とりあえず、歩くか。晴れた日は星空の下で寝るのもいい。

週末の九州自然歩道のトレッキングや日常の雑感です。英語版のトレッキングログもこちら https://nayutakun.hatenadiary.com/  で公開しています。

2022年9月19日 自然歩道ウォーカーの休日 京都満足稲荷

 本日は3連休の最終日。東海自然歩道トレッキングを継続すべく、7:30に京都駅前のホテルを出た。京都からは8:00発のJR琵琶湖線に乗り、8:14に石山駅に到着。ここまでは予定どおり。

京都からJR琵琶湖線石山駅に到着

 石山駅の改札を出たところに掲示が出されている。これも想定内。

台風で午後から運休になるのも想定内だったが、、、

 しかしその内容は想定外だった。それは、琵琶湖線の本日の最終便が13時台だということ。昨夜にJR西日本のHPを確認したときには、台風直撃のために「夕方には運行を終了します」と書いてあった。13時はまだ夕方じゃないだろ?

 現在、大型の台風14号が本州を直撃。九州では風速50mを記録している。台風の進路予測はトレッキングコースのまさに真上。しかし、しかし、まだ早いだろ?琵琶湖線よりも間違いなく線路の貧弱な信楽高原鐵道でさえ18時まで運行すると言っているのに。

 こんな愚痴をこぼしても鉄道は動かない。駅のベンチに腰を下ろして善後策を検討する。

 今日の行程は、石山駅から8:25のバスに乗ってアルプス登山口に8:52に到着。そこから20km強のコースを紫香楽宮跡まで進み、16:13の信楽高原鐵道紫香楽宮跡から貴生川(きぶかわ)、16:34のJR草津線に乗り換え、草津からは17:06の琵琶湖線に乗り換えて、京都からはリムジンバスに乗って大阪伊丹空港に18:45に到着。たこ焼きと551でも食べてから、20:10の飛行機で福岡に戻る予定だった。夕方には行程を終了できる予定だったのに。

 グズグズ言っても始まらない。もし、当初予定していた8:21に石山駅前を出発するバスに乗って終点のアルプス登山口まで行き、その後は休まず20kmを走ったらどうなるか考えてみた。行程の大部分は非舗装の登山路で、死ぬ気でがんばっても5km/hだろう。紫香楽宮跡到着は甘く見積もっても14:00。紫香楽宮跡14:03発の列車があるが、貴生川には14:17に到着、草津到着は14:47。ハイ、終了。

 その前の紫香楽宮跡発の列車は13:03。草津到着は13:47。これでも間に合わない。

 今日の行程は、トレイルランの選手クラスが空荷で走っても間に合わない行程。こんな日もあるさと諦める。そのかわりに、残った時間を楽しくする方法を考えてみる。

 思いついたのが、現在ベンチに座っているJR琵琶湖線石山駅からすぐ近くの、京阪石山駅まで行き、京阪電車に乗って京都まで行ってみること。大津や石山から京都まで戻るにはJRが便利。京阪電車はJRと比較して圧倒的に遅く、高く、駅も中心地から少しずつズレていて不便。しかし、JRが逢坂山トンネルで一気に京都-大津間を走り抜ける比較して、京阪は東国からやってきた旅人が京に向かってエッチラオッチラと逢坂の関の跡と考えられる場所を登っていくかのようなコースを通過する。これがいい。

 まずは8:50にJR石山駅に隣接した京阪石山駅を発車する2両編成のワンマンカーに乗り、浜大津で京都行きに乗り換える。京阪電車浜大津の駅を出ると自動車が頻繁に行き交う道路を電車が突っ切るのだが、坂本行きと京都行きの線路が敷設されているため、交差点上のポイントの錯綜具合がすごい。

京阪石山から京都に向かう

浜大津の交差点(2022年7月10日撮影)

 浜大津の次の上栄町の手前では、逢坂(大阪)と書いた石碑が右手にチラリと見える。この辺りが逢坂の関だったのかなと考えを巡らせる。

 さらに高度を上げていくと、右手に国道1号線のトラックが走るのが見える。いまは関所がないのでスイスイ走っているが、かつては荷を積んだ馬車は通行料を徴収されていたのかななどと妄想する。

 峠の近くでトンネルに入る。トンネルを出ると大谷駅。このあたりで地図を開いて見てみると、東山駅の近くには京都市美術館京都市京セラ美術館)がある。たしか、アンディ・ウォーホール展をやっていたなと思いだし、下車することとした。

 東山駅からは古都の風情の残る落ち着いた町並みを眺めながら北に進む。京都市美術館の開館時間まで時間があったため、まずは平安神宮にお参り。巨大な朱色の鳥居がシンボル。台風直撃のため人は少ない。

東山界隈は雰囲気がよい

平安神宮の鳥居をくぐる

左近の桜

右近の橘

 京都市京セラ美術館は、前田健二郎が大正末から昭和の初め頃に流行していた帝冠様式という築地本願寺のようなゴテッとして時代がかったスタイルに設計したもの。コンペ当選案をもとに京都市土木局営繕課が設計して1933年に竣工した。2020年に青木淳・西澤徹夫設計共同体のコンペ案でリニューアル・オープンしたが、費用の捻出のためにネーミングライツを京セラに50年50億円で売ったが、賛否両論ものすごかった。いや、稲盛さん50億ってすごいわ。

