今回の九州自然歩道トレッキングは宮崎県の綾町からの再開。福岡から宮崎への交通はかなり時間がかかり、当日の朝に福岡を出るとトレッキングの再開地への到着は夕方になってしまう。ということで、金曜日の午後は仕事を休み、宮崎市内に前泊とした。
宮崎は学生の時から何度も訪れていた思い出の多い街。ところが少し辛いことがあって、20年ほど前から訪問を避けていた。辛いことというのは、学生の時にもっとも仲のよかった宮崎出身の同級生が20年前に亡くなってしまったこと。葬式と一周忌の際には訪れたのだが、その後は辛くてしばらくはどうしても行くことができなかった。
10年ほど前からは少し心の傷が癒えてきて、この頃は毎年、機会を見つけて宮崎を訪問している。今回も宮崎駅に到着してから、宮崎郊外に向かうバスに乗って北東に8kmほどのところにある霊園まで会いに行ってきた。彼は冷たい石の中に眠っているのだが、手を当てて声をかけると学生の頃のさまざまな思い出が溢れてくる。
さて、当日の土曜日は前泊したホテルで朝食をとり、7:20に出発した。天気は雨。宮崎の中心地である橘通から7:41発のバスに乗り、8:35に綾町の中心地に到着した。
綾町のコンビニで、昼食用のおにぎりと夕食のおかずを購入した。支払いのときにポケットの中で何やら硬いものが指に触れた。ハテと思い、取り出したらホテルのルームキーだった。チェックアウトの際に返却を忘れてそのまま来てしまった。あわててホテルに電話をかけて、郵送ですぐに送り返すことにした。冷や汗をかいた。
そういえば、小学校のときに読んだ学研の「科学と学習」に、ホテルのカギが道端に落ちていたらそのままポストに投函したらホテルまで届けられるようになっている、というような逸話が書いてあったように記憶しているが、記憶違いだろうか?今回ポケットの中に入っていたルームキーにはヒントが少なくて、投函しても届けられることはなさそうだ。古き良き時代の話なのだろう。
さて、コンビニ前の郵便局にレターパックを投函して、9:06に行動開始。せっかく宮崎に前泊したのに行動開始が遅くなってしまった。綾の市街地を通り、綾北川に沿ってしばらく上流に向かって進む。雨はいやになるぐらい降っている。
9:40に市街地の北の外れの小田爪橋を渡り、9:43に前回離脱した九州自然歩道の小田爪集落の分岐点からトレッキングを再開した。
しばらくはゆったりとした上りの舗装路を歩く。自動車の交通量は少なく、雨さえなければ快適な道。
峠近くにさしかかったところにスギの伐採をしている現場があった。30年から60年ぐらいのものを収穫しているようだ。長さを揃えた材木を、重機のオペレーターが器用にトラックに積み込んでいる。材木は樹皮があらかた剥いである。気になったのは、伐採地の斜面が重機で大きく削り取られていること。収穫した木材を運ぶための道をつける必要があるからかもしれないが、土が剥き出しになって谷川に流れ込み、近くの法面が崩れている。これまで見てきた伐採地は、斜面の表土は残したままにしておき、収穫後には早々にスギの苗木が植えられていたが、この斜面に苗木は植えられるのだろうか?専門外のことではあるが、少々乱暴に感じる伐採の流儀が心配に思えた。
10:16に久木野々の集落を通過。雨はさらに強く降っている。ジワジワとつま先に雨水が浸入してきたのがわかる。ゴアテックスのシューズの上に、レインパンツを着けて、ゲーター(スパッツ)まで装着しているが、どこからともなく水が染み込んでくる。
10:42に法ヶ岳(ほっけだけ、法華嶽とも)集落に到着した。雨があまりに強いので、商店の軒先でしばらく小休止。商店とはいっても営業はしておらず、自販機のみが稼働している。民家の軒先に着生蘭がぶら下がっている。そういえば宮崎はランが有名だったなと思い出す。
しばし休憩の後に、雨の中を再び歩き始める。集落を100mほど進んだあたりで、標識に従って舗装路から右の山道に折れて、草をかき分けて進んでいく。倒木が多く、整備状態が心配になる。こんな日に藪漕ぎをしたら、身体中だけでなく、ザックの中までビチョビチョになってしまう。しばらくヒヤヒヤしながら倒木を越えて進んだが、ほどなく前が開けて、法華嶽公園に出た。
