とりあえず、歩くか。晴れた日は星空の下で寝るのもいい。

週末の九州自然歩道のトレッキングや日常の雑感です。英語版のトレッキングログもこちら https://nayutakun.hatenadiary.com/  で公開しています。

2020年10月3日 九州自然歩道 55日目 熊本県球磨郡五木村頭地~水上村白蔵越 標高1000mの心地よい林道を歩く

 金曜日の昨夜は熊本県人吉市に前泊した。現在トレッキングしているのは九州山地の中になるため、まずはトレッキング再開地に到着するのが一苦労。今朝は前泊した人吉のホテルを6:00に出て、人吉駅から7:02の五木村行きの数少ないバスに乗った。標高1000m近い山々から川辺川に見事なV字を形成した谷の東岸をバスは走り、8:00に五木村頭地に到着した。天気は快晴。気温は22℃。最高のコンディションだ。

f:id:nayutakun:20201004173424j:plain

五木村の中心地 頭地

 五木村からは国道445号線を川辺川に沿って北上する。先週は上流から歩いた道だが、何度歩いても美しい渓谷だ。ここがダム湖に沈むのは残酷だ。トンネルを抜け、つり橋を右手に眺め、9:00に4.3km先の竹の川に到着した。ここが先週、九州自然歩道から離脱した地点。竹の川から県道161号線に右折して下梶原川に沿って東に進む。

f:id:nayutakun:20201004173524j:plain

五木村から川辺川に沿って上流に向かって歩く

f:id:nayutakun:20201004173603j:plain

道路からずいぶん下を川辺川が流れる

f:id:nayutakun:20201004173636j:plain

トンネルを抜け

f:id:nayutakun:20201004173656j:plain

つり橋を右手に見て

f:id:nayutakun:20201004173715j:plain

川辺川に右側から下梶原川が合流する竹の川が前回の離脱地点

f:id:nayutakun:20201004182826j:plain

今日は右折して下梶原川を上流に向かう

 下梶原川はヤマメのキャッチアンドリリース制限をしている珍しい川。キャッチアンドリリースとは、釣った魚を持ち帰らずに、そのまま逃がすスポーツフィッシングに特化した釣りの楽しみ方。少ない傷で魚を針から外すことができる、返しのない針を使う。しかもルアー、フライのみで、エサ釣りは禁止。魚とのだまし合いに限定しているわけだ。このあたりには、観光にスポーツフィッシングを導入した先駆者がいるようだ。それにしても透明度の高い川だ。川辺川もきれいだったが、乳白色の濁りが特徴的だった。これに対して、下梶原川は透明度が極めて高く、水中の石が一つ一つ数えられるほど。

f:id:nayutakun:20201004182913j:plain

キャッチアンドリリース(C&R)の案内表示

f:id:nayutakun:20201004183016j:plain

透明度の高い下梶原川

 30分ほど舗装路を歩くと、三浦の集落を通過した。対岸の山に石灰岩の岩肌が見え、その真ん中に穴が開いている。天狗岩という名だと解説する看板が設置してある。時間があったらこの穴の中を覗いてみたい気もするが、どうも簡単にそこに行ける道はなさそうだ。

f:id:nayutakun:20201004183124j:plain

三浦集落の対岸にある天狗岩

 道路沿いには水力発電所が現れた。この地域一帯には水力発電所が多い。このあたりの水力発電は、大型のダムを利用したものではなく、川の上流の取水口から、下流に送水管で送って発電に使うもののようで、規模は小さいようだ。川の様相が大きく変わることがなく、好感を感じる。

f:id:nayutakun:20201004183225j:plain

原発電所

 さらに20分ほど歩くと蛍の里という民宿が現れた。竹の川で看板を見かけた民宿だ。川べりに建つワイルドな趣のある民宿だが、営業中の札がかかっているので覗いてみることにした。時間が少し早いが、イノシシ肉のランチもいいかと思ったからだ。しかし、ここのところしばらく営業はしていないとのこと。残念ながら先に進む。

f:id:nayutakun:20201004183318j:plain

民宿蛍の里 残念ながら休業中

 さらに下梶原川の上流に向かって舗装路が続く。右手につり橋が見えてきた。小原(こばる)橋という50mほどの長さのつり橋だ。対岸に家は見えないが、かつては住む人がいたのか、それとも里山の管理にでも使うのだろうか。とりあえず、つり橋を見かけたら渡ることにしている。橋の上からの眺めは最高だった。

f:id:nayutakun:20201004183512j:plain

小原橋

f:id:nayutakun:20201004183538j:plain

橋の上からの景色は最高

 10:34に本日10km地点の一の股橋に到着した。ここで橋を渡ったら日当方面に向かう大規模林道に分岐しているが、林道は通行止めとなっていた。小休止の後、九州自然歩道のコースに従って、さらに上流に歩く。

f:id:nayutakun:20201005082346j:plain

五木村から歩いて10km地点の一の股橋

f:id:nayutakun:20201004183722j:plain

さらに上流に向かって進む

 幸いこれまでのところ、舗装された道路にはそれほどひどい崩落個所はなく、歩きにくいようなところはない。ほとんど自動車の通行もなく快適に歩くことができる。山はどんどん深くなる。谷底まで太陽の光が届き、暖かくなってきた。ポツンと現れた民家の傍には、シイタケの圃場とソバの畑があった。

f:id:nayutakun:20201005082614j:plain

スクリーンで囲まれたシイタケの圃場とソバ畑

f:id:nayutakun:20201004184124j:plain

さらに山が続く

f:id:nayutakun:20201005082934j:plain

ときどきこんなところがある

 12:00に下梶原の集落に到着した。ここには直進方向通行止めの大きな看板が立てかけてある。事前に現地に電話で確認したところ、九州自然歩道の進むこの先の峠は歩いても越せない状況で、さらに峠を超えた先の球磨川上流部は豪雨による被害が大きく、入山禁止になっているとのこと。やむなく、ここから大きく迂回して日当に向かい、林道を経由して九州自然歩道に復帰可能なところまで進むこととした。

