先週は久しぶりにイタリアンの店にランチに行った。以前のエントリにも書いている、地元の食材を使った居心地の良いお気に入りの店。最近はコロナの影響で、受入可能なお客さんの数を減らしているようで、席がとれるか心配だったが、さいわいカウンターが空いていた。
いつものように、手作りの前菜のプレートがまず運ばれた。5種類の前菜の中には、たいていこの店の得意料理のロートロが含まれているが、今回もやはりプレートの左端に乗っている。ロートロとは巻くという意味のイタリア語rotoloに由来し、鶏の肉などに野菜類をのせて筒状に巻いてから加熱するイタリア料理。フランス料理では、温かくしてガランティーヌとか、冷製でバンティーヌと言われる。このあたりは、この店で教わった。
気になったのは、ロートロの下に添えてあったピクルス。軽くお湯を通した後でピクルス液に漬けてあるようで、サクッとした歯ごたえが残っている。フキのようだが、線維が残らず、香りが違う。径も少し大きすぎる。ひょっとしてルバーブかと尋ねたら、「水芋のピクルスです」と返ってきた。これが水芋を食べた初めての経験。
ところが何の偶然か、イタリアンの店で食べた4日後に、たまたま職場で水芋を頂いた。自分で生産していて、直売所のようなところに出品しているものが余ったので、おすそ分けしてくれるという。未調理の現物を見るのは初めて。調理済みのものも、先週食べたのが初めてだったのに。
せっかくなので、水芋について調べてみた。
水芋とは、サトイモ科のサトイモColocasia esculentaの栽培品種。四国、九州などの暖地の湧水付近に栽培される。浅い水を張った畑(水田)で栽培されるサトイモと書いてあるものや、ハスイモやサトイモの葉柄の部分だとしたものもあるが、生産した本人に尋ねるとサトイモとは違うものだという。陸上部分はサトイモと変わらないが、根が細く長く伸びるところが異なるとのこと。いろいろ聞いてみたが、どんな風に異なるのかよく分からなかった。もっぱら茎を食用とし、芋本体は食べずに、種芋として使用するとのこと。
これまでスーパーや青果店で見かけたことがなかったが、佐賀県あたりではよく食べられているよう。今回頂いた方も、佐賀県に近い福岡の西部の方なので、関係があるのかもしれない。
食べ方が分からないので調べてみたら、佐賀県では水芋を酢の物にした「にいもじ」という郷土料理が人気のよう。「煮」た「芋茎(いもじ)」がその名の由来のよう。レシピを探してみたら、ピクルスよりも簡単そうなので作ってみた。
にいもじの簡単レシピ
<材料(1人前)>
- ・みずいも 50g
- ・酢 90 ml
- ・砂糖 20g
- ・塩 3g
- ・薬味適量(唐辛子、かつおぶし、ごま、しょうがなどお好みのもので味付け)
<作り方>
- 水芋の皮を剥いて5cmほどの長さに切る。
- アクをとるために1%程度の濃度の酢水に浸漬。
- 酢、砂糖、塩、(薬味)を鍋に入れひと煮立ちさせ、酢をマイルドにする。
- アク取りを終えた水芋を煮汁に入れて、2分間加熱。
- 容器に移して冷蔵庫で冷却したら完成。出汁で煮るバージョンもあるよう。
にいもじはそれなりに美味しかったが、さらに水芋について調べてみた。
南西諸島では、浅い水を張った水田で栽培するサトイモを、田芋(タイモ)とか水芋(ミズイモ)というよう。そして、蒸かした芋を潰して砂糖を加え混ぜ合わせペースト状にしたものをディンガク(リンガクとも。漢字表記では田楽)という料理にして、子孫繁栄を願って正月や祝い事の膳に供されるよう。
そういえば阿蘇の高森で田楽を頂いたときに、昔ながらのスタイルではサトイモやそれをすりつぶして餅状にしたものだけを田楽(デンガク)として食べていたと、囲炉裏で竹串に刺したサトイモを焦がさないように回しながら解説してもらった。
縄文時代後期にはサトイモは日本で栽培されていたと考えられ、弥生時代(縄文後期に伝搬したとする説もある)に日本に入ってきたイネよりも早いようである。サトイモは熱帯アジアで主食となっているタロイモ類に近い種とされることから、南の島からやってきた我々の祖先がタロイモに改良を加えながら南西諸島、九州へと北上し、たき火を囲みながらディンガクの夜を過ごしていたのかな、などと考えたら楽しくなってきた。