とりあえず、歩くか。晴れた日は星空の下で寝るのもいい。

週末の九州自然歩道のトレッキングや日常の雑感です。英語版のトレッキングログもこちら https://nayutakun.hatenadiary.com/  で公開しています。

環境省EADASの利点と限界に関する考察(第2報)

 前回は環境省のデータベースEADAS(イーダス、URL:https://www2.env.go.jp/eiadb/ebidbs/)の概説と簡単な使用法の説明を行った。EADASというのは様々な環境関連の情報のデータベースであるが、九州自然歩道をはじめとした全国に10ある長距離自然歩道のコースデータを国土地理院地図(電子国土Web、URL:https://maps.gsi.go.jp/index_m.html)に表示する優れた機能がある。この機能が、長距離自然歩道を続けて(縦走して)歩くために有用そうだというのが前回伝えたかった内容である。

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EADASによって国土地理院の地図の上に近畿地方長距離自然歩道を表記した例 青の線が長距離自然歩道

 九州自然歩道については、環境省の九州地方環境事務所国立公園・保全整備課が2012年に公開を開始した九州自然歩道ポータルからハイカーズマップ(URL:http://kyushu.env.go.jp/naturetrail/index.html)という国土地理院地図に九州自然歩道の本線を赤の実線、支線を緑の実線で表示した九州自然歩道利用者のための電子地図が提供されているため、九州自然歩道ウォーカーたちは活用していると思う。

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九州自然歩道を歩く者がほとんどお世話になっているハイカーズマップ

 ところが、私の調べたかぎりでは日本の長距離自然歩道で最もメジャーと思われる東海自然歩道ですら、ハイカーズマップのような電子地図情報が提供されていない。九州自然歩道以外の自然歩道を縦走する人たちは、関連する各県ごとに提供されているコースガイドのような1日歩行のための印刷物のガイドを使用したり、NATS自然大好きクラブ(URL:https://www.env.go.jp/nature/nats)の提供する個別のコース情報を利用したり、これまでスルーハイク(全行程を一回で通して歩くこと)をした方たちの書籍やブログ等を参考にされたりしているのではないかと思う。

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NATS自然大好きクラブでは全国の長距離自然歩道の情報が得られる

 しかし、長期に及ぶ縦走の際に印刷物の地図やガイド本を持ち歩くのは負担になる。また、県ごとの資料は使いにくい。コースとコースの連絡路の情報を欠くケースもある。

 そこで、EADASを活用して、全国の長距離自然歩道のコースを国土地理院地図に表示して、トレッキングに活用してもらったらいかがかというのが、前回のEADASのエントリで伝えたかったことである。

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EADASでは電子データとして自然歩道のコースを使用できる

 そこで気になったのが、EADASで表示される自然歩道の正確性である。九州自然歩道ポータルのハイカーズマップは2012年に供用が開始されたが、その後にコースデータのアップデートがあまりなされていないようで、ところどころ実際のコースと食い違ったところがある。これまで九州自然歩道を歩いてみて、実際の標識で示されたコースとハイカーズマップの乖離が顕著であった部位について、EADASでは修正が見られるかどうかの検証をしてみたいと思う。

1.福岡県夜須高原エリア(ハイカーズマップが誤っており、EADASが実際のコースに一致した例)

 ここは2019年10月26日に実際に九州自然歩道を歩いてみて、ハイカーズマップと現在の九州自然歩道の標識が数kmにわたって著しい乖離を示したエリアである。当日は、当該エリアのハイカーズマップのプリントアウトを見ながら行動していたが、夜須高原記念の森を通過したところでハイカーズマップに記載された道が完全に消失していた。やむなく迂回しようと進んだところ、その先に別の方向を指した九州自然歩道の標識を見つけて、それに従って行動した。プリントアウトに実際の行動経路を記入したものを示す。

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このエリアではハイカーズマップを見ながら歩いてみて、あまりのコースのズレっぷりに愕然とした。緑の蛍光ペンで地図に実際の歩行路を記入した。

 その後、九州自然歩道の地図のついた看板が現れたところで、ハイカーズマップのコースがまったく違うところを走行していることに気がついた。

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実際に歩いたコース上には九州自然歩道の標識が出てきた。

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地図のある看板の標識も現れたが、ハイカーズマップの経路とはまったく異なっていた。

 帰宅後にハイカーズマップとYAMAPで得られた行動経路を重ね合わせてみたところ、現場で感じたのと同じように、現在の標識の位置に従って行動した経路はハイカーズマップと乖離していることが確認された。

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イカーズマップとYAMAPの歩行データを比較して違いを確認した。

 ところがEADASで同部位の九州自然歩道を表記してみると、実際に今回、標識に従って歩いたコースと一致していた。このエリアに関しては、EADASのコースデータが正しいようである。

