九州自然歩道宮崎県エリア
2021年3月6日~2021年7月17日活動
活動日数 20日
距離480.7km 813684歩
宮崎県は私の好きな県。大学時代の友人の実家のあるところで、何度も訪れている。海がきれいで、波が良く、気候が穏やかで、何よりも人の心が穏やか。宮崎では対人的な不快感を覚えた出来事の記憶がない。とくに自動車の運転。あおり運転など皆無で、車間が広く、皆さん道を譲ってくれる。友人に聞くと、かつて新婚旅行のメッカで、レンタカーやタクシーに配慮していた名残ではないかということだったが。
それにしても、、、福岡を基準にして恐縮だが、、、宮崎県は遠い。九州自然歩道を鹿児島から北上してきて、地図の上では空間的な距離はずいぶん福岡に近づいてきたはずなのだが、トレッキングのための中継地点までに要する時間は鹿児島以上にかかる。鹿児島よりも時間的には遠いのだ。
例を挙げよう。失礼な言い方かもしれないが、九州の中で地の果てるところといえば本州最南端の鹿児島県大隅半島の佐多岬と考える人が多いだろう。福岡からは直線距離で290kmほどある。福岡から佐多岬(大泊)への始発かつ最速の交通は、
博多6:10九州新幹線-鹿児島中央7:58/8:10鹿児島交通バス-鴨池港8:38/8:50垂水フェリー-垂水港9:30/垂水10:00鹿児島交通バス-大泊11:59
と6時間を切る。
九州自然歩道のコースで通過する宮崎県美郷町は福岡からは直線距離で160kmほど。バス路線のある美郷町役場は九州自然歩道から2kmほどしか離れていないため有力な中継地であるが、福岡からの始発最速の交通は、
博多バスターミナル8:25高速バスごかせ号-延岡12:54/13:24-日向市13:52/日向市駅東口13:59-宮崎交通バス-美郷町役場前14:58
と6時間を優に超え、到着は午後3時に近い。同日の活動が困難な時間なのだ。
宮崎を歩く際には、中継地の選定とそこまでの交通の確保が難しい。私の場合は、基本的には週末限定でトレッキングしているため、宮崎県ではJRはもちろん、地方交通のバス、コミュニティバス、高速バス、飛行機まで駆使して、最速だったり最安だったり、目的の時間に着くための方法を模索して行動した。宮崎の公共交通機関については適切な選択がとても難しいため、宮崎県内の九州自然歩道を歩こうと思う方は、これまでの私のトレッキングで実際に使用した交通路などを参考にして各自熟考してもらいたい。それはそれで、それなりに楽しめるはずだ。
宮崎県のコースの概要を説明する。宮崎のコースは(1)高千穂峰から西都までの神代の史跡と古墳巡りコース、(2)西都から延岡市北方町細見までの九州山地の辺縁巡りコース、(3)細見から祖母山までの高千穂峡と神々の史跡巡りコース、の3つのパートに分けられる。
(1) 神代の史跡と古墳巡りコース(高千穂峰~西都)
鹿児島県から高千穂峰を登り、県境となる頂上から霧島東神社を目指して降下するところから宮崎ルートははじまる。高千穂峰は多くの登山客で賑わう人気のある山。霧島東神社までの登山道は良く整備されており、迷うことはない。霧島東神社から2kmほど先の御池(みいけ)にはお勧めできる快適なキャンプ場がある。御池の一周コースは支線となっているが、コースの崩落が著しいため、進むことはお勧めしない(2021年3月時点)。
御池からは有名な神武天皇の像のある皇子原を経て、神武天皇を祀った狭野(さの)神社と進み、JR吉都線の高原(たかはる)駅までは10kmほどである。高原は落ち着いた町で、商店も多数あり、補給には適している。
高原から10kmほど進むと、次の目標地の霞神社となるが、途中の宮崎フリーウェイ工業団地付近から辻ノ堂川に沿って進んで蓮太郎温泉に抜ける道は先行した先達の蛸鹿さんやヤマトホと同じく、私も見つけることはできなかった。現状では高原を通過する国道223号線を北上して、南東に向かう県道414号線を進むのが最適解と思われる。交通量が多く、無粋だが。県道沿いに霞神社の参道が現れ、700段ほどの石段を登った先には、小さいけれども歴史を感じさせるお社が建っている。私は雨にたたられてしまったが、標高349mの神社からは素晴らしい眺望が楽しめるはず。
