とりあえず、歩くか。晴れた日は星空の下で寝るのもいい。

週末の九州自然歩道のトレッキングや日常の雑感です。英語版のトレッキングログもこちら https://nayutakun.hatenadiary.com/  で公開しています。

2021年2月28日 九州自然歩道 87日目 宮崎県えびの市えびの高原~韓国岳~大浪池~鹿児島県霧島市牧園町硫黄谷温泉 大浪池の女神は雨の中を歩いた旅人に一瞬だけ微笑んでくれた

 昨日は、霧島神宮から高千穂嶽道(おたけみち)に入って、県道104号線、県道1号線と、ほぼ舗装路のみを歩いてえびの高原エコミュージアムセンターまで進んだ。一日中強い風が吹いていたが、幸い雨はほとんど降らず、それなりに霧島の山々の風景や噴気の漂う山歩きを楽しむことはできた。

 ゴール地点のセンターからは、霧島連山周遊バスで麓の丸尾温泉まで下りて、暖かい宿で一晩過ごした。夜半も風は吹き続け、宿が揺れるほどであった。そして、今朝は雨。風も昨日と変わらず強い。

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丸尾から霧島連山周遊バスでえびの高原まで引き返す

 6:00に起床し、朝食にはご飯を2回おかわりして、7:55に雨具を着けて宿を出た。丸尾温泉のバス停を8:30に出発する霧島連山周遊バスで、昨日の離脱地点のえびの高原に向かう。バスの乗客は昨日同様、自分一人。いつもながら、地方ではバスに乗るたびにバス会社の経営のことが気にかかる。バスはつづら折りの急坂を喘ぐようにして上り、ときおり強風で車体が揺れる。

 9:00にえびのエコミュージアムセンターに到着した。雨は横殴りに吹き付け、霧で周りは見えない。とどめには、本日の風速20mの表示。センター内には登山客20名ほどが雨具や足元の支度をしているが、みな誰が最初に出発するのか牽制し合っているかのよう。

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えびのエコミュージアムセンターに到着

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横殴りの雨と唸りを上げる強風

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本日も20mの強風の予報

 センターのレンジャーさんに韓国岳(からくにだけ)の状況を尋ねるが、本日はあまりお勧めしないという反応。霧の時には、韓国岳の山頂から三方に分かれる下山路を間違えて予期せぬ方向に進む人が多いとアドバイスされる。30分ほど経過したところで、団体の登山者と思われる方たちが、リーダーの指示に従って準備体操を始めた。それを横目で見ながら、再度地図を確認する。韓国岳の頂上までは2kmほどの道程。ザックに付けたレインカバーに緩みがないか確認し、帽子が飛ばされないようにあご紐をキュッと締めて、9:54にエコミュージアムセンターのドアを出た。

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センターを出た瞬間によろけてしまった

 外に出た瞬間に、いきなり吹き付ける風で身体がよろめく。先を進む団体は南に進路をとり、韓国岳には向かわないようだ。さて、どうしよう。不安はあったが、思い切って韓国岳に進むことにした。危ないと思ったら引き返そうと心の中で呟いて。

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韓国岳登山道に進む

 韓国岳登山道はさすがに人気の山だけあって、よく整備されていた。最初はどこまでも舗装されたコースが続くかのような気がした。風雨は強いものの、松林の中の道を快適に進むことができる。舗装部分は途中でなくなったが、登山路ははっきりしており、多少のガスでも間違える恐れはない。勾配の強いところには階段が付けられている。順調に進み、10:20には硫黄山火口展望所に到着した。ここからは山体全体から吹き出る噴気が眺められるはずだが、本日は残念ながらガスで何も見えない。風向きが逆のせいか、硫化物の臭気も感じない。

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黄山火口展望所に到着

 この先は稜線に入り、いよいよ風が強くなってきた。帽子のあご紐をもう一度きつく引っ張る。唸りを上げる風の音は、山と共鳴するように響き、不気味だ。10:33に3合目に到着した。登山口から800m進んでおり、残りの距離は1300m。さらに5分ほどで4合目に到着した。標高は1450m。このあたりで森林限界を超え、風が何のクッションもなしに直接吹き付けてくる。しかし、身体が飛ばされるほどではなく、危険とまでは感じなかった。

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3合目を通過

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4合目を通過

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風はいよいよ強い

 依然として登山道ははっきりと目視でき、不安はない。10:47に5合目、10:54に6合目を通過した。標高は1570m。案内板には眼下に拡がるはずの美しい風景の写真が提示されているが、今日は真っ白な雲の中。写真を眺めながら、気分だけ味わいながら、サーモスのお湯をコップに半分満たして、喉の渇きを癒やしてから先に進むことにした。

