本日の中国自然歩道トレッキングは連続して3日目。泊まりでトレッキングすると移動時間がなくて本当に楽だ。本日で中国自然歩道を歩き始めてから通算では33日目。今朝は高梁市吹屋という備中の誇る一大観光地のバンガローで目を覚ました。
昨日チェックインした際に、寒いかもしれませんよと心配されたが、電気ヒーターが備えてあり、それほどでもなかった。そもそも雪中のテントに比べれば、屋根があるだけで不満のあろうはずがない。枕元のiPhoneを見るとちょうど6時。しかも、充電が100%と表示される。そう、バンガローには電源があるのだ。朝から文明のありがたさを思い知る。
朝食のシリアルを食べながら、ヒーターの前で写真整理などして過ごす。天気予報は雪90%。まだ降り出してはいないが、覚悟のうえで歩き出さなければならない。食後のコーヒーを飲んでから、パッキングを開始。ダラダラと時間だけが過ぎ、ようやく8:40にバンガローを後にした。
旧吹屋中学校、旧吹屋中学校という吹屋を代表する建築を見た後で、吹屋市街地を見学。昔ながらの家が状態良く保存された魅力的な街並みだ。一通り見終えて、9:00から中国自然歩道を歩き始める。
吹屋の市街地の北の山手から坂を下って進む。この辺りは銅山の坑夫の住宅が立ち並んでいたところと説明板がある。すでにかつての住宅は取り壊されているようで、現在は一般民家のみ。突き当たりを右折して、合流した県道85号線をさらに右に曲がって進む。
吹屋を出た頃から雪がパラついていたが、県道85号線を歩き始めた頃からさらに強く降ってきた。雪の中を吹屋から1kmほど南に進んで、9:33にベンガラ館という観光施設に到着。案内を見ると10時開館なので、軒下を借りて雨具を装着して先に進もうかと思っていたら、受付のおじさんが出てきて見て行ってくださいと開館前に入れてくれた。こうなったら断るわけにはいかない。入場料を支払って、顔料などとして使われていたベンガラを酸化鉄の鉱石から精製するまでのステップをじっくり勉強させてもらった。克明なメモをとっておいたので、今度トレッキング中に酸化鉄の鉱石を見つけたら自力で精製してみようかと思う。冗談だけど。
ベンガラ館の休憩室で、受付のおじさんとしばらく世間話。おじさんから、この先の笹畝(ささうね)銅山に立ち寄るように勧められた。上下の雨具を装着して、財布や充電器などはビニール袋に入れて、雪の降る中を次の目標に向かって進み始めた。
15分ほど歩いて、10:14に笹畝銅山に到着。入場料を支払って、坑道の中に進んでいく。当時の坑道そのままなのだろう。坑道の天井は低く、腰を折り曲げて進まないと頭をぶつけてしまう。しばらく坑道を進むと、岩盤が露出し、リアルな坑道を味わうことができた。坑道の中には自分一人だけ。320m先の行き止まりまで進んで引き返すと、どこからともなくザクザクと音が聞こえる。さては生き埋めになった抗夫が出たかと身構えたら、正面から入場者が現れた。ホッとして道を譲った。鉱山を堪能できた。
10:30にふたたび雪の中を歩き始め、金精神社を経由して、11:07に広兼邸に到着した。金精神社は、なんというか、下ネタ系の神社。放送コードに引っかかりそうなので、鳥居付近の写真のみ掲示しておこう。
広兼邸は、山村に突然現れる城郭。一般民家には到底見えない。とにかく石垣が立派。大手門とでも名付けたくなるような門を潜り、入場料を支払う。受付の女性が、この石垣は広兼家が2代をかけて築いたもので、地中にも同じぐらいの石垣の礎石が埋まっていると説明してくれる。残念ながら、靴を脱いで上がることはできない。映画の「八つ墓村」で使われたという迫力のある造り。
11:22に広兼邸から行動を再開。このあたりは道標の数が少なく、地図を見ながら慎重に進む。舗装された農道を歩いて、12:06に県道85号線にふたたび合流し、右折して南に進む。宇治中組あたりを通過中に、朝から降っていた雪はとうとう雨に変わった。
ときおり自動車が通過する県道85号線を進み、12:23に宇治の街並みに入る。元仲田邸という旧家を改造した郷土料理の店が目に入ったが、残念ながら休業中。県道300号線を横切って先に進んだ。
右手に宇治高校が見え、その近くに飲食店らしきのぼりが見えたため立ち寄ってみた。普段は高校生相手に弁当を売っているようだが、本日の用意はないよう。かわりに近くの営業している食堂を教えてもらった。教えられて行った先が島木川という割烹で、なんと先ほど立ち寄った元仲田邸の真ん前だった。看板が小さくて気がつかなかった。