公園から小さな橋を渡ろうとすると、川下からシャボン玉が飛んできた。どうしたかと見てみると、男性が長い竿を振ってしきりに大きなシャボン玉を飛ばしている。男性に聞いたところ、対岸のカフェで地域の方の結婚式があり、ウェルカムシャボン玉を飛ばすように頼まれたとのこと。男性は宮崎近隣ではよく知られたシャボン玉おじさんで、いろいろなところのイベントで飛ばして、みんなを幸せな気持ちにしているよう。15分ほどいろいろお話を聞かせてもらい、自分も竿を振らせてもらった。きれいで大きなシャボン玉ができる秘伝のシャボン玉液のレシピも教わったので、いつか自分でも飛ばしてみようと思っている。
シャボン玉おじさんにお礼を言って、11:22に行動再開。やや傾斜の強い舗装路を進んでいく。山中の分岐から先に進むと、柵の向こうにコンクリートの蓋のされた水路が現れた。柵に沿って進むと、その道は行き止まりになった。
周囲を見渡すと、コースを示すのであろう赤いテープが見える。ここからはテープを頼りに藪漕ぎを開始。ほんの100mほどでコースと思しき山道に戻ることができたが、雨の日の藪漕ぎは心身ともに消耗が激しい。
山道に復帰したと思ったら、その先には谷川が流れていた。橋はない。地図を確認すると、ただ真っ直ぐ線が書いてある。徒渉せよということだ。ほんの3mほどの谷川だが、これ以上靴は濡らしたくない。滑りやすい石伝いになんとか対岸にたどり着いた。
さらに200mほど進むと、今度は崖を下った先に幅10m近い川が流れている。折からの雨で水量もある。ここは諦めてズボンを膝の上までまくり上げて靴を脱いで徒渉しようと覚悟を決めた。岸の木の上で靴を脱ごうと前傾した途端に、重いザックに耐えきれずに水中に滑り落ちた。泣きたくなった。もう、やけくそでそのまま膝上まで水に浸かり、対岸まで歩ききった。
右に滝の水が落ちる斜面を登り、12:10に八重尾集落の舗装路にたどり着いた。雨宿りできるようなところはなく、そのまま歩き続けた。人生って、こんなものかなと思いながら。
200mほど舗装路を進み、今度はコンクリート舗装の山道に右折する。だんだん道が怪しくなってきて、最後は手堀りのようなトンネルとなった。地図を確認したが、このまま進んで間違いはない。正直に言って、かなり不気味だが、川の中で転倒した自分には怖いものなど何もない。鼻歌を歌いながらズンズン進んで、すぐに向こう側に出ることができた。
ここから先も、ところどころ怪しくなりそうな道を進む。12:38に本日3回目の渡渉地点を通過。ここは濡れずに渡ることができたが、すでにびしょびしょなので感慨はない。徒渉地点から斜面を登ると、この先は明るい光景が広がり、少しホッとした。ここまで歩いてきたような、枯れ葉の積もった湿った道はヒルが好んで生息するところとされているので、怖いのである。なんとなく、ズボンの中が痒いような気がして心配になる。地元の方から聞くと、明るい乾燥したところにはヒルは少ないそう。
13:30に南河内のひらけた植林地を歩いていたら、その先の道路脇に真っ赤なツツジがずらりと並んで、目を楽しませてくれた。人家は1軒しかないが、100mほどツツジの生け垣が続き、さらに右に折れてその先にもまだまだ赤い花をつけている。あの家の方が育てているのかなと、何となく嬉しい気持ちになった。
南河内からは籾木(もみき)川を迂回するように進み、この先の籾木集落を13:50に通過。集落の先の三叉路から左折して、北にまっすぐ籾木ダムに向かう。
籾木ダムの堰堤下に到着したが、道はここで消失した。引き返そうかと思ったら、斜面に真っ直ぐ伸びる踏み跡があることに気がついた。自分と同じようにここを進もうと思った人間がいる。心強くなり、堰堤の草地をときどき足を滑らせながらもズンズン登り、14:00にダムの上に到着した。
ダムは碧色の水を湛えていた。ルアーフィッシングの男性が2名、雨の中で熱心に竿を振っていた。ダムの脇の舗装路を先に進む。
圃場にツルツルの幹の樹木が植えてある。葉の形はカキのようであるが、幹はサルスベリのように樹皮がなく、なんとなくマダガスカルのバオバブを連想する。カキの幹の表皮はガサガサで、剥がれ落ちやすい。これは子供の頃に家の庭に植えられていた柿の木に登っていたからよく憶えている。気になってツルツルの幹の栽培植物について調べてみたら、カキの木は樹皮の中に病害虫が隠れて越冬するので、収穫を終えたカキの幹の樹皮を削り取る管理の方法があるとのこと。これで納得。