 アンディ・ウォーホール展はいま一歩じゃないでしょうか?じつはもともとカメラやコピー機でできてしまうタイプの芸術は苦手。福岡市美術館にも「エルビス」が所蔵されているが、何億円もしただろうこのコピーが何版あるのかと考えると、もうダメ。

今回はすべて撮影OKでした

 今回の展示は、アンディ・ウォーホールが京都のどこを旅行して、なんて感じのまとめ方をしていたけど、カリスマ性のあるアーティストが立ち寄った場所を追憶しつつ、彼の作品を並べただけ。ジャポネスクの習作を追加して展示しただけかな。インパクトは小さい。

 京都市京セラ美術館を出ると、仁王門通りに沿って流れる川が気になった。これは琵琶湖疎水の豊富な水だ。疎水の水を辿って300mほど東に進むと蹴上(けあげ)インクライン。ここは琵琶湖疎水を水運に使っていた頃、京都寄りの南禅寺船溜りと大津側の蹴上船溜りの間の高低差を越えることができない船を軌道上の台車に乗せてケーブルで上下させていた施設。現在も600mを越える軌道が復元・保存されている。軌道上を歩くこともできる。インクラインの上部には蹴上発電所も残されている。インクラインが現役だった頃は、船を引き上げるケーブルは、ここで発電される電気で牽引されていたという。

仁王門通り沿いに琵琶湖疎水が流れる

東に300m進むとかつての船溜り

その先のインクラインを歩くことができる

この台車で船を上げ下ろししていた

発電所の送水管も

 インクラインからは琵琶湖疎水の分線を辿って山中を進み、南禅寺に到着。まずは境内にある琵琶湖疎水の水路である水路閣を見物。美しいレンガ造りの水路。水路閣はいまなお現役の水路として機能している。

琵琶湖疎水の分線沿いに南禅寺に向かう

いまなお現役として働く水道橋の水路閣

 さらに有名な庭園を見物して、ついでに三門にも登ってみる。南禅寺の三門は石川五右衛門が満開の桜を眺めて、「絶景かな、絶景かな」と決めるところ。歌舞伎だけの話かもしれないが。

南禅寺の庭園にも寄らないわけにはいかない

三門にも登楼する

絶景かな

 南禅寺の水は美味しいらしく、門前の湯豆腐が有名。今日は残念ながら購入した食料を消費しなければならないため、湯豆腐は涙をのんでパスした。

 ここまで歩いたところで、帰りの飛行機が飛ぶのか心配になってきた。そこで京都市国際交流会館のロビーに入り、冷房でよく冷えた室内で航空便の運行状況を検索。昨夜の段階では、飛べるかも、みたいな状況だったが、、、欠航!!!嫌な予感は的中するもの。

京都市国際交流会館

 まずしなくてはならないのは、福岡までの交通の確保。新幹線は昨夜の段階で山陽新幹線は全日運休だった。航空会社のHPにあるアドレスに宛ててメールをするが3日以内に返事をするとか、自動返信の悠長な反応。やむなくオペレーターに電話を掛けるがまったくつながらない。たぶん、いまは1万人以上が必死になって電話を掛けているはず。

 打ちひしがれて京都市国際交流会館を出る。近くのお稲荷さんにお参りしてみた。その名も「満足稲荷」。太閤さんの願いを叶えてくれたという。お賽銭を投入して願を掛ける。境内から、もういちど航空会社に電話を掛ける。なんと一回で繋がった。

満足稲荷

 やさしいオペレーターが、明日の福岡便はすべて満席だということ、払い戻しには応じてくれるということ、欠航証明を発行してくれることなど、丁寧に説明してくれる。新幹線で帰ろうかと諦め掛けたその時、「ちょっとお待ちください。ただいま伊丹空港17:10発の便が1席空きました」。満足稲荷最強である。

 次いで、神社の境内から明日の仕事関係のメールを打ちまくる。1件を除いて処理できた。所詮、自分なんぞいなくても地球は回る。残る1つの案件も、慈悲深いスタッフが処理してくれるはず。

 これですべきことは、本日の宿探しのみ。スマホに保存してある京都のお値頃ホテルリストの上から電話を掛け始めたら1番目でヒット。満足稲荷またもや効力発揮。

 毎週山歩きをしていると、さまざまなことが起きる。台風直撃はこれで3回目。イノシシ、シカ、タヌキは当たり前。緊急時に慌てず騒がず焦らずに対応できる度胸が身についてきた。しかしさらに問題は、次のトレッキングは、すぐ3日後の木曜日に福岡発大阪伊丹空港インで、日曜の夜に中部国際空港発福岡の便に乗らなければならないこと。予定では概算で80kmを3日で歩く予定だったが、さらに20km以上延びてしまった。こういう事態に対応することも修行の一つである。