雨具を脱いで、昼食とした。日替わり定食を頂いたが、野菜の炊き合わせがとても美味しい。野菜の味をしっかり感じる薄味で、きれいな色合いで仕上げてあり、そのわりには出汁が効いている。いい店を教えてもらった。
お腹がくちくなったところで、13:15に行動再開。雨具を着けていると、お店の女性が「バイクですか」と尋ねてきた。「歩きです」と答えたら、「こんな日に」とあきれられた。
宇治の家並みを進んで、13:29に町外れで県道300号線に合流。左折してふたたび南に進む。道路は細くなり、自動車はほとんど通らなくなる。13:46に吹屋に向かうかぐら街道を横切る。右手に島木川を越える島木川大橋が架かっていたため、橋の真ん中から川を覗いてみた。川は50mほど下を流れており、水量はそれほど多くない。
さらに県道300号線を島木川沿いに進む。このあたりは、自動車の通らない心地よい道が続く。羽山渓に入ったようだ。右手からかすかに川の音が聞こえる。左手には岩壁。頭上に覆い被さるようなオーバーハングに岩を削った道路を過ぎる。右手にはトロッコの通るような幅の狭い赤い橋と、その隣には自動車の通ることのできる天竜橋。橋の向こう側に四阿が見えたので、トロッコの橋を渡ってコーヒー休憩とした。対岸から眺めてもすごい道路だ。川の水の色も美しい。
オーバーハングを眺めながらコーヒーを楽しんで、14:23に行動再開。この先は素掘り感のある羽山第1トンネル。100mほどのトンネルで、照明はない。20mほども進むと、自分の足音が反響して聞こえ、後ろを振り向くと出そうで心配になる。正面の開口部だけを見て進み、無事に何も出ないまま通過。夜はここを通過できるか自信がない。
トンネル出口には天然記念物の「羽根の地層の逆転構造」があると看板に書いてあるのだが、どこがそれなのか皆目分からない。ここはタモリさんの出番だ。
トンネルの先のゆったりとした右カーブを下ると、道路脇に3台の車が停めてある。紅葉も桜も見られず、山菜もきのこも採れないようなこんな時期に、こんなに山深いところに車を停めてすることといえば、ヤマメの密漁か、死体を捨てに来ることの2つしか思いつかない。どちらにしても関わりたくはないなと考えながら先に進む。
すると、前方にふたたび素掘りのトンネルが見え、今度は女性が手を振っている。ここで思いついたのが3つめの可能性。車で山中に拉致された女性が逃げ出して、助けを求めているのだ。
しかたがない。相手は誰だと、ポケットの中の右手をぐっと握りしめた。近づいてよく見てみると、女性はトンネルのずいぶん上の岩場でロッククライミングしている二人組の男性に手を振って指示を出しているのだった。早まらなくて良かった。こぶしの力を抜いた。
後で調べて分かったが、ここは羽山第2トンネルという素掘りの有名なトンネル。自動車の屋根をこすりそうなスリリングなスポット。ロッククライミングでも、穴小屋という難易度の高いコースとして知られている。
15:06に羽山集落を通過。その先の明治橋を渡ると、左手に水力発電所が見えてきた。ずいぶん上からパイプが配置されている。
さらに30分ほど歩くと、道ばたに「枝の不整合」という看板がある。枝地区にある地殻変動でできた、中生代のめずらしい地層のようで、矢印の示す方に行ってみたが、どこがそれか分からない。タモリさん、いつか解説をお願いします。
この先の県道沿いは人家が増えてきて、道路もきれいになっていく。どこからともなく自動車も増えてきた。
3日ぶりの信号を通過して、16:07に成羽の成羽川に架かる総門橋に到着して、ここで中国自然歩道を離脱。総門橋を渡って、対岸を走る国道313号線に進む。
本日2つめの信号が青に変わるのを待って国道313号線を渡る。正面に白い気になる建物がある。成羽美術館だった。バスの時間を考えると、美術館に入館して見学するのは困難。入口まで行って、受付の女性に誰の設計かと尋ねると、「安藤忠雄さんです」と返ってきた。バスの時間まで30分ほどしかないのが残念。
16:30に美術館の隣のたいこまるプラザのロータリーのバス停に到着して行動終了。プラザの女性が、「寒いから中でお待ちください」と声をかけてくれる。
2022年2月13日 中国自然歩道33日目 岡山県高梁市成羽町吹屋~高梁市成羽町成羽 雪 3/-3℃ 行動距離21.9km 行動時間7:07 獲得高度707m 32573歩
復路交通: 成羽16:54備北バス-高梁17:10/17:31伯備線-岡山18:27/18:36のぞみ273号-博多20:19