福岡の春の味はシロウオ。料理屋では漢字で白魚と書くことも多いが、シラウオとの混同を防ぐためにここはシロウオと正確に表記することとする。
2月上旬になると、福岡の西区と早良区を境する2級河川の室見川では、河口にほど近い筑肥新橋付近にシロウオ漁の簗(ヤナ)が設置される。河口に向かって、枝を編んで組み上げた壁をV字型に広げたものをいくつか配置し、V字の頂点の部分には遡上するシロウオを捕獲するための金網を取り付けたものだ。時折、長靴を履いた男性が金網を持ち上げシロウオを収穫している。江戸時代から続く、伝統的な漁法である。
福岡で有名なシロウオ料理といえば、生きたままポン酢で食べる踊り食い。通は嚥下中に喉で跳ねるシロウオの感触が堪らないと言う。しかし通でない私は、2回試みてみたが、味わう余裕はなく、胃の中まで落ちた後もまだ動きを止めない命を感じただけだった。どちらかというと、かき揚げや卵とじ、吸い物のほうが美味しく感じた。
シロウオ(素魚、鱊、Leucopsarion petersii )は、スズキ目ハゼ科の魚。成魚でも5cm程度の小さな体の魚である。体はわずかに黒い色素細胞がある以外はほぼ透明で、眼球や脊椎等が透けて見える。北海道南部から九州南部まで、それと朝鮮半島南部にも分布している。
通常は沿岸の浅い海に生息しているが、早春には成魚が川の下流域に遡上して産卵する。室見川ではそのタイミングの成魚を梁で捕獲するわけである。
シロウオとよく混同されるシラウオは、生態や姿が似ており、区別されずに流通していることさえあるというが、シロウオとは系統の異なるキュウリウオ目キュウリウオ科の魚である。とくに狭義には、その中の1種 Salangichthys microdon の和名がシラウオである。汽水域に生息し、生きている時は半透明の白色で、背骨や内臓などが透けてみえるところも似ている。大きな違いはシラウオにはキュウリウオ目の特徴であるあぶらびれ(背びれの後ろの小さな丸いひれ)があること。成魚は8cm程度と、シロウオよりも大きい。
日本にはシラウオは3属4種が分布するが、アリアケシラウオSalanx ariakensisとアリアケヒメシラウオNeosalanx reganiusは有明海周辺だけに分布している。これらは近年、個体数が激減しているようである。地元の固有種であるので一度見てみたいと思っている。
ところで、ここで出てきたキュウリウオ科であるが、意外と身近な魚で、アユ、シシャモ、シラウオ、ワカサギなどを含んでいる。ほとんどが淡水魚か、あるいは海洋と河川を往復して暮らす遡河性の魚類である。
科名のもとになっているキュウリウオについても、そんな魚なんか見たことがないと思っていても、北海道では「キュウリ」という名前で一夜干しなどの食材として市場に出回っており、珍しい魚ではない。さらには、日本国内のスーパーで売られている子持ちシシャモの大部分は、漁獲量が極端に少ないシシャモである可能性はほとんどなく、同じキュウリウオ科のカラフトシシャモかあるいはキュウリウオのどちらかであることがほとんどであるので、知らず知らずに食べたことがありそうだ。