 数軒の家からなる下梶原集落で橋を渡り、今度は下流に向かって西に方向を変えた後、スイッチバックを繰り返して山の上に向かう。正面に美しい山が見えてきた。おそらく高塚山だ。スギとヒノキの植林の中を高度を上げながら進み、13:10に標高867mの峠に着いた。

f:id:nayutakun:20201005083145j:plain

まずは下梶原川を右手に見ながら下流に向かう

f:id:nayutakun:20201004184639j:plain

分岐部でスイッチバックし、傾斜のきつい林道に入った

f:id:nayutakun:20201004184708j:plain

さらにスイッチバックしながら高度を上げていく

f:id:nayutakun:20201004184743j:plain

正面には高塚山が見えてきた

f:id:nayutakun:20201004184958j:plain

杉林を抜けたら峠

 車がまったく通らない舗装路の真ん中に寝転がって休憩。空の青さが目に沁みるほどきれいだ。気温は22℃。心地よい風が左から吹く。葉のこすれあう音以外は何も聞こえない。

f:id:nayutakun:20201005091156j:plain

峠に寝転がって見上げた空の色が、沁みた

 峠から林道は2つに分かれる。一つは頂上の標高が1200mほどの無名の山の北を回って広域林道に出るコースで、5kmほどと距離は短いが2か所の谷をアップダウンする。もう一つは同じ山の南を通るコースで、最初に200mほど登って標高1000mに到達した後は、等高線3本程度(30m)を上下するだけのほとんど平坦なコースだが、距離は北回りの2倍以上ある。ここまでの行程を振り返ると、沢のあるような深い谷では道路の崩落が生じている可能性が高い。今回は道路の崩落のリスクが少なそうな南大回りコースを選択した。

f:id:nayutakun:20201005090959j:plain

峠から南回りの距離の長いコースを選択

 南回りコースは未舗装だがよく整備された広い林道だった。人の手がしっかり入った杉の植林があるので、林業に活用されている道路なのだろう。自動車の轍もくっきりとついている。標高が1000mとなったところで厳しいアップダウンはなくなり、日当たりの良い快適な林道が続く。

f:id:nayutakun:20201005091550j:plain

未舗装だが広い林道、両側にネットが張ってある

f:id:nayutakun:20201005091630j:plain

標高1000mの快適な林道 ここにもネット

 林道の道路脇には黒いネットを張ってある。歩行者の転落防止のためではないだろう。おそらくシカが新芽を食べたり樹皮を剥ぐのを防ぐためのネットだろう。

f:id:nayutakun:20201004191253j:plain

景色も良好

 しばらく歩いたところで道路の大きな崩落個所があった。ここから急に道路が荒れ始めた。崩落個所から先はしばらく自動車が入っていないからだろう。それでもたいして歩きにくいわけではない。ときどき木を跨げばよい程度だ。

f:id:nayutakun:20201004191025j:plain

この程度は何ということはない

f:id:nayutakun:20201004190944j:plain

時には崩落個所も

 気持ちよく林道を歩いていたら、ほんの20mほど先にシカが見え、すぐに斜面の下に走って逃げた。お尻の白いマークが印象的。まだ小さなシカで、食事に集中したあまり、私の足音に気が付かなかったようだ。珍しいことに斜面の下からこちらを観察している。道路が崩落した後は人があまり入っていないため、人を珍しく思ったのだろうか。写真に収めることができたのは珍しい。しばらくこちらをじっと見て、踵を返して逃げていった。その後しばらくは、谷では複数のシカが高い声の警告音を鳴らしていた。

f:id:nayutakun:20201004191111j:plain

こちらをじっと見つめるシカ こんな近くで立ち止まるのは珍しい

 15:30にりっぱな舗装路の広域林道に合流した。ここまで歩いた距離は22.9km。現在の標高は1122m。南回りの林道で正解だったかもしれない。崩落個所はあったものの、それほど苦労せずに通過できたから。

f:id:nayutakun:20201005125607j:plain

舗装された広域林道に合流

f:id:nayutakun:20201005125639j:plain

道路脇にはアケビが成っていた

f:id:nayutakun:20201005125705j:plain

 舗装路を1kmほど歩いて、16:05に白蔵越の峠に到着した。ここから舗装路を離れ、五木村から水上村に向かう林道に入る。林道の整備状況は良好。正面には市房山が見えてきた。立派な山だ。

f:id:nayutakun:20201005125756j:plain

白蔵越に到着

f:id:nayutakun:20201005125848j:plain

奥の尖った山が市房山

 このあたりの山の手入れは非常に良い。しばらく林道を歩き、高度が900mを切った辺りで、林道わきに心地よさそうな草地を見つけた。16:46と少し早めだが、谷間ではすでに日が落ちている。草地の小石や杉の枯れ枝をどけて整地し、テントの設営を開始した。

f:id:nayutakun:20201005125927j:plain

2020年10月3日 九州自然歩道 56日目 熊本県球磨郡五木村頭地~水上村白蔵越 晴れ 気温22/9 距離26.0km 行動時間8:46 平均速度3.7km/h 40964歩

パイクス・ピーク・コグ鉄道

 2010年の秋に、仕事で米国コロラド州デンバーに行く機会があった。仕事の現場はデンバー市街からさらに170kmほど西の山中にあるキーストーンKey Stoneであったため、デンバー国際空港に到着した後、レンタカーを借りてとりあえず郊外のモーテルにチェックインした。キーストーンはスキーリゾートとして有名なのだが、10月はシーズンオフで、公共交通機関で向かうのは困難なため、レンタカーしか選択肢はなかった。到着翌日は現場に到着して、登録だけすれば良いので、ほぼ一日中自由に使える。せっかくコロラドに来たから、トラウトでも釣りに行ってみようかな、などと思いながら、モーテルのフロントにおいてあるパンフレットを見ていてズキュンときたのがPikes Peak Cog Railway(パイクス・ピーク・コグ鉄道)。北米一高いところを運行している登山鉄道だと書いてある。

f:id:nayutakun:20200917192303j:plain

 私は高いところが好きである。デンバーの南にあるパイクス・ピークという標高4301mの山は、「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」というインディ500と肩を並べるような歴史のある自動車レースがあり、日本人の選手が連続優勝記録を伸ばしていたことから聞いたことがあった。しかし、この山に山頂まで鉄道があるとは知らなかった。

 Pikes Peak Cog Railway のCogとは歯車のこと。私はテツ分が少ないので正確さには欠けると思うが、おそらくアプト式のような歯車と歯軌条を使用した鉄道だろう。インターネットで空席状況を確認すると、9:00は満席。ところが10:00の便に奇跡的に最後方右に1席だけ空席がある。これでここに行くことが確定した。

