今回の九州自然歩道トレッキングは宮崎県延岡市北方町細見からの再開。毎度ながら宮崎県は交通の便が悪く、土曜の朝に福岡を発つと現地への到着が正午を過ぎてしまうため、今回も前泊。宮崎県北部の日之影温泉のすてきな宿に泊まった。
その宿というのが、2005年に廃線になってしまった高千穂線の車両をホテルの客室として改造し、日之影温泉駅の跡地のレールの上に設置したTR列車の宿。宿泊した部屋は畳の部屋で、トイレ、洗面台、テレビの付いた快適な部屋だった。駅の2階にある温泉に浸かって、早めに布団にもぐり込んだ。
土曜の朝は4:00に起床。延岡行きの始発バスは近隣のバス停を5:47に出るのだが、地図で確認するとバス停までの直線距離は300mほどしかないのに等高線が20本ある。結局、バス停までは2.3kmもの距離を歩き、汗ビッショリになって始発バスに乗ることができた。バス停から見ると宿は雲海の底。バスに乗るために雲の上まで歩いたことになる。
バスは予定通り6:19に細見バス停に到着。まずは県道235号樫原細見線のりっぱな舗装路を北に進む。五ヶ瀬川に流れ込む細見川に沿って敷設された道路で、交通量は少ない。
道路が良いのでペースが速くなる。7:00に5km地点の小川集落を通過した。正面の山越には行縢(むかばき)山の岩肌が見えてきた。
ここで考えた。九州自然歩道の本線はこのまま細見川に沿って北に進む。これといって見所のない山が続きそうだ。行縢山は九州自然歩道の支線で、行ってみるのも悪くない。ただし、行縢山は細見川の東を流れる行縢川に沿った道がアプローチになるため、一山越さなければならない。往復の距離はざっとみて12km。心配なのは支線の山越えルート。本線の山越えルートでもしばしば藪漕ぎに泣かされているので、支線の山越えは散々な目に遭いそうで怖い。
しかし、昨夜、日之影温泉で一緒になった、あと2つで日本の滝100選を制覇するという滝のエキスパートの方は、行縢山にある行縢の滝は日本の滝100選となっており、ぜひ行くべき滝と推していた。温泉の後で氏の滝のブログを拝見したが、滝の見事な写真と滝愛に溢れたページに圧倒された。うん、ここは行くしかない。7:30に黒仁田集落の行縢山への分岐点に到着して、そんなこんなと7分ほど考えたが、7:37に県道から右折して、支線に進む山道を登り始めた。
支線の山越えコースは最初の300mほどは舗装路だったが、すぐに非舗装路に変わり、スイッチバックを繰り返しながら高度を上げていく。峠までの等高線は20本、すなわち高度差は200mほど。それほどたいした行程ではなさそうだが、山を半分ほど登ったところでGPSを確認すると、北東に進む支線からかなりずれた東の方向に進んでいる。先ほど通過した、地図上で支線の進むと思われる地点は完全に藪となっており、廃道化しているようだった。
いま進んでいる山道は現在も林業に使われているようで、路盤はわりとしっかりしている。峠付近は少し荒れていたが、峠を下り始めると再び路盤のしっかりした山道が現れた。山を越えて到着したところは、地図上の支線の位置よりも東に300mほどずれているが、無事に行縢川の谷に出ることができた。
ここからは行縢の集落を貫く舗装路を北に向かい、一路、行縢山に向かう。8:39に登山者が駐車場を利用する、むかばき青少年自然の家に到着した。ここで、職員の女性にお願いして、荷物を置かせてもらい、空荷で山頂までを往復することにした。
荷物からヒルの忌避剤を取り出し、靴と靴下や脛にスプレーしていると、女性が無線機を持ってきて、山頂に着いたらヤッホーをするから持って行きなさいと渡された。荷物は持ちたくなかったが、女性が熱心に勧めるので、無線機をたすき掛けにして9:04に出発した。
行縢山は人気の山だけあって、登山道の整備状況はとても良かった。登山口の行縢神社に手を合わせて登り始める。沢にはしっかりとした橋が架けてある。難所にはロープや鎖が設置してあり、至れり尽くせり。
9:38に滝への分岐点に到着し、3分ほど進むと目の前にすごい光景が現れた。巨大な一枚岩の上から滝の水が伝わって落ちてくる。言葉では表せきれないほどの圧倒的な光景。しばらく滝の下の岩に横になって、落ちてくる水の流れを見ていた。
