左折をするが、そのつど標識が案内してくれる。ときおり大隅観光開発の標識が異なった方向を示しているが、終着地は同じようだ。電波が入り始めたので、天気予報を確認すると、午前中は1時間ごとに降水確率が30%から60%を行き来するような状況。時間には余裕があるので、雨に濡れて歩くのは避けたい。
人家の点在する旭ヶ丘の集落を抜け、8:21には昨日に大隅湖で離れた国道504号線に再び合流した。この道路には歩道はなく、交通量、それも大型のダンプカーの交通量が多く危険。大型車が横を通るたびよろけるほどの風圧を感じる。
5分ほど歩いた道路脇にブルーベリーの観光農園があった。木製デッキの付いた建物の横には、ブルーベリー畑が拡がっている。現在はシーズンオフのようだが、品種を比較しながら、自分で摘んだブルーベリーを食べてみたいものだ。
高速で通過する自動車の脅威にさらされながら、さらに国道504号線を進む。9:00頃に道路の正面が開け、海が見えてきた。カルデラの外縁の広い台地の端にさしかかってきたようだ。
道路が右にカーブを描きながら降下していく丘の上に、海に面した緩いカーブを描いた魅力的な建物がチラリと見えた。美術館のような作りのガラス張りのファサードが、こちらにおいでと誘うよう。何の建物か気になって坂を登って見に行ってみた。どうやら廃業した病院か老健施設のようだ。看板は撤去されているが、手すりの付いた白いベッドが窓から見える。埃の溜まり具合から、閉鎖されて5年ほどか。建物の正面には広大な太陽光発電所が拡がっている。左を見ると、錦江湾と、桜島が噴煙を出しているのがよく見える。この素晴らしいロケーションに加えて、建物自体の芸術的な造作から、安かったら買ってもいいかなと一瞬思ったほど(ウソ)。
海が見えるカーブを右に曲がると、ふたたびスギの植林の中のまっすぐな道路になる。9:20にラーメン大海を通過。ここまでの距離は6.1km。現在の標高は395mと、まだ台地の上にいるのが分かる。朝からラーメンという気分ではないが、店の中には割烹着で働く人の姿が見えたので覗いてみたら、なんと県外者は入店不可だった。仕方がない。店の外には無人の農産物販売があったので、ザックを下ろして小休止。温州みかん系の柑橘が安くて美味しそうなので、購入してザックに詰め込んだ。
ここからは、左手に陸上自衛隊の演習地の草原を見ながら進む。道路は真っ直ぐで、歩道はなく、徒歩には適していない。ふくふくふれあい館という農産物販売の店舗を右手に通過して、9:48に福山町の牧之原交差点に到着した。正面の山には、「フクヤマ」の文字が花文字で描かれている。もっとも現在は開花していないので、ただの木だが。後で解説を見てみたら、このフクヤマの花文字は日本最大の大きさとのこと。牧之原交差点にはコンビニがあるので、コーヒーとサンドイッチの朝食とした。いつも思うが、コンビニは、神だ!
10:10にコンビニを出て行動再開。少し寄り道をして、フクヤマと描かれた山の頂上である惣陣が丘に登ってみることにした。かつて肝付氏と対峙した島津氏が本陣を置いた場所で、登り口には自動車が20台ほど停められる駐車場が設置してある。駐車場から手すりの付いた急な階段をゆっくりゆっくり登り、15分ほどで惣陣が丘の484mの頂上に到達した。景色は文句なし。桜島が正面に見え、福山の町も一望できる。晴れていれば霧島の山地も見えるはずだが、今日は雲に隠れている。
惣陣が丘の頂上は風が強いのでそそくさと退却。丘を下りて10:40から国道504号線から分かれて、おそらく旧道であろう九州自然歩道に進む。入口には、6km先通行止めの表示があるが、途中に3か所ほどエスケープ路があるのが地図で確認できるので先に進むことにした。舗装状況は良好だが、両側に針葉樹が植林してあるため眺望はない。ときおり、かなりの急斜面にスギが植えられているのが見える。こんな斜面によく植えたものだなと感心する。
この林道は全般に緩い下りで、身体負荷は軽度。切り通しや針葉樹林の中を気持ちよく進んでいく。11:52に林道の斜面に落差のある滝が見えた。ここでザックを下ろし、さきほど惣陣が丘で食べたミカンでベトついた手を、滝の水で洗う。滝の水しぶきが身体にかかるなと思ったら、滝ではなく雨が降り出していた。ザックにレインカバーを掛けて、再び歩き始めた。
木々の間から錦江湾が見えてきた。ちょうど正午となり、学校からと思われるビッグベンの鐘が鳴り始めた。12:33には工事現場を通過したが、工事はほぼ終わっており、徒歩ではとくに問題なく通過できた。結局、エスケープ路を使うこともなく、12:45に亀割峠に到着した。
亀割峠ではさらに強く雨が降り始めた。屋根のあるところはないが、道路脇の給水ポンプの施設のようなところに階段があったため、腰を下ろして休憩とする。サーモスのお湯でカフェラテを作って、牧之原のローソンで購入したパンの昼食とした。林道から亀割峠に出た後は、国道269号線に合流する。交通量は多い。
カフェラテを飲み終えたころに雨が止み、13:00に行動を再開した。亀割峠からはすぐに高度を下げ、13:15に脇元、13:24に敷根集落に入る。ここまで国道269号線を歩いたが、歩道がなく、あまりに交通量が多いため、集落を海まで抜け、海岸線を歩くことにした。
国分敷根の海は、錦江湾の最北端に当たる静かな海だった。波の音は聞こえず、海岸のゴミも少ない。海岸線は美しい。堤防に沿って歩くが、菜の花や綿花が植えられていた。ここは河口に当たるようで、遠浅の海が拡がっている。
13:51に検校橋に到着した。橋の近くには、中華料理屋や定食屋がある。あまりお腹は空いていないが、トレッキング中には食べられるときに食べておく習慣が形成されている。中華料理屋に入り、五目焼きそばとチャーハンという明らかにオーバーカロリーの昼食とした。
120%満腹の状態で14:30に行動を再開し、検校橋を渡って海岸沿いに進んだ。14:50には今日の宿泊地と予定している国分キャンプ海水浴場に到着した。ここは、芝生のグラウンドと松の木が植えられた居心地の良さそうなキャンプ場。正面には錦江湾の向こうに桜島が見える。とりあえず、桜島を見ながらコーヒーで一服。コーヒーの苦みで、満腹の膨満感がいくらか緩和するような気がする。
周囲には車で来た数人の方が機材を運び込み、すでにテントを設営している。自分もザックを下ろし、テント設営を終えた方に聞いて、少し離れた場所にあるキャンプ場の管理事務所に申し込みに行った。管理事務所で申込用紙に記入していると、担当の方から、現在は他県の人間はキャンプできないと非情な宣告。ああ、神は容易には安寧な日を与えてくれないようだ。
2021年2月12日 九州自然歩道 84日目 鹿児島県霧島市福山町狐ヶ丘~霧島市国分敷根 曇り 気温16/10℃ 行動時間6:43 距離21.3km 34437歩