 翌朝は6:00に起床して、モーテルにサービスで置いてあるデニッシュとコーヒーを朝食に摂って出発した。始発駅のあるマニトゥー・スプリングスManitou Springsまでは90マイル(145km)ほど。ハイウェイを飛ばして、2時間ほどで迷うことなく駅に到着して、最後方右の座席の指定券を確保した。

f:id:nayutakun:20200917192338j:plain

f:id:nayutakun:20200917192348j:plain

f:id:nayutakun:20200917192411j:plain

 すでにホームには赤い2両編成の列車が入線している。型式なんかはまったく分からない。軌間は1435mmの標準軌のようだ。山岳鉄道ならば1000mmとか、もっと狭いものかと思っていたので意外。列の最後尾に並び、無事に車両に乗りこむことができた。

f:id:nayutakun:20200917192428j:plain

 無事に列車は出発し、最初は森林帯を走って行く。ディーゼルのようで、ガウガウ音を立てながら谷間や切り通しを抜けて、ぐんぐん高度を上げていく。ところどころに停車場はあるが、誰も乗車する人はなく、列車も止まらずにぐんぐん進んでいく。

f:id:nayutakun:20200917192500j:plain

f:id:nayutakun:20200917192514j:plain

f:id:nayutakun:20200917192525j:plain

 20分ほど走ると森林帯は終わり、荒涼とした風景に変わっていく。ずいぶん下の方に青い水を湛えた湖が見えた。

f:id:nayutakun:20200917192546j:plain

f:id:nayutakun:20200917192615j:plain

 途中には列車の交換をするような施設があった。ここではいったん停車し、保線夫のような人が1名乗り込んできた。

f:id:nayutakun:20200917192631j:plain

 そしてさらに山の上を目指して進む。こんなところに鉄道を敷設して大丈夫かしらと思うようなところを平気で進んでいく。1時間15分ほどでパイクス・ピークの頂上に到着した。

f:id:nayutakun:20200917192650j:plain

f:id:nayutakun:20200917192708j:plain

f:id:nayutakun:20200917192730j:plain

 頂上では折り返しまで30分ほど停車時間がある。その間、あちらこちらうろうろしていたら、少し気分が悪くなってしまった。標高4301mという富士山の山頂よりも高いところにいるわけだから、走ったりすると身体には堪えそうだ。

f:id:nayutakun:20200917192757j:plain

f:id:nayutakun:20200917192809j:plain

f:id:nayutakun:20200917192826j:plain

f:id:nayutakun:20200917193818j:plain

 麓まで降りると、コロラドは黄葉の秋。いい思い出だ。

f:id:nayutakun:20200917192840j:plain

 

2020年9月27日 九州自然歩道 54日目 熊本県八代市泉町仁田尾(五家荘)~球磨郡五木村頭地 清流川辺川を眺めながら子守唄の里へ

 昨夜は五家荘の集落の一つ、仁田尾(にたお)のはずれにテントを設営した。標高は834mあったが、それほど冷え込みはなく、夏用のシュラフで心地よく眠ることができた。谷が深いため陽光が差し込まず、まだ暗かったが、6:00に起床して撤収作業を始めた。今日はバス停まで25kmほどあり、しかもそのバスは1日4便ほどしかないため、早めに行動することとして6:35には行動開始。歩き始めるころに、ようやく山の端を太陽の光が照らし始めた。

f:id:nayutakun:20200928153422j:plain

 行動を始めてすぐにヒゲのおじいさんがウォーキングしているところに遭遇した。挨拶を交わすと、「観光ですか?」と尋ねられた。「観光です」と答えると、「以前、この辺りは秘境とか言われていたけど、今ではこんなにひらけてしまって」との返事。いいや、今でも十分に秘境ですと思いながらも、「ずっとこちらにお住まいですか?」と尋ねると、「お父さんが京都から引っ越してきた。」とのこと。「おじいさんは大宰府で亡くなったけど。」と続く。「ひょっとしたら、おじいさんって、道真(みちざね)さん?」と恐る恐る尋ねてみたら、「そう、わしが49代目。」と返事が来てビックリした。

f:id:nayutakun:20200928153449j:plain

 聞けば、このおじいさん、仁田尾の左座(ぞうざ)家の49代目当主。菅原道真大宰府で亡くなった後、政敵の藤原家に血脈を絶たれることを恐れた長男は、五家荘の仁田尾に逃れて左座太郎を名乗り、初代の左座家の当主となったとのこと。今話している目の前の方が49代目。千年近く前の菅原道真のことを、数年前に亡くなったおじいさんのように語る。道真の次男の方は、菅次郎を名乗って、同じ五家荘の樅木に逃げたとのこと。菅家がまだ続いているかどうかは聞き忘れてしまった。

 五家荘は平家の落人集落だと思っていたが、5つの集落のうち仁田尾、樅木の2つは菅原道真の子孫によって作られ、椎原、久連子、葉木が平家の集落だということも初めて知った。今日は、この秘境がなぜ千年続いたか理解できた。血脈を絶やさないために、徹底的に親から子への伝承があったのだろう。49代を経てなお、おじいさんは大宰府で亡くなった、おとうさんが京都から引っ越してきたと、千年近く前のことをついこの間のことのように口から出てくる当主の言葉を聞けば、それと知れる。

f:id:nayutakun:20200928153533j:plain

 49代目と別れた後は、6km先の椎原に向けてどんどん高度を下げていく。頭の上を水力発電の送水管が超えていく。内大臣峡もそうだったが、九州の脊梁山脈に近いこの地は降水量が多く、水力発電の適地として利用されている。

f:id:nayutakun:20200928153614j:plain

f:id:nayutakun:20200928153631j:plain

頭上を水力発電の送水管が走行する

 稜線はところどころ岩となっており、容易に超えることができない。トンネルをくぐって北向きの谷になると再び太陽の光は差し込まなくなる。谷底からは雲が湧いてくる。谷底には川辺川(かわべがわ)の流れが見えるようになってきた。

f:id:nayutakun:20200928153748j:plain

トンネルをくぐると

f:id:nayutakun:20200928153812j:plain

再び暗い谷

f:id:nayutakun:20200928153835j:plain

雲がここで作られるかの谷

f:id:nayutakun:20200928153856j:plain

遥か下に川辺川が流れる

 脊梁山地に降る雨のため、この地には土砂災害が多い。急な斜面はコンクリートで固められたり、金網で保護されたりしているが、最近、大量の落石があったためか、ところどころガードレールが変形して、今なお難所であることがうかがわれる。

