大分県は、2013年に「おんせん県」の商標登録を行ったほど気合いの入った温泉推しの県。県内の18市町村のうち16市町村で温泉が湧出している。平成28年3月末における源泉総数は4,342孔で全国の16%、また、湧出量279,462L/分で全国の10.9%を占め、源泉数、湧出量ともに第1位(出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/大分県#自治体)。
こうなると気になるのが、おんせん県のくせに温泉の出ない自治体はどこかということ。皆さんもそうでしょ?調べてみたところ、津久見市と姫島村。津久見市は豊後水道に面した漁業とセメントの町。
もう一つの姫島村が興味深い。国東半島の沖合に浮かぶ周囲17km、人口2千人足らずの小さな島。なにはさておき、盆踊りが有名。顔を真っ白に塗って、着物を着たキツネの姿で踊るのである。8月のお盆の時期になると、テレビでしばしば放送される。
姫島は町長選挙が無投票なのも有名。藤本熊雄町長が1960年から1984年まで無投票で7期務め、次は父親の急死の後を長男の藤本昭夫が2016年まで8期連続無投票で務めている。2016年に姫島村で61年ぶりの町長選挙となったときには、九州では大ニュースだった。その結果も、現職の藤本昭夫が当選し、さらに2020年の町長選でも当選して、現在10期目。親子で通算16期となる。人ごとながら、こんな状態で大丈夫か心配になるが。
それはさておき、大分県のコースのコースは、(1)祖母山から竹田を経て長湯に至るまで各所の湧水を堪能しつつのんびり歩くコース、(2)長湯から久住高原まで上って九州屈指の山々と数々の温泉を楽しみ豊後森まで下る温泉どっぷり堪能コース、(3)数々のメサやビュートを眺めながら山国川に沿って下る奇岩堪能コース、の3つのパートに分けられる。
(1) のんびり湧水コース(祖母山~長湯温泉)
反時計回りで歩くと、九州自然歩道の大分パートは日本百名山にも選ばれている祖母山(1756m)から北に向けてスタートする。頂上からは国観峠を経由して、北に下る神原コースをとる。ほんの少しだけ寄り道になるが、9合目には快適な避難小屋も整備されている。
下山路の高低差は1500mあり、かなり急な道のり。整備状態は良好で、要所には木製の階段が付けられるなどされているので、難しいところはない。登山道はブナの森の中で心地よい。並行して谷川が流れ、名前の付けられていないような滝が無数にある。徒渉地点がいくつかあり、増水時には注意がいる。
5合目に避難小屋がある。また、1合目の登山口駐車場にはバス停があるが、便数が少なく、運行日も限られているので注意がいる。
登山口から4kmほど進んだ最初の集落の神原には民宿清流があるが、ここはお勧め。民家を改修したような宿だが、とにかく料理が素晴らしい。値段との釣り合いがとれていないのではないかと思うほど。お風呂は鉱泉だが、川の流れを見ながらのんびりとくつろぐことができる。
神原からは竹田市街まで20kmほど神原川に沿って下っていく。ほとんどが舗装路。神原渓谷の水の色が美しい。
竹田市街に近づくと、いくつもの湧水が現れる。ここには地元の方々や料理人までが水を汲みに来る名水もある。カップを持参してテイスティングしてもらいたい。
竹田はJRの駅、いくつものホテルのある、中継地として至便の場所。源義経を迎えるために緒方三郎惟栄(これよし)が築城したと伝えられる巨大な岡城址が山の上に残る。美しい町並みの残された市街地など、見所も多い。
竹田からは岡城址を通り、朝地から長湯に進む合計30kmほどの行程。見所は岡城を下った先の十川柱状節理と普光寺磨崖仏。長湯までの距離が長いため、JR朝地駅を中継地とすることもできる。
長湯温泉はラムネ温泉でも知られる炭酸泉で有名な温泉地。静かでのんびりできる。勇気があったら全周露出で知られるガニ湯を楽しんでもらいたい。
(2)温泉どっぷり堪能コース(長湯温泉~久住~豊後森)
長湯温泉からは舗装路を15kmほど歩いて、久住へのアプローチの朽網岐れ(くたみわかれ)登山道を進む。登山道は豪雨災害の影響を受けているが、通行は可能。湿地帯の佐渡ケ窪、その先の鍋割峠を乗り越え、鉾立峠を過ぎると久住の美しい山並みが目の前に拡がる。宿泊は法華院温泉山荘か坊がつるキャンプ場。キャンプ場宿泊の場合でも、料金を支払えば法華院温泉に入湯できるので、ここは何としてでも入るべき。数時間の山行の後に浸かる薄青色の温泉に、身体と心がとろけてしまう。
坊がつるには1泊以上して、久住連山のいくつかに登ることもお勧め。久住山、星生山、中岳、大船山、三股山などがあるが、一等三角点のある久住山が九重山の名で日本百名山に選ばれている。