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このエリアではEADASに軍配が上がる。

 ちなみに、さらに同エリアから5kmほど進んだ冷水峠の地図付きの標識では、ハイカーズマップと同じコースが記載されており、新旧のコースの表記された看板がこのエリアでは混在しているようであった。

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5km先の冷水峠では旧データの看板が出てきた。ここで表示されたコースはハイカーズマップのコースと一致している。

2.福岡県太宰府エリア(ハイカーズマップよりもEADASのほうがより正しい可能性)

 このエリアは2019年10月27日にハイカーズマップを参照しながら行動して、標識との差異に気がついた。

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イカーズマップを信じて行動したが、標識を見失い、藪に阻まれ、緑のようなコースしか歩けなかった。

 EADASのコースは次のとおりで、大きく異なることが分かる。

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EADASのコースはハイカーズマップとは大きく異なる。

 私が実際に行動したコースはハイカーズマップともEADASとも異なり、藪漕ぎをしながら苦労して進んだ記憶がある。

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私が実際に歩いたコースは、ハイカーズマップとEADASを混ぜて、さらに迷った歩き方。

 あとでヤマトホの歩行データを確認すると、EADASのとおりに歩行していることから、標識の有無は分からないが、EADASのコースの通りに歩くことはできるようである。

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ヤマトホは正確にEADASコースを歩行している。

3.福岡県香春町エリア(ハイカーズマップもEADASも誤っている)

 このエリアは2019年9月15日にハイカーズマップを参照しながら行動したが、通過を予定していた仲哀隧道および旧仲哀トンネルともに通行不可だったため、やむなく新仲哀トンネルを通過したケースである。

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イカーズマップでは山頂近くの仲哀隧道を通過して香春町に抜ける。

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実際には新仲哀トンネルを通過せざるを得なかった。

 仲哀隧道(1889年竣工)は落盤の危険性があることから、以前から通行が禁止されており、旧仲哀トンネル(1967年竣工)も入口が封鎖されていた。

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旧仲哀トンネルは封鎖してあった

 かわりに通過した新仲哀トンネル(2007年竣工)は大型の自動車の交通量の多いトンネルで、二度と歩きたくないと思ったほどつらいトンネル通過であった。

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新仲哀トンネルの通過は苦行だった。

 EADASのコースはハイカーズマップと一緒で、山頂近くの仲哀隧道に誘導するコースとなっており、通過はできないはずである。

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EADASはハイカーズマップと一致

 ちなみに2019年3月16日に同所を通過したヤマトホも、新仲哀トンネルを通過している。

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ヤマトホも新仲哀トンネルを通過

4.宮崎県都農町込ノ口エリア(ハイカーズマップ、EADAS、実際の標識が3つとも異なる)

 このエリアは2021年4月11日に通過した。先行しているヤマトホがハイカーズマップの経路を正確に歩いているのを確認したため、ハイカーズマップを参照しながら進んだ。

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ヤマトホはハイカーズマップと同じ経路を通過

 ところが、赤で示したハイカーズマップのコースを忠実に進んだところ、民家の男性からこの先は九州自然歩道ではなく、標識はさらに下ったところにあると教えられて、下図の青で示したコースに進んだ。男性の言うとおりに、ほどなく九州自然歩道の標識が現れ、山を下って集落で折り返す地点、尾鈴山に向かう県道307号線上にも標識が連続して立てられていたケースである。

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イカーズマップ(赤)、EADAS(緑)、実際に九州自然歩道の標識を確認しながら進んだ歩行路(青)

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イカーズマップのとおりに進んだら民家の敷地内に侵入。民家の男性から標識のある方向を教えてもらった。

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実際に標識が現れた。

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さらにその先まで標識が続いた。

 EADASはハイカーズマップとも実際の標識とも異なる遊学の森へと進むコースを示していた。

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EADASコースへの分岐点にあった看板

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同所には九州自然歩道の標識もあった。次の目的地は尾鈴キャンプ場。

 県道307号線を尾鈴山に向かう途中で、遊学の森の記載のある標識が出てきたため、EADASの示す遊学の森からのショートカットコースが実際に存在する可能性がある。ハイカーズマップ、EADAS、実際の標識ともに異なる可能性のあるエリアである。

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その先で遊学の道の標識が出てきたので、実際にEADASコースが存在する可能性もある。

 以上のように、ここまでいくつかのエリアでハイカーズマップとEADASを比較したところ、EADASのほうがより新しい情報を含んでいる可能性があることが示唆された。

 しかし、自然歩道はつねに自然災害による道路の崩壊や通行者の減少に伴う廃道化、林道の付け替えなどの新陳代謝を伴う。直近に通過した者からの情報を共有しつつ、現時点で最も確からしいコースデータを更新していく仕組みが必要ではないかと感じる。