霞神社からはしばらく林道を進み、10kmほどで野尻湖の湖畔に出る。岩瀬川の川の流れは聞こえるが、残念ながら野尻湖の湖面はなかなか見えない。野尻湖からさらに10kmほど進むと天ヶ谷で国道268号線に出る。この道路は、小林市と宮崎市とをつなぐ幹線道路で、バスの便がある。九州自然歩道は国道268号線を跨いで山中に進むはずであるが、天ヶ谷、石瀬戸あたりで九州自然歩道のオリジナルルートを探索したが、道路のひどい崩落のために自然歩道の通行は不可(2021年4月時点)。今別府あたりまで国道268号線を西に進んでから山中に左折して、九州自然歩道の標識を探すのが妥当と思われる。国道268号線上の天ヶ谷から紙屋までの5kmほどはバス停が点在しているため、どこでも1kmほど歩けばバス停に出ることができる離脱の容易なエリアである。小林駅あるいは宮崎駅までのバス便がある。
国道268号線から綾町に向かって北に進みはじめたら、しばらくは山道となる。広沢ダムまでおよそ10kmで、その間の山道の整備状況は良好。広沢ダムから先は通行止めが多く、正しいルートは判然としない。本庄川(綾南川)に出たら、ハイカーズマップでは西に2kmほど進んで川中神社に到り、そこからは綾南川の北岸をトロッコ道に沿って照葉大吊橋まで進むのがオリジナルルートであるが、蛸鹿さんなどの情報ではトロッコ道の崩落は著しく、とても進めない状態のよう。わたしも直近の通行歴のあるヤマトホの選択に従って、綾南川の南岸を照葉大吊橋まで進んだ。
照葉大吊橋を渡って北岸の散策路をしばらく歩き、かつてのトロッコ道をいくらか歩いた。トロッコ道とは、かつて木材の搬出に使用したナローゲージの鉄路跡であるが、急峻な崖を削り、切り通しを作り、それでもダメなら素掘りのトンネルを掘ってあり、景色が良く、傾斜もなだらかで、歩くには最適。このままいつまでも続いてくれたらいいのにと思うほどの快適さ。きちんと整備したら、トレッキングコースとして最上のコースとなるであろう。また、ナローゲージの観光トロッコでも走らせたら、集客力の高い観光資源になるのではないだろうかと思う。私は行くよ。
照葉大吊橋からは県道26号線を綾町に向かって進む。3kmほどで綾の里という地鶏専門の食堂があるが、ここは料理が美味しくてお値頃、窓からの景色も良くてお勧め。大吊橋から県道を10kmほどで綾町の中心街に到るが、九州自然歩道は7km地点で綾南川を渡る橋を通過したら再び北に向かって山中を歩いて、綾北川を吊り橋で渡ったところの綾川荘に着く。綾川荘には温泉と宿泊施設がある。綾町の中心からは宮崎行きのバスが一日数便出ており、中継地としては有力。
綾町からはさらに北に向かう。国富町を経て西都市に入るが、海岸線からは10km以上離れた山中の道で、綾町の中心部から西都市の市街地までの間は補給が困難となることを覚悟しなければならない。また、道中の山道も藪漕ぎあり、徒渉ありで、アドベンチャー感に溢れる。
本パートで最後にたどり着くのが西都原古墳群。南北に2km、東西に1kmほどの大地に319基の古墳が並ぶ様は圧巻。古墳の多くは、周囲が伐採されてきれいに整備されており、芝に覆われたその姿を直に見ることができる。また、鬼の窟古墳には横穴式の石室にまで立ち入ることができる。教科書に掲載されているような古墳がいくつも並び、しかも内部にまで入ることができるので、テンションが上がりっぱなしになることは間違いない。男狭穂塚、女狭穂塚という巨大古墳は宮内庁が管理しており、周囲の伐採もされていないため、その姿を見ることができないのが残念。
古墳群は桜、菜の花、コスモスなど、季節の花で彩られる。タイミングを合わせて訪れて、弁当を開きながら1日ゆっくり過ごすのもおすすめ。
西都原古墳群からは北東に進路をとり、木城町に進む。その間は舗装路80%、山道20%ほどで、難渋するところはない。杉安橋で一ツ瀬川を越え、川原橋で小丸川を越えるが、いずれも橋の上から眺めた川の色合いが吸い込まれそうなぐらい美しい。
木城町の山中には陶然茶房という台湾茶を飲ませてくれる陶芸家の運営する素敵なカフェがあるので、ぜひ立ち寄ってもらいたい。ただし、1煎、2煎と味と香りを変えていく上質な台湾茶を6煎まで味わうためには、1時間以上の滞在が必要。
九州自然歩道はさらに北東に川南町、都農町へと進む。このあたりは、自販機以外の補給は期待できないところとなるので、食料については綿密な計画が必要となる。