14:19に籾木池の北端に到達し、ここからは山道に入って高度を下げながら田野の集落に近づく。雨は少し小降りになっており、家の前で傘を差した女性と挨拶を交わす。傘を持たずにレインコートで歩いているのを見て、傘を貸してくれると言う。親切に感謝しつつも、丁寧にお断りする。このあたりはシカが多く、よく罠にかかっているという。山道を歩くときには、赤いテープのところに罠が仕掛けてあるから気をつけなさいと言われるが、九州自然歩道のコースを示すマークも赤だったなと思う。
14:45に田野集落を通過。オオデマリの花が見事な花を咲かせていた。
15:07に本日一番の町である囲(かこい)集落に到着。ここには食堂があるはず。近づくとノボリが立っているので、遅めの昼食がとれるかと期待したが、残念ながら昼の営業は終了し、夜は17:30からの営業だった。温かいものを食べて、レインコートを乾かすことができるかと期待していただけに残念だった。店の横のパラソルの下で、おにぎりと味噌汁の昼食とした。
昼食を済ませて15:40に行動再開。三財川に沿って上流に向かって進む。両側に水田が現れたが、なんとすでに田植えを終えている。福岡では5月の連休にようやく田植えを始めるぐらいなのに、あまりの早さにビックリした。
元山集落を通過中、白の軽トラのおじさんから心配そうに声かけられる。雨の中をどこまで行くかと、車に乗っていけと勧められたが、歩けるところまで歩いてテントを設営するつもりと言うと安心したように微笑んでくれた。みんな親切である。
16:09に水喰(みずはみ)の集落に到着。雨の勢いが増してきたため、公民館の軒先を借りて雨宿り。サーモスの中にまだお湯がたっぷりあるので、カフェオレを飲んで身体を温める。
16:22に行動再開。水喰集落から三財川に架かる橋を越え山間の道を進む。道路の下の方に三財発電所が見えてきた。雨は強く、できれば屋根のあるところにテントを設営したいなと思いながら先に進むが、見当たらない。
ここからは舗装路から右折して山道のコースに入る。正確には覚えていないのだが、これまでも豊富な情報で助けてもらった蛸鹿(おすみおう)さんのブログ(蛸鹿歳時記https://osmioty2.web.fc2.com/)に、この山中の展望台にベンチがあったというような10年以上前のレポートがあったような気がする。ひょっとしたらベンチにつきものの四阿(あずまや)があったらありがたいなと、期待しながら山を登り始めた。
ところがこの判断はあまり良くなかった。この山道には当初はしっかりと踏み跡が着いていたのだが、途中で道が途切れひどい藪の中をしばらく進むことになった。絶望的な気分で大雨の中を藪とシカ除けの網をかいくぐりながら道を探し、ようやく17:17に林道にたどり着いた。GPSを確認するとコースから大きくずれている。しかも林道を下りながら位置を再度確認すると、逆方向に進んでいた。
200mほど戻り、GPSで九州自然歩道に復帰できたことが地図で確認できたが、あたりはすでに暗くなり始めた。野営できそうな場所もなく、やむなく先に進むと、17:37に山小屋が前方に見えた。ひょっとしたら雨がしのげるかと立ち寄ってみたが、ドアはしっかりとロックされ、中に入ることはできない。
雨は降りしきる。今日の日没は18:00で、もうすぐ一気に暗くなるはず。こうなったら平らなところならばどこでもいいやと開き直り、林道脇に離合用の平らなスペースでもないかと探しながら先に進む。
17:52にようやくテントが張れそうな平らなスペースを見つけた。ゴロゴロ石が転がり、雨風は直接あたるが、贅沢は言っていられない。暗くなる前にテントの設営を終えてしまおうと作業を開始し、18:12にテントの中で横になることができた。今日は一日中雨だった。川の中に転落したため、下半身は濡れている。なぜこんなことをしなければならないか思わないこともないが、これもまた人生か。
ガスバーナーでお湯を沸かし、温かい夕食の準備をした。アルファ米のガパオリゾット、ベーコン、厚焼き卵、焼き野菜の味噌汁。どうだ、美味しそうだろう。すべて温めて食べ、満腹となった。
2021年4月3日 九州自然歩道 94日目 宮崎県東諸県郡綾町~西都市上三財 雨 18/16℃ 行動時間8:44 25.3km 38999歩
往路交通:
西新13:36福岡市営地下鉄-博多13:13/14:04九州新幹線さくら553号-新八代14:54/15:02B&S553号-宮崎17:07(前日泊)
ルートイン前7:41宮崎交通バス-綾待合所8:30