f:id:nayutakun:20200928154012j:plain

 さらに高度を下げると、川辺川の水面が近づいてきた。しかし、豊富な水量の川辺川はなかなか超える場所がない。川が見え始めてから1kmほども上流に遡行して、ようやく川辺川をまたぐ桂橋を越えて対岸に渡ることができた。桂橋の標高は473m。今朝出発した仁田尾の標高は834mあったから、400m近く高度を下げたことになる。橋の上から眺める川辺川は、急流が岩を削るためか、水が白く見える。濁った水とは異なる。ミルクを流したような色なのだ。

f:id:nayutakun:20200928154119j:plain

ここまで高度を落とすがまだ橋は架からない

f:id:nayutakun:20200928154211j:plain

ようやく川辺川を渡る

f:id:nayutakun:20200928154241j:plain

ここまで歩いてきた道が山肌を斜めに走る

 ここから1kmほど対岸の道を上り、昨日、大金峰への登山口に向かうために分かれた国道445号線に復帰し、8:00に五家荘の平家の里である椎原の市街地に到着した。

f:id:nayutakun:20200928154420j:plain

椎原の中心地

 椎原は平家の落人伝説で知られるが、20軒ぐらいの家屋の集まった小さな集落。ほんの少しの商店と生徒のいなくなってしまった小学校がある。小学校は、現在は観光案内所として活用されているよう。

f:id:nayutakun:20200928154505j:plain

現在は生徒のいない小学校

 8:00をすぎて椎原のある谷底にも太陽の光が届き始めた。川辺川に沿って下流に進み、8:30に椎原ダムという小規模なダムに到着した。ダムの水もミルクを流したようにうっすらと白い。川がすぐそばまで迫ったこのあたりの道路は岩を削って作った道で、道幅が狭く、この先500mに離合場所というとんでもない表示もある。

f:id:nayutakun:20200928154556j:plain

f:id:nayutakun:20200928154928j:plain

椎原ダム

f:id:nayutakun:20200928154640j:plain

この先500m離合できず

 川辺川の北岸と南岸の両側に道路がつけられているが、どちらかの道路が崩落のために通行できない状態になってところも多い。国道445号線は北岸から南岸に、南岸から北岸へと橋を渡り、ジグザグに下流に向かって進んでいく。その橋自体も、仮設の橋かと思われるものが時折現れる。

f:id:nayutakun:20200928154822j:plain

対岸は通行不可

f:id:nayutakun:20200928155133j:plain

これは仮設の橋か?

f:id:nayutakun:20200928155155j:plain

 道路の状況にはやや不安があるが、道路の横に流れる川辺川の様子はとても美しい。しばらく川辺川の北岸を通る九州自然歩道を歩いていると、その先の歩道は土砂崩れで進むことができない状態になっていた。やむなく仮設橋のあたりまで戻り、南岸を進む国道445号線下流に進むこととした。

f:id:nayutakun:20200928155323j:plain

f:id:nayutakun:20200928155333j:plain

f:id:nayutakun:20200928155344j:plain

いきなり通行止め

f:id:nayutakun:20200928155642j:plain

橋を渡って九州自然歩道から国道に戻る

 南岸を進む国道は、緩いカーブを描く橋を越えて北岸にわたり、そのまま五家荘トンネルに続く。五家荘トンネルは長さ640mのトンネル。通行する自動車はほとんどなく、気持ちよく真ん中を歩いて進む。

f:id:nayutakun:20200928155735j:plain

カーブした橋を渡り五家荘トンネルの中に入る

f:id:nayutakun:20200928155814j:plain

長大なトンネルを独り占め

 五家荘トンネルを抜けた後、道路は五木村に入る。トンネルを出てからはしばらく日当たりの良い北岸の道を進む。川辺川からはかなり高い位置に道路は取り付けてある。トンネルの先は橋となっているが、この橋は川を渡らない橋。北岸の傾斜地には十分な広さを持った道路が取り付けられないため、橋脚を設置して北岸に沿うような道路が取り付けてある。

f:id:nayutakun:20200928155903j:plain

日当たりの良い北岸

f:id:nayutakun:20200928155933j:plain

川を渡らない橋が続く

f:id:nayutakun:20200928155952j:plain

f:id:nayutakun:20200928160016j:plain

遥か下に川辺川

f:id:nayutakun:20200928160145j:plain

一人で歩くのがもったいないほど美しい山、川、道、空

f:id:nayutakun:20200928160303j:plain

川の色がとろけるように美しい

 橋の名に気を付けて見てみると、宮の首谷川橋なるちょっと薄気味悪い名前の橋もある。かつてここで何があったのだろうかと想像してしまう。道路の高度が下がり、川が近づいてきた。また、水力発電所を通り過ぎる。

f:id:nayutakun:20200928160403j:plain

宮首谷川

f:id:nayutakun:20200928160449j:plain

f:id:nayutakun:20200928160501j:plain

 北岸から南岸への橋を渡ったところの宮園の集落には11:25に到着。ここでは集落のすぐそばを川辺川が流れている。宮園集落には樹齢500年といわれる大きな公孫樹の木がある。雄株のため銀杏の実は付けていない。この木の下にベンチがあったため、しばらく小休止とした。宮園には久しぶりに小売店があったが、日曜は営業していないようであった。

f:id:nayutakun:20200928160545j:plain

宮園集落

f:id:nayutakun:20200928160603j:plain

樹齢500年の公孫樹

f:id:nayutakun:20200928160621j:plain

残念ながら休日はお休み

 11:10に行動を再開し、川辺川のすぐ横を歩く。1kmほど進んだところに、対岸の鶴集落への吊り橋があったため、用もないのに渡ってみた。川から吹いてくる風が心地よかった。

f:id:nayutakun:20200928160717j:plain

f:id:nayutakun:20200928160728j:plain

f:id:nayutakun:20200928160739j:plain

f:id:nayutakun:20200928160750j:plain

吊り橋の上から上流を眺める

 その先は、川辺川の取水のための堰堤や、岩を刻みながら流れる川の景色を楽しみながらゆっくりと歩を進めた。

f:id:nayutakun:20200928160846j:plain

f:id:nayutakun:20200928160858j:plain

 11:55に川辺川が南から流れてくる梶原川と合流する竹の川集落に到着した。九州自然歩道はここから南に梶原川の上流に進むが、今回はここで九州自然歩道を離れ、バス停のある4km先の五木村に向かう。