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5合目を通過

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ますます吹く

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こんな景色だろうと頭で念じて

 ここから先も、道標が目立つところに設置されており、コースに間違いがないことが確認できる。ところどころに木の柵が現れ始めた。柵の先は見えないが、崖になっているようで、火口に進むのを防ぐためかもしれない。この辺りの登山道にも難しいところはまったくなく、雨と風さえなければ、よっぽど楽しいだろうなと思える。

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登山道の状態は良好

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8合目を通過

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木の柵が現れる

 11:11に9合目を通過したが、ここからは風の音が変わり、火口の縁近くを進んでいるような様子だった。ただし、ガスのために正確には地形が分からない。9合目から先は岩の割れ目を伝うように進んで、11:18に韓国岳の1700mの山頂に到着した。

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9合目を通過

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岩の割れ目を探して歩く

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頂上に到着

 ここが霧島連山の最高地点。到達できてよかった。天気がよければ古代の大噴火で吹き飛ばされた山頂部の火口が正面に現れるはずだが、今日は何の眺望もなし。残念。頂上はさすがに猛烈な風が吹き付けるので、山コーヒーをする気分にもならず、帽子やレインカバーが吹き飛ばされないうちにと、そそくさと下山することにした。

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この先に大きな火口があるはず

 センターのレンジャーさんから注意されたとおり、ガスのために山頂からの下山路は見つけにくい。まずはGPSで位置を正確に把握し、分岐点を探しながらゆっくりと歩を進めた。山頂付近は風を遮るものが何もないので、立ち上がるとよろけてしまう。岩陰に隠れておき、風が息を止めた瞬間を狙ってそろそろ進む。しばらく進むと、三方への分岐の道標が見つかった。次の目標地である大浪池(おおなみのいけ)へのコースの踏み跡も容易に見つかった。すぐに遙か下の方まで連なる木道が現れた。こんな山頂近くまでよく整備してくれたものだ。晴れた日にズーッと先まで続く木道を眺めることができたら、どんなに感動しただろうか。

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慎重に下山路を探す

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下りの木道が見つかった

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標識もOK

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まさに、天国への階段

 ところどころ木道が途切れるところもあったが、この先も標識は適度な間隔で設置されおり、心配なく進むことができた。高度を下げるにつれて、登山道の周囲に樹木が増えてきた。韓国岳から500mほども進んだ辺りからは、直接吹き付ける風はずいぶんと弱くなり、周囲の木々の上を過ぎる風が唸りを上げるだけに変わっていった。登山道の整備状況はどこまでも良好だった。ただ、雨に濡れた木道は滑りやすく、2本のストックを交互に動かし、転倒しないように気をつけて高度を下げていった。

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素晴らしい木道が続く

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標識も

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 下山を開始して50分ほどの12:05には、大浪池の北端に到着した。ここでも残念ながら眺望はなし。ここからは大浪池を東回りと、西回りに周回する道に分かれる。分岐点のすぐそばの韓国岳避難小屋をのぞいてみたら、丸太でできた小屋がとても快適そうなので、ここで小休止とした。サーモスのお湯でカップラーメンをつくり、おにぎりといっしょに昼食とすることとした。

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ほどなく大浪池に到着

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避難小屋の標識が目の前に

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中は広くて清潔

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昼食にした

 昼食の後は12:41に行動を再開。ここからは大浪池の東回りコースを選び、進み始めた。周回コースの整備状況も素晴らしかった。こんな山中なのに、見事に大きさを揃えた石畳がどこまでも整備されている。ところどころに池を眺めるためのビューポイントがあるが、残念ながらどこからも池は見えない。風の音が止んだときに、鳥の声が聞こえるだけだった。

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東回りで大浪池を周回

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周回路も素晴らしい

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 13:38に大浪池の南端に到着した。ここでは登山道から登ってきた数名の登山客が残念そうに池を眺めていた。大浪池周回路を歩いている間に雨はあがっていたが、池の周囲にはまだ深い霧が立ちこめていた。大浪池を前にした岩に腰を下ろして一休みしていると、霧がほんの少しだけ晴れて、青い影が霧の向こうから透けて見えてきた。目を凝らしていると、しだいに目の前に青い池が拡がってきた。ほんのわずかな時間、湖面全体が姿を現し、ふたたび霧がゆっくりと池を隠していった。ここまで雨の中を歩いたご褒美に、大浪池の女神が一瞬だけベールを上げて顔を見せてくれたような気がした。