都農町では、名貫川に沿って北上する。名貫川も素晴らしく美しい川。その源流となる尾鈴山は瀑布群で有名。尾鈴川の山頂に向かって西に進む瀑布のコースは支線となっているが、ぜひ足を伸ばしてもらいたい。とくに支線の終点となっている白滝は息をのむほどの美しさ。ここまでの道のりの大変さを考えると、遠来の方にとっては、尾鈴山瀑布群を見ることのできる一生に一回だけの機会となる可能性すらある。尾鈴山のコースの標高の低い部分はトロッコ道として使われていたので、勾配は緩く、歩きやすいこともお勧めする理由である。
尾鈴山の登山口から次の経由地までは、九州自然歩道の中でも指折りの難所である。登山口近くにある尾鈴山キャンプ場から、日本の滝百選に選定されている矢研の滝を経て、アップダウンの厳しい山中を20km近く歩いて、ようやく東郷町の牧水公園のキャンプ場に到達する。舗装路の部分はほとんどなく、迷いやすいところ、膝下までどっぷり浸かる徒渉もある。中間部分の石並川に出たところで野営をして、2日かけて進むことを検討した方がよいかもしれない。ちなみに、石並川の水系にもいくつかの滝があるが、これらも素晴らしく美しい。
東郷町から西郷町までは珍神山(うずがみやま、823m)を越える道のりで、ここも20km以上あり、険しく、補給がない厳しいルート。そして、西郷から次の宇納間まで、宇納間からその次の延岡市北方までの道のりも、ともに30kmを越える。いずれも山並みのきれいなコースではあるが、ところどころコースが不明瞭で、藪漕ぎを強いられるところもあるので、時間的な余裕を持って行動する必要のあるエリア。
中核都市である延岡市街への定期運行バス等の交通があるのは、美郷町東郷(牧水公園)、美郷町西郷(美郷町役場)、延岡市北方(細見)ぐらい。宇納間、尾鈴山方面に向かうコミュニティバスがあるが、平日のみで便数も限られている。交通については十分に下調べする必要がある。
延岡市からは北西に進む。ただし、国道218号線の進む五ヶ瀬川に沿ったコースではなく、北寄りに進む細見川によってできた谷を進んだ後に、稜線を歩くことになる。途中の往復8kmほどになる支線であるが、行縢山(むかばきやま、829m)に立ち寄ることをおすすめする。堂々とした山容で、眺望のよい山であり、登山路から見える行縢の滝は日本の滝百選に選ばれている名瀑だからだ。この一枚岩の上を流れる滝は必見。
この先は、延岡北方の山々の稜線を下りてから、網の瀬川に沿って進む矢筈岳トロッコ道が素晴らしい。左に比叡山、右に矢筈岳という形のよい山を眺めながら川沿いの道を進み、再度山中に進んで丹助岳の頂上に登る。この山も姿の美しい岩山。丹助岳からは3時間も歩けば日之影温泉に浸かることができる。ここにはかつての高千穂線の車両を活用した宿泊施設もある。
日之影温泉からはしばらく国道を歩き、山中の道を進んで、高千穂に至る。ここはコース外ではあるが、3kmほど北東にある天照大神が隠れたという天岩戸をご神体とする天岩戸(あまのいわと)神社と、隠れた天照大神を引き出すために神々が合議をしたという天安河原(あまのやすがわら)を実際に見ることができる。
高千穂は見所の多いところ。九州自然歩道のコース上では、岩を削ってできた高千穂峡や、狭い渓谷の上から白い水流が流れ落ちる真名井の滝を通過する。さらに時間があれば、市街の中心地の高千穂駅から発着する高千穂鉄道に乗ってみるのもおすすめ。高千穂には橋がいくつも架かるが、いずれも谷底までの距離が長い切り立った谷にかけられている。
高千穂からは主には山中の道を北に進む。半分ほどは舗装路であるが、荒れた藪の中を進むところもある。三秀台の草原を過ぎてからは、宮崎県と熊本県、そして大分県との県境となる祖母山(1756m)に至る。祖母山への登山路の整備状態は非常に良好で、迷うことはない。
祖母山は宮崎県の最高峰で、日本百名山の1つ。その名は、神武天皇の祖母である豊玉姫にちなんでいるという。
もう一度歩きたい宮崎県の道
スタート地点、ゴール地点のいずれも公共交通機関を利用したアクセスが可能で、縦走を楽しむことができるコースを厳選した。このほかにもお勧めのコースがあるのだが、公共交通機関によるアクセスが悪すぎて、野営を2泊以上要するので今回は紹介を諦めた。
- 高千穂河原~高千穂峰~霧島東神社 ☆☆☆