行縢の滝では5分ほど水しぶきを浴び、ふたたび頂上に向かって歩き始めた。空荷だととても軽快。9:55に雌岳との分岐を通過し、10:30には行縢山の山頂(830m)に到着した。頂上も岩で、見晴らしが良い。あいにく黄砂が飛来しているため、霞がかかっているが、日向灘まで十分に見ることができた。
頂上では無線機でむかばき青少年自然の家を呼び出した。しばらくすると、自然の家から3名の職員さんがテラスに出て、手を振るのがなんとか視認できた。ちょうどその時、男性が頂上にやってきたので、一緒にヤッホーと叫んでもらうことにした。まずはこちらから大声で叫ぶ。次いで無線機でカウントを唱えると、自然の家の職員さん3名がヤッホーと叫ぶ。カウントの3.2秒後に職員さんのヤッホーが聞こえてきた。頂上と自然の家との距離は約1000mとなる。男性と二人して、頂上で大笑いした。子供の頃にかえったような気分だった。
頂上では360°の眺望を楽しみ、日向から来たという男性としばらく話し、10:54に下山を開始した。下山も快適で、問題なし。11:54にむかばき青少年自然の家に到着し、とても楽しい経験ができたとお礼を伝えて、無線機を女性に返却した。自販機の飲料で喉を潤し小休止。自然の家を後にした。
行縢集落に戻る林道を歩き、行きの道すがら気になっていた、ひでじビールというローカルのビール醸造所に立ち寄ることにした。醸造所の隣の広場に、行縢山を正面に望むようにバーベキューテーブルがセットしてある。アルコールの飲めない私はコーラを飲みながら、つまみの手羽先をぱくつく。隣のテーブルには横浜から登山に来たというカップル。しばらくくつろいだ後、13:28に行動を再開した。
13:45に行縢集落の南端を折り返し、行きと同じ林道を通って14:26に黒仁田集落の分岐点に復帰した。帰りの林道で気がついたのだが、手製と思われる九州自然歩道の看板が立っていた。やはり旧支線は廃道となり、今回の林道が支線として主に使われているようだと納得した。
黒仁田からはふたたび県道235号樫原細見線を歩く。ただし、いつの間にかセンターラインはなくなっている。14:45には県道から左折して唐立集落に向かう。
集落を過ぎると途端に道が細くなり、しばらくして非舗装の山道となった。ここからは標高差150mほどの峠の立花越。ところどころ藪になってはいるが、それほど酷くはない。枯れ葉が大量に積もり、滑りやすくなった山道に気をつけながら下りて、15:36に屋形原の廃校になった小学校の跡に出た。
この集落には蛸鹿さんのレポートによると自販機があるはず。思ったとおり、小学校のすぐ下の酒屋さんの向かいに自販機が設置してあり、ここでコーラを購入してベンチに腰掛けて小休止。地元の85歳の男性から、炭焼きや林業の苦労について話を聞かせて頂いた。
男性の話は面白かったが、山深いこの地ではそろそろ日が傾いてきた。16:05に行動を再開し、500mほど舗装路を進んだ後に、九州自然歩道の標識に従って山道に入る。勾配のきつい山道を登り、舗装路を横断して再び山道に入る。
16:49に舗装された林道に合流してからは、そのまま舗装路の状態が続き、17:08に大中尾集落を通過する。この集落にはコミュニティバスの標識はあるが、時刻表は白紙。便はないようだ。
大中尾集落からさらに林道を進み、17:50に上中尾集落への分岐を右折して、集落には立ち寄らずに自然歩道を先に進む。林道は普通林道上中尾線と名を変え、幅員4mの規格の良い林道に変わった。しばらく歩くと、道路脇に整地した広場があったので、本日はここでビバーク。18:00に行動終了とした。
テント設営を終え、しばらくエアーマットの上に横になって休憩。テントの入口近くに小さな蜘蛛がいるのが見える。動きが遅い。蜘蛛ならばいつか地獄に送られるときに助けてもらえるかもしれないと、たいていは生かして解放するのだが、見慣れた蜘蛛よりも足が短い。これまで見たことはないが、これは果たしてダニではなかろうかと思い、当該個体をビニール袋に閉じ込めて、脱出不能なような処置を施してしまった。
先日は生まれて初めてヒルを観察できた。今回はこの生物がダニならば、人生初ダニとなる。
2021年5月8日 九州自然歩道 102日目 宮崎県延岡市北方町細見~行縢山~延岡市北方町上中尾 曇り 22/11℃ 行動時間11:40 行動距離31.5km 55100歩
往路交通:
日之影町TR列車の宿(前泊)
下顔5:47宮崎交通バス-細見6:18