とりあえず、歩くか。晴れた日は星空の下で寝るのもいい。

週末の九州自然歩道のトレッキングや日常の雑感です。英語版のトレッキングログもこちら https://nayutakun.hatenadiary.com/  で公開しています。

川本町悠邑ふるさと会館

 島根県の山深い里にある邑智郡川本町。人口は3000人ほどのごく小さな町である。東京から一番遠い市と言われている島根県江津市広島県三次市との間をつなぐJR三江線が2018年まではこの町を通っていたのだが、すでに廃線から4年が経過し、町はずいぶんと寂しくなってきている。中国自然歩道トレッキングの際に、ここを訪れている。

山陰の山深い地にある川本町

町の真ん中を江の川(ごうのかわ)が流れる

 その川本町の中心の小高い丘の上に聳えるのが悠邑(ゆうゆう)ふるさと会館。千人を収容できる立派な音楽ホールと図書館、会議室を備えた複合文化施設に加え、隣接した敷地にはホテルのかわもと音戯館(おとぎかん)が建つ。

南から坂を上って川本町の中心に進むと宮殿のような建物が見えてくる

悠邑ふるさと会館

 川本町が音楽にこだわるのは、町にある県立川本高校(現在は邑智高校と統合して島根中央高校)の吹奏楽部が全国大会優勝5回の実績を持つことにある。町は1985年に「音楽の町」宣言を行い、町を挙げての「音楽の里」構想を策定している。

 中国自然歩道トレッキングで川本町にたどり着いたときには、町に入る坂を上った先の悠邑ふるさと会館を見て、アテネの丘の上に聳えるパルテノン神殿ように感じた。もっとも、アテネの方には行ったことはないけれども。失礼ながら、こんな小さな町にこんな立派な建物があるのが不釣り合いに感じたほど。

かわもと音戯館

 廃線になる直前まで、JR三江線が江津と三好との間をつないだ便は1日5便あったそうだが、現在川本町と広島とを結ぶ高速バスは1日2便のみ。福岡への帰途につくためのバスの時間まで5時間あったため、悠邑ふるさと会館の中にある図書館でゆっくりさせてもらった。

三江線石見川本駅跡は銀行が入居している

 親切な図書館司書さんに建物のことを尋ねてみたら、資料を出してくれた。それによると、総工費は32億8千万円、鉄筋コンクリート地下1階地上3階建、1995年着工1996年10月竣工。設計は新居千秋都市建築設計。

 新居千秋と聞いて思い当たったのが新潟市秋葉区文化会館と新潟市江南区文化会館。いつかの出張の折りに、新潟駅から自転車を借りて行ってきたあそこだ。片道20kmほどあって、しかも帰りに自転車がパンクしてひどい目に遭ったのでしっかり憶えている。

新潟市秋葉区文化会館 新居千秋設計

新潟市江南区文化会館 新居千秋設計

 この機会に新居千秋氏の作品を調べてみると、業界の賞をたくさん取っている。よく知られたものには、横浜赤れんが倉庫のリニューアルを手がけている。

横浜赤れんが倉庫

 その他にも有名作品があり、日本建築大賞とBCS賞をとっている大船渡市民文化会館・市立図書館(リアスホール)、SDReviewと吉田五十八賞を獲得した水戸市立西部図書館が気になる。また、日本建築学会賞、日本計画行政学会計画賞、アルカシア賞と3つも栄誉をうけている黒部市国際文化センターコラーレは、アクセスがとても大変そうなところにあるが、いちど訪問してみたい。

 すでに見学した新潟市秋葉区文化会館は村野藤吾賞、そして悠邑ふるさと会館・かわもと音戯館は島根県景観賞を受賞している逸品だった。

 建築業界のことはあまり詳しくはないのだが、1点で数億円から数百億円もの建設費の投じられた芸術作品を鑑賞するのは楽しいものだ。たぶん、設計も施工も大変な苦労の連続だろうが、その作品が数十年も数百年も残されることを、建設に関わった方達は誇りに思っているだろうなといつも感じている。