こちらの高千穂は、宮崎県と鹿児島県の県境になる南の高千穂のほう。天孫降臨の地として知られる。景色も良く、周辺の山から噴煙が湧き起こる様を見ると、やっぱりここから日本が始まったのかなとさえ思える。
スタート地点は鹿児島県内の高千穂河原である。ここまでは日豊線の霧島神宮駅からバスでいわさきホテルまで行き、霧島連山周遊バスに乗り換えて高千穂河原まで行くことができる。あるいは霧島神宮までバスで行き、高千穂河原まで5kmほど歩く手もある。ちなみにJR霧島神宮駅から霧島神宮までは8kmほどあるので、この区間はバスの利用をお勧めする。
高千穂河原ビジターセンターから登山道を進み、馬の背と呼ばれる噴火口周囲の稜線を進み、高千穂峰(1573m)までは1時間半ほど。頂上には天の逆鉾がある。司馬遼太郎先生の本では、坂本龍馬はこの逆鉾を抜いてしまったのだが、現在は一般人には抜けないように囲いがしつらえてある。
ほとんどの人は高千穂峰から高千穂河原に戻るが、そのまま東尾根を越えて進む。少し距離の長い下山路であるが、終点は霧島東神社。ここも荘厳な雰囲気の神社である。
神社から1.5kmほど先の御池キャンプ場は非常に快適なキャンプサイト。また、東に6kmほどのところに旅館がある。
ゴール地点からの帰路は、霧島東神社の下の国道223号線にある祓川バス停から1日数便のバスに乗るか、10kmほど北に歩いたJR吉都線の高原駅からとなる。
距離:14km
行動時間:5時間
補給:高千穂河原ビジターセンター(食事、売店、(キャンプ))、御池キャンプ場(売店、キャンプ)、祓川(食事)
- 西都バスセンター~木城町川原自然公園 ☆☆☆
西都市の中心地にある西都バスセンターを出て約2km歩き、小高い丘を登ると西都原の古墳群に着く。
ここは300以上の古墳が集まる日本最大規模の古墳群。鬼の窟古墳など、内部を見学できる古墳がいくつかある。死ぬ前に1度は訪れてみたい場所。また、宮崎県立西都原考古博物館にも立ち寄りたい。
西都原古墳群からは一ツ瀬川に沿って杉安橋まで進み、山中の道をしばらく歩いた後に穂北で県道40号線に合流した後はそのまま川原橋で小丸川を越えて川原自然公園に至る。小丸川の色合いはきっと心に残ると思う。
川原自然公園でキャンプをしても良いし、小丸川沿いに下流に5kmほど進めば木城町役場があり、JR日豊線の高鍋駅までのバス便がある。
距離:20km
行動時間:6時間
補給:西都市街(宿泊、温泉、食事、商店)、西都原古墳群西都原考古博物館(食事)、コース上に自販機が点在
- 都農駅~尾鈴山キャンプ場~白滝~牧水公園 ☆☆☆
JR日豊線川南駅を起点として、尾鈴山キャンプ場の6kmほど手前の細集落までコミュニティバスが運行しているが、登録が必要で、営業日が限られている。JR日豊線の都農(つの)駅から尾鈴山キャンプ場まで15kmほど歩くのが、現実的な交通手段である。
キャンプ場で初日はのんびり過ごし、翌日はキャンプ場から西の欅谷方面に進み、紅葉の滝、すだれの滝、さぎりの滝、白滝という尾鈴山瀑布群を巡る。大部分はトロッコ道を歩く往復2時間程度のやさしいコースである。余力があれば、さらに矢筈岳(1330m)、長崎尾(1373m)、尾鈴山(1405m)と歩き、北の瀑布群を周回してキャンプ場まで戻るコースもおすすめ。周回コースは16kmほどで、コースタイムは9時間ぐらい。
翌日はキャンプ場から北の矢研谷に進み、1時間ほどで日本の滝百選の矢研の滝に着く。ここからさらに山中に進み、5時間ほどで石並川に至る。途中まではトロッコ道が残るが、全般的にはハードな山越え。石並川には美しい無名の滝が点在する。石並川沿いには野営可能な平地があり、JR東都農駅から続く県道301号線山陰都農線へのアクセスがある。
石並川に沿って上流に向かって桃谷を進む。このあたりにも一部トロッコ道らしき痕跡が残るが、山中深く進んでいく。数カ所の徒渉部分もある。標高200mほどの石並川から標高700mほどの神陰山の北稜線を巻いて進み、迫内川の流域に出たら、のんびり下れば東郷町の牧水公園に到着する。
牧水公園にはキャンプ場と自販機があり、食堂もある。また、日向市駅への定期バスも運行されている。
距離:16+19km
行動時間:9+10時間
補給:都農市街(宿泊、食事、商店)、牧水公園(キャンプ場、自販機、食堂(営業は未確認))