坊がつるからは、湿原の中を歩いて長者原に進む。登山道の整備状況は極上。長者原からは舗装路を牧ノ戸峠まで進んでから、ほぼ真北に向かって温泉群を訪ね歩く。次から次に現れる温泉群は、凄いの一語。八丁原地熱発電所に始まり、打たせ湯で知られる筋湯、ひぜん湯、大岳温泉、湯坪温泉、宝泉寺温泉と、温泉のオンパレード。たまにはテント泊ではなく、温泉旅館に泊まるのもありかと思う。
宝泉寺温泉を過ぎるとしばらく温泉はお休み。代わりにメサやビュートの奇岩でできた山が現れ、最後は伐株山というその名の通りの形の山から豊後森に真っ直ぐ下ってこのパートが終わる。
豊後森はJR駅のある交通の要衝。ここからは北上していくつかの峠を越えて耶馬溪に向かう。豊後森の辺りはメサと呼ばれる、頭の部分を切り落としたような台地状の山が目立つ。
山中を進む道が多いが、かつての参勤交代に使われた宇佐街道を歩く部分もあり、風情のある道のりである。ただし、補給地がほとんどないので、食糧計画はしっかり考慮する必要がある。
豊後森から森川の水系を上っていき、城井峠を越えると山国川水系に変わる。このあたり一帯が耶馬溪と呼ばれる。奇岩の連なる絶景が続き、小豆島の寒霞渓、群馬の妙義山とともに日本三大奇勝とされている。
とくに見事なのは競秀峰と呼ばれる、山国川に面して切り立った岩峰群。競秀峰の下部には、羅漢寺の禅海和尚がノミで掘ったという青の洞門の跡が残る。コースから少し外れるが、競秀峰の崖には岩を伝って通る羅漢寺への参道の鎖場が残っており、ここも見所のひとつ。青の洞門エリアにはバス路線がある。
青の洞門からは日本最大の8連の石橋の耶馬溪橋を渡って大平山に向かう。山頂近くまで舗装路が続き、山頂から先は福岡県となる。
もう一度歩きたい大分県の道
スタート地点、ゴール地点のいずれも公共交通機関を利用したアクセスが可能で、縦走を楽しむことができるコースを厳選した。
このコースは九州自然歩道を北から南に縦走するコースをお勧めしたい。
JR豊後中村駅あるいは高速バスの九重インターチェンジバス停を中継地として、コミュニティバスで長者原まで移動する。長者原ビジターセンターをスタートして湿原を通って雨が池越を過ぎると、坊がつるの湿原に至る。長者原からは2~3時位間程度の歩行。時間が早ければ、九重連山のいくつかに登ることもできる。
同日の宿泊は法華院温泉山荘に宿泊しても、坊がつるのキャンプ場に野営してもよい。疲れた身体は法華院温泉のかけ流しの温泉で癒す。飲料水や食事も法華院温泉山荘でとることができる。
日程に余裕があれば、翌日は九重連山のいくつかに登って、再び宿泊する。九重連山は、北アルプスのような険しい岩がむき出しの山ではないが、噴煙の上がるところもあり、神様がそこにいそうな気分がする。
最終日は坊がつるを発ち、鉾立峠から九重連山に別れを告げて、佐渡ヶ窪の湿地帯を抜けて朽網分れに向かう。3時間ほどで登山口まで来ると、正面近くにガンジー牧場がある。ここで食事と食後のアイスクリームを楽しんでから、牧草地を南に進むとバス路線のある県道30号線に出る。境川、小倉峠のバス停から長湯温泉あるいは竹田駅まで行き、帰途につく。
2.牧ノ戸峠~豊後森 ☆☆☆
牧ノ戸峠まで行っておきながら、久住連山には登らんのかいと怒られそうなコース。
まずはJR豊後中村駅あるいは高速バスの九重インターチェンジバス停を中継地として、コミュニティバスで終点の牧ノ戸峠まで移動する。牧ノ戸峠は久住連山への登山口として最も多く利用されているが、今回はみんなとは180°方向の異なる北に向かって進む。牧ノ戸峠の駐車場から道路を横断して、九州自然歩道の標識を見つけて舗装路を下り始める。進むにつれて谷底から八丁原地熱発電所のタービンの音と思われるゴーっという音が聞こえてくる。
最初に現れるのは筋湯という打たせ湯で知られる温泉。次いで疥癬(ひぜん)湯が現れる。さらに右手に大岳地熱発電所が見えたところが大岳温泉で、湯坪温泉と続く。
町田牧場では食事が可能。宝泉寺温泉も素敵な宿が並ぶ。ここまでで約20kmなので、宝泉寺温泉に宿泊するのもよい。1日中ほとんど舗装路歩きとなる。
翌日は相狭間、口の園と集落の舗装路を歩き、黒猪鹿(くろいが)集落から山道に進んで万年山(はねやま)の頂上に至る。万年山からは万年山牧場と吉武台牧場の草原の中を歩く。
吉武大牧場からは舗装された林道を7kmほど歩いて伐株山の頂上に到着。豊後森の市街地を眼下に一望できるここからの眺めが素晴らしい。伐株山からは北の直登コースを下山して、豊後森の市街地に至る。豊後森では鉄道遺構の豊後森転車台は必見。