f:id:nayutakun:20200928160924j:plain

竹の川集落

f:id:nayutakun:20200928160945j:plain

川辺川(右)と梶原川(左)が合流する

 しばらくは川面に近い道路を進むが、橋を渡り、北岸を進むようになると、路面の状態の整った規格の良い道路に変わる。トンネルを超え、新しい橋梁の建設が行われている。川辺川はずいぶん下方に見えるようになってきた。ここは川辺川ダムの建設が進んでいたら水没する予定のところだったのかなと思いながら進む。

f:id:nayutakun:20200928161116j:plain

残念ながらこの吊り橋は通行禁止

f:id:nayutakun:20200928161143j:plain

f:id:nayutakun:20200928161159j:plain

建設中の橋

f:id:nayutakun:20200928161237j:plain

川辺川は遥か眼下に

f:id:nayutakun:20200928161304j:plain

 川辺川がはるか下に見える椿橋を渡る。五木村の中心になる頭地地区はもうすぐだ。カーブを曲がると新しく大きな橋が見えてきた。橋の下にはいくつかの家が残っているが、ほとんどの住居は高台に移った後のようだ。川辺川ダムは建設の是非をめぐり長い間揉めてきたが、現在は中止の方向になっているかと思ったが、これから先はどうなるだろう。

f:id:nayutakun:20200928161448j:plain

椿橋を渡ると五木村の中心地はもうすぐ

f:id:nayutakun:20200928161513j:plain

f:id:nayutakun:20200928161529j:plain

五木村の家々が見えてきた

 13:20に五木村頭地に到着した。五木村は五木の子守歌で知られている。数年前にできたばかりの頭地大橋を往復し、川辺川の両岸にあったはずの住居が移転した跡地を上から眺める。その後に、五木阿蘇神社、村役場、道の駅などを見学し、13:50に温泉施設に到着した。バスの時間まで3時間ほどある。間に合ってよかった。温泉施設で汚れを落とし、ゆっくりすることとした。

f:id:nayutakun:20200928161616j:plain

頭地大橋

f:id:nayutakun:20200928161644j:plain

川沿いの家々はすでにほとんど転居を済ませたよう

f:id:nayutakun:20200928161733j:plain

橋の中央にはバンジージャンプの施設がある

f:id:nayutakun:20200928161800j:plain

五木阿蘇神社

f:id:nayutakun:20200928161822j:plain

道の駅

f:id:nayutakun:20200928161840j:plain

眺めの良い露天風呂

f:id:nayutakun:20200928161917j:plain

2020年9月27日 九州自然歩道 55日目 熊本県八代市泉町仁田尾(五家荘)~球磨郡五木村頭地 晴れ 気温26/9 距離24.3km 行動時間7:16 平均速度3.7km/h 34648歩

2020年9月26日 九州自然歩道 53日目 熊本県下益城郡美里町砥用~八代市五家荘 九州最後の秘境を歩く

 今日は美里町の砥用から九州自然歩道に復帰。本数の限られたバスを乗り継ぐため前日の夜から熊本に前泊している。バスは砥用に8:00に到着し、しばらく民家の並ぶ街並みを歩き、次の目的地の五家荘に続く国道445号線との合流点に8:15に到着した。

f:id:nayutakun:20200927184616j:plain

国道445号線に合流

f:id:nayutakun:20200927184710j:plain

砥用の田んぼも黄金色に染まっている

 まずは15km先の東山本店という五家荘の入り口に位置する土産物店で昼食を摂ることを目標とする。片側1車線の舗装状態の良好な道路を、正面の山をめがけて進んでいく。道路の右には津留川の清流が流れる。国道の交通量は少なく、10分に1台程度。快調に歩を進める。

f:id:nayutakun:20200927184812j:plain

今日の最初の目標はあの山を越えた向こう側

f:id:nayutakun:20200927184912j:plain

国道445号線は津留川と並行して走る

f:id:nayutakun:20200927185005j:plain

 1時間ほど歩いたところで風情のある、やまめ茶屋を通過。まだ営業していないようだ。次いで下津留の集落を通り過ぎる。下津留の集落は週に2便ある美里町コミュニティバスの終点。ここから先にバスは行かないということは、ここから先には美里町の管内の人家はないということだろう。まだ5kmほどしか歩いていない。

f:id:nayutakun:20200927185104j:plain

やまめ茶屋を過ぎる

f:id:nayutakun:20200927185129j:plain

下津留の集落を通過すると国道は狭くなる

 下津留から先は道路の傾斜がきつくなり、またセンターラインのない狭い道路に変わった。自動車はほとんど通らなくなった。道路の脇にニホンミツバチの巣箱がかけてあり、先ほど通過したやまめ茶屋のご主人が長い竹竿を持って巣箱の周囲に振り回している。話を聞いてみると、スズメバチニホンミツバチの巣を狙い、ミツバチを捕獲しているのを退治しているとのこと。たしかに巣箱の周りに大きなススメバチが飛翔している。竹竿の先に着けた粘着剤でうまく捕まえて撃退した。尻尾に長い針を持った凶悪そうなハチだった。

f:id:nayutakun:20200927185228j:plain

やまめ茶屋のご主人の巣箱

f:id:nayutakun:20200927185300j:plain

撃退したスズメバチは凶暴そのもの

 さらに先に進むと、今度は道路工事の現場に出くわした。道路の拡幅工事だと思うのだが、足場を組んで作業をしている。拡幅ならば足場などを組まずに盛土をしそうなものなので、気になって監督さんのような方に工法を聞いてみたら足場を組んでその中に発泡スチロールのような資材を敷き詰める新しい工法を採用しているとのこと。面白い。

f:id:nayutakun:20200927185358j:plain

道路拡幅工事の現場

 スイッチバックを繰り返して先に進んでいくと、砥用の町がずいぶん下に見えてきた。現在の標高は845m。砥用が120mだったので、すでに725mも上ったことになる。道路の状況が良いのでそんなに上まで来たことに気が付かなかったが、植林の切れ目から空が見えるところに来ると、雲の底に近づいたことがわかる。