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大浪池の南端部で小休止

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うっすらと青い湖面が見えてきた

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ほんのわずかな時間だけ池を見ることができた

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再び霧の中に隠れていった

 大浪池の青い湖水を目に焼き付けた後、13:45から下山を開始した。下山路も深い山の中とは思えないほどのきれいな石畳。まるで有名な神社の奥の院に続く参道のよう。石畳を歩いていると、ときおり木々の間から太陽の光が差してきた。気温が上がってきて、レインコートの下に汗がにじみ始めた。上ってくる登山客に道を譲りながらのんびりと進み、14:14に大浪池登山口に到着した。

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下山路も素晴らしい状況

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ときおり晴れ間がのぞく

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大浪池登山口に到着

 登山口にはトイレとベンチが整備されていた。ここで、レインコートを脱いでから、コーヒーを淹れて一休み。ときおり太陽が顔を出すものの、霧のような細かな雨が降り続いている。周遊バスの時間は16:06。まだ2時間近くある。せっかくなので、バスルートに沿って歩くことにして、14:37に大浪池登山口を出発し、周遊バスの終点である丸尾に向かって歩き始めた。

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きれいなトイレが整備されている

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周遊バスのバス停もある

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本数は少ない

 県道1号線の舗装路を東に進み、15:00に新湯展望台を通過。ここは新燃岳が正面に見えるビューポイントだが、今日はほとんど何も判別できない。道路脇に東京大学の名が刻まれた地測点が設置してある。これは山体膨張等を精密測定するためのものだろうか。

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県道1号線を東に向けて出発

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新湯展望台が現在は新燃岳に最も近い地点

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基準点が設置してある

 15:05に新湯の分岐点に到達した。ここを左に曲がれば県道104号線で霧島神宮や高千穂河原に向かうが、県道1号線の続く右に折れて丸尾温泉に向かう。福岡に帰るためのバスは丸尾温泉経由であるのと、この先の道沿いには、昨日乗車した霧島連山周遊バスの車窓から、激しく噴気を出している地面が何カ所も見えたので、ぜひそこを歩いてみたかったからだ。

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新湯分岐点から県道1号線を丸尾温泉に向かう

 分岐点からは勾配の強い下りが続く。ヘアピンカーブをいくつか曲がり、15:30に明礬(みょうばん)温泉に到着した。ここは建物の礎石部分だけが残り、旅館はすでに姿を消している。谷間の地面からは噴気が出ており、温泉地だったことはすぐに分かる。

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ヘアピンカーブを曲がって下りていく

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晴れ間が見えたり、雨が降ったり、変化が忙しい

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虹も出てきた

 さらに県道1号線の急登を下り、カーブを3つほど曲がると、その先の道路の法面から噴気が湧き出ている。風向きによっては道路の先が見えなくなる。

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道路の法面から激しい噴気が

 15:50に霧島いわさきホテルを通過した。ここはかつての名門ホテル。数棟のホテルが建ち並び、大きなホールらしきものも見えるが、現在は休館中。巨大なホテル群が夢の後のような様相。鹿児島交通バスは岩崎グループなのだろう。バスのターミナルとしては現在も使用されており、回送バスが駐車場に何台も停まっている。

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かつての名門ホテルも閉館中

 昨日、周遊バスの車窓からは、この先に道路の脇からすごい勢いで噴気の出ているところがあった。ぜひそこを見てみたくて、さらに先に進んでみた。谷全体がいまにも噴火しそうなほどの噴気を発しているところがあった。ここは硫化ガスの臭いがひどく、立ち止まったら危険と感じるほど。

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道路のすぐ横からものすごい勢いの噴気

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 もう少し先に進み、16:05に硫黄谷温泉の霧島ホテル前に着いた。霧島ホテルに続く道の入り口にバス停とベンチがある。時刻表を見ると、バスの通過時刻は16:21。ここで行動を終了し、山の上から霧島連山周遊バスが下りてくるのを待つことにした。

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九州自然歩道87日目 えびの高原〜韓国岳〜大浪池〜硫黄谷温泉 雨のち曇りときどき晴れ 18/9℃ 行動時間6:10 13.4km 28105歩

復路 硫黄谷16:21霧島連山巡回バス-丸尾1625/1719鹿児島交通バス-国分駅1815/1814日豊本線鹿児島本線鹿児島中央1852/1951九州新幹線みずほ614号-博多2107