f:id:nayutakun:20200927185444j:plain

スイッチバックしてどんどん高度を上げる

f:id:nayutakun:20200927185536j:plain

雲底が近づき

f:id:nayutakun:20200927185604j:plain

雲の中に入ってしまった

 11:34に標高1100mの二本杉展望所に到着した。残念ながら雲の中にいるため眺望はなし。

f:id:nayutakun:20200927185703j:plain

二本杉展望所

f:id:nayutakun:20200927185720j:plain

雲の中だった

 昼食を予定していた東山(とうやま)本店には11:44に到着した。ここでは赤鶏そばと赤鶏の串焼きを食べて、サツマイモの天ぷらをおやつに購入して12:35に行動再開した。

f:id:nayutakun:20200927185756j:plain

東山本店

f:id:nayutakun:20200927185816j:plain

赤鶏そば

 東山本店から先は五家荘のエリアになる。そしてここから八代市に入る。国道445号線は再び片側1車線の立派な舗装に変わる。道路の脇には紅葉の始まったカエデがみえる。ここは標高1000m。紅葉が早い。

f:id:nayutakun:20200927185947j:plain

ふたたび立派な国道に

f:id:nayutakun:20200927190007j:plain

カエデの紅葉が始まる

 2kmほどで国道を右に折れ、大金峰(だいきんぽう、おおがなみね、とも)の登山口に入る。10分ほど舗装路を歩き、登山道の木道を登り始める。整備状況は良好。と思ったら、しばらく道が流された区間があった。しかしそれもすぐに終わり、ふたたび快適な山道となる。

f:id:nayutakun:20200927190048j:plain

国道445号線から大金峰の登山口に向かう

f:id:nayutakun:20200927190127j:plain

登山道は整備されていた

f:id:nayutakun:20200927190159j:plain

若干の荒廃区間

f:id:nayutakun:20200927190304j:plain

すぐに心地よい山道に変わる

 大金峰の登山道は最近草刈りが行われたよう。新鮮なササの香りが残っている。1時間ほど歩き、13:56に標高1396mの大金峰の頂上に到着した。残念ながら山頂近くまで植林がなされているため眺望はなし。立派な名前の山なので、どんな眺望があるかと期待していただけに残念。

f:id:nayutakun:20200927190339j:plain

登山道は最近手入れされたよう

f:id:nayutakun:20200927190410j:plain

大金峰の頂上はちょっとガッカリ

 大金峰からは小金峰に向かう稜線の道を歩く。30分ほどで小金峰への分岐点に到着。標高は1320m。稜線の道はほとんどアップダウンがなく、整備状況も良好でとても快適だった。ここでは小金峰のピークを左に眺めながら、九州自然歩道のコースに従って、尾根伝いに高度を下げていく攻(せめる)登山口に向かう。正面には保口岳が見える。

f:id:nayutakun:20200927190513j:plain

大金峰から小金峰への連絡路も整備状態良好

f:id:nayutakun:20200927190618j:plain

小金峰

f:id:nayutakun:20200927190649j:plain

保口岳

 攻登山口はきれいに舗装された林道との交差部分。ここで小休止の後、尾根道を下って攻集落に向かう。ここが今回初めての悪路で、山道はほとんど見えないが、かろうじてテープを頼りに先に進み、40分ほどで300mほどの標高差を下り終えた。

f:id:nayutakun:20200927190756j:plain

攻登山口

f:id:nayutakun:20200927190832j:plain

攻集落までの尾根道が若干の悪路

 攻には広い広場があり、ここからは概ね歩きやすい舗装路となる。自動車はまったく通らないので気にする必要はない。攻集落には2軒のポツンと一軒家があったが、すでに居住者はいないようだった。

f:id:nayutakun:20200927191020j:plain

攻集落の広い草地

f:id:nayutakun:20200927191110j:plain

ポツンと一軒家

 何回かスイッチバックをして高度を下げ、西の岩川に架かった攻橋(せめばし)を越え、対岸に渡る。ここから4kmほどで栴檀轟(せんだんとどろ)の滝。道路の下を流れる西の岩川は、山から流れ込む沢の水を集め、どんどん水量が多くなる。

f:id:nayutakun:20200927191254j:plain

スイッチバックして高度を下げる

f:id:nayutakun:20200927191335j:plain

攻橋を渡って対岸に

f:id:nayutakun:20200927191438j:plain

西の岩川の水量が増えてくる

 17:20に栴檀轟の滝に到着した。道路の状況は良好なのだが、少し疲れてきたためスピードが出ない。明るいうちに有名な栴檀轟の滝に着くことができてよかった。落差が70mほどもある大きな滝で、下から眺めていると水しぶきで身体がだんだん湿ってくる。滝の音も轟の名にふさわしい。滝の正面に設置してある橋の上からゆっくり観察し、先に進んだ。

f:id:nayutakun:20200927191527j:plain

落差70mの栴檀轟の滝

f:id:nayutakun:20200927191557j:plain

橋から眺める

f:id:nayutakun:20200927191616j:plain

まだ水しぶきを感じる

 だんだん日が落ちてきた。深い谷は暗くなるのが早い。しかも、街の明かりがないため、日が落ちたら歩くのは困難になる。栴檀轟の滝から30分ほど歩いたところで民宿の看板があったため、立ち寄ってみたが電気がついていない。

f:id:nayutakun:20200927191706j:plain

日が落ちるのも、暗くなるのも早い

f:id:nayutakun:20200927191731j:plain

民宿は休業のよう

 さらに先に進み、五家荘の集落を形成する仁田尾にある左座家という古民家の民宿を尋ねるが、水害のため施設が被害を受けて現在は宿泊を受けていないとのこと。やむなく18:30まで歩き、ようやく顔を出した月明かりでテントの設置を開始した。 

f:id:nayutakun:20200927191818j:plain

左座家

f:id:nayutakun:20200927191845j:plain

平地を探してさらに進む

f:id:nayutakun:20200927191914j:plain

2020年9月26日 九州自然歩道 54日目 熊本県下益城郡美里町砥用~八代市泉町仁田尾(五家荘) 曇り 気温25/9 距離30.4km 行動時間10:50 平均速度3.3km/h 49924歩

2020年9月22日 九州自然歩道 52日目 熊本県上益城郡山都町内大臣峡~下益城郡美里町砥用  平家由来の内大臣峡から町に下る

 今朝は内大臣峡(ないだいじんきょう)にある民宿、平家の湯で5:00に目を覚ました。せせらぎの音が耳に心地よい。部屋の中に干しておいたテントや寝袋をたたみ、7:00から川に面した部屋で、質素だが心のこもった朝食を摂る。朝食の間には火鉢が用意してあった。部屋に戻って荷物を調え、8:00に行動を開始した。

f:id:nayutakun:20200923134415j:plain

部屋にはすでに火鉢が用意

 内大臣川にかかるつり橋を渡って水力発電所の前を通過。内大臣峡と美里町をつなぐ県道153号線は狭い舗装路で、離合はできそうもない。交通は少ないのでさして問題はなさそうだが。川を挟んだ正面にはお世話になった平家の湯と、その向こうには内大臣水力発電所が見える。さらに振り返ると内大臣峡の深い谷が見える。800年以上前にこの地に逃亡してきた平家の落人は、舗装路もないところを大変だったろうなと思いながら先に進む。

f:id:nayutakun:20200923134457j:plain

吊り橋を渡って県道に戻る

f:id:nayutakun:20200923134541j:plain

県道から川を挟んだ向こう岸には平家の湯と、左奥に水力発電

f:id:nayutakun:20200923134645j:plain

内大臣峡の谷は深い

 内大臣峡の川沿いの道から、県道153号線はどんどん高度を上げていく。内大臣川は緑川と名前を変え、下流の方にりっぱなアーチ橋の内大臣橋が見えてきた。内大臣橋の横の斜面には大規模な崩落の跡。その際に山から転げ落ちたのであろうか、巨大な石が河原に鎮座している。

f:id:nayutakun:20200923135029j:plain

下流方向に内大臣橋が見えてきた

f:id:nayutakun:20200923135103j:plain

橋の横の崩落地からは巨大な石が2つ転がり落ちている

 土砂が流れ込んだ沢で治水ダムの工事をしている現場を眺めていると、工事現場からヒゲのおじさんが走ってきて声をかけられた。「山登りか?毎日山に登れる仕事があるけど、どうや。にいちゃん」と。重い荷物を担いで山を登っている有望な人材と思われたよう。「うちは元請けだから日当はいいぞ」と言われて少し気持ちがぐらついたが、丁寧にお断りして先に進んだ。

 8:55に内大臣橋のたもとに到着した。1963年に完成した、当時は東洋一のアーチ橋だったそう。橋長は199.5mで、水面までの高さは86.7mもあり、眺望は最高。バンジージャンプをしたら気持ちがよさそう。今回は飛び降りずに、反対側まで渡って引き返してきた。

f:id:nayutakun:20200923135306j:plain

完成当時東洋一のアーチ橋だった内大臣

f:id:nayutakun:20200923135405j:plain

川はずいぶん下を流れる

 県道153号線は内大臣橋からさらにスイッチバックを繰り返して高度を上げる。内大臣の地名の由来になった平家の落人の小松内大臣重盛が住居を構えた内大臣集落への林道はここで分岐する。上流に目をやると立派な斜張橋の鮎の瀬橋が見える。ここで道路わきのお地蔵さんの周囲を掃除している女性がいた。挨拶を交わし、お地蔵さんの由来や、昨日泊まった民宿の平家の湯のご主人の話などを伺う。

f:id:nayutakun:20200923135500j:plain

内大臣林道と分岐する

f:id:nayutakun:20200923135528j:plain

谷の向こうに見えるのが鮎の瀬橋の斜張橋

 さらにスイッチバックを繰り返し、高度を上げると内大臣橋はずいぶん下に見えるようになった。ここには出野という小さな集落があり、白糸第3小学校の跡地が現在は高校の校舎に使われていた。内大臣橋を過ぎたところから少し交通量が増えてきたが、それでも10分に1台通るかどうかぐらい。自動車のエンジン音は静かな山中ではずいぶん遠くから聞こえてくるので、自動車を気にせずに快適に歩くことができる。

f:id:nayutakun:20200923152946j:plain

内大臣橋はずいぶん下の方に

f:id:nayutakun:20200923153020j:plain

旧白糸第3小学校

 峠のトンネルを2つ抜け、10:00に屋敷集落、11:15に下福良集落を通過した。いずれも山間の小さな集落であるが、田んぼはきれいに整備されている。11:41に夏水集落に到着したところで、本日はじめての自販機を見つけた。次はいつ飲料水が手に入るか分からない。ここで荷物を下ろして小休止とした。

f:id:nayutakun:20200923153115j:plain

f:id:nayutakun:20200923153128j:plain

f:id:nayutakun:20200923153205j:plain

f:id:nayutakun:20200923153218j:plain

 さらに県道153号線を先に進み、12:23に郵便局のある藤木集落を通過した。道路脇の公孫樹の木から、熟れた銀杏が道端に転がっていた。

f:id:nayutakun:20200923153246j:plain

f:id:nayutakun:20200923153304j:plain

 12:46に県道153号線と緑川ダムとの分岐に到着した。九州自然歩道の本線はそのまま緑川南岸の県道153号線を進むが、そうすると緑川ダムや霊台橋を見ることができない。せっかくなので少し遠回りとなるが、トンネルを抜けてダムの堰堤に出て、緑川の北岸に渡ることにした。

f:id:nayutakun:20200923153344j:plain

f:id:nayutakun:20200923153354j:plain

緑川ダム

 13:05に緑川ダムに到着。満々と水を湛えたダム湖からは放水が行われていた。ダム湖のほとりで、飲料水を飲みながらナッツの昼食とした。

f:id:nayutakun:20200923153432j:plain

ダム湖が広がる

f:id:nayutakun:20200923153451j:plain

現在放水中

 30分ほど休憩して、霊台橋に向かう。公園の横を通り抜け、緑川の北岸の道を進む。しばらくすると船津ダムの横を通り抜け、国道218号線に出た。交通量はそこそこ多い。今日はほぼ1日、自動車のほとんど通らない舗装路の真ん中を歩いてばかりだったので、車の音が気になる。

f:id:nayutakun:20200923153540j:plain

緑川北岸の道を進む

f:id:nayutakun:20200923153605j:plain

船津ダム 立ち入り禁止

 14:15に霊台橋に到着。1847年に造られた、単一アーチ式の石橋としては日本最大のものとのこと。通潤橋に先んじること5年前に完成している。江戸末期にはこの地域に広い視野を持った人間が輩出していたのだなと感心しきり。

f:id:nayutakun:20200923153708j:plain

霊台橋 歩いて渡ることができる

 しばらく国道を歩き、並行する市街地の中の道路に分かれ、騒音が少なくなってホッとする。国道218号線は途中で次の目的地の五家荘(ごかのしょう)に向かう国道445号線に分かれる。国道445号線の向かう先は、内大臣峡に勝るとも劣らぬ山深いエリア。平家の落人によって作られた久連子(くれこ)、椎原(しいばる)、葉木(はぎ)、仁田尾(にたお)、樅木(もみき)の5つの集落を併せて五家荘と呼ぶ。五家荘への分岐に進むと、九州自然歩道上の80km近くには公共交通機関がない。

f:id:nayutakun:20200923153855j:plain

国道を離れて町に向かう

f:id:nayutakun:20200923153925j:plain

次の目的地の五家荘はこの山を越えた15km先がようやく入口

 本日は国道445号線とは別れを告げて、砥用(ともち)の町に15:00に到着した。今日の行動はここまで。これからバスを乗り継いで福岡まで帰るのがもう一仕事。

f:id:nayutakun:20200923154056j:plain

砥用の町で4日ぶりに商店を見た

f:id:nayutakun:20200923154126j:plain

ここからバスで帰途に着く

f:id:nayutakun:20200923154149j:plain


 2020年9月22日 九州自然歩道 53日目 熊本県上益城郡山都町内大臣峡~下益城郡美里町砥用 曇り 気温25/9 距離20.9km 行動時間7:03 平均速度3.1km/h 34823歩

2020年9月21日 九州自然歩道 51日目 通潤橋から豊穣の地を歩く 熊本県上益城郡山都町笹原~山都町内大臣峡

 本日は標高500mの山都町笹原からのスタート。よく知られた通潤橋という江戸時代に造られた石造りのアーチ水路橋の取水口がここにある。水路の長さはおよそ6km。このあたりもずいぶん人里離れたところで、昨晩も近くでシカの鳴き声が何度も聞こえた。

f:id:nayutakun:20200921214205j:plain

通潤用水円形分水

 昨夜は星空がとてもきれいで、星のない部分の漆黒があまりに黒く、見上げると空に吸い込まれそうなほどだった。明け方は放射冷却のせいか、半袖では耐えられないほどの寒さ。残念ながら電波が届かないので気温はわからない。寒さをこらえながら5:30に起床して、6:33に行動を開始した。

f:id:nayutakun:20200921214427j:plain

 稲穂の揺れる田んぼを見守るような集落を過ぎる。このあたりは休耕田が少なく、よく手入れされている。川は集落よりもかなり下方を流れているので、通潤水路の恩恵を受けている可能性が高い。

f:id:nayutakun:20200921214811j:plain

f:id:nayutakun:20200921214837j:plain

 7:12に国道218号線に合流。合流地点は聖橋という、山都町では最も古い石造りアーチ橋。立派な造りだが現在は使用されておらず、すぐ隣の国道には景観を損なわないように上手に橋を架けてある。国道は交通量が多く、歩くには適していない。歩道があるのがせめてもの救い。

f:id:nayutakun:20200921214931j:plain

 7:40に道路沿いにファミリーマートがあったため、イートインでコーヒーとサンドイッチの朝食とした。イートインコーナーに電源があって感謝!野営地は電波なしだったので、ここでブログの更新を行う。来店者が、今の気温は10℃で寒いと電話していることから、野営地の朝はもっと寒かったのだろうなと納得。

 8:27にファミリーマートを出発して通潤用水に沿って通潤橋に向かう。この道は回り道になるのだがこれが正解。稲穂を実らせた田んぼが美しく、用水沿いに花を着けたヒガンバナが映えている。30分ほど台地の上を歩くと通潤橋が見えてきた。

f:id:nayutakun:20200921215041j:plain

f:id:nayutakun:20200921215128j:plain

f:id:nayutakun:20200921215223j:plain

 通潤橋1854年に布田保之助を代表として建造された日本最大級のアーチ橋。上流の取水口から台地の上に水を送るためにサイホンの原理が応用されている。重機のない江戸末期にこれだけの工事ができたのは驚異的。通潤橋のある上益城町は2016年の熊本地震で被害を受けているが、現在は復旧を終えている。当地では布田保之助は神格化されている。

f:id:nayutakun:20200921215334j:plain

f:id:nayutakun:20200921215400j:plain

f:id:nayutakun:20200921215419j:plain

 通潤橋からは20分ほど歩いた位置にある五老ヶ滝に向かう。ここは通潤橋下流にあたるところで、落差50mの豪快な滝を吊り橋から眺めることができる。

f:id:nayutakun:20200921215529j:plain

f:id:nayutakun:20200921215552j:plain

 つり橋を渡り終えて地図を確認すると、九州自然歩道の本線の赤いラインは五老ヶ滝に沿って南東に伸びているにも関わらず、九州自然歩道の緑色の文字は通潤橋から真南に本線のラインなしで伸びている。こんなケースは初めてだ。ひょっとすると、五老ヶ滝沿いのコースは大雨で流されたため、やむなく南向きの県道をう回路というかショートカットとして採用したような気もする。迷いに迷って、昨日から山都町内藪漕ぎなしの実績を信頼して、10:20に五老ヶ滝沿いの九州自然歩道オリジナル墓穴を掘るかもしれないコースに歩を進めた。

f:id:nayutakun:20200921215637j:plain

 つり橋から50mほど先に進んだところに九州自然歩道の標識があったが、標識の指した方向にはおそらくこの2、3か月は誰も歩いていないような雰囲気を漂わせる藪が見える。一瞬引き返そうかとも思ったが、地図を改めて見ると危険そうなルートは1km足らず。墓穴を掘る覚悟で先に進むことにした。

f:id:nayutakun:20200921215715j:plain

 山都町の藪はやっぱり優しかった。たいした苦労はなく、顔面に蜘蛛の巣が4、5回貼りつくぐらいのことで藪をクリアすることができ、その先に拡がる棚田の中の道を心地よく歩くことができた。棚田の畔ではおじさんが草刈り機で畔の草取りをしている。挨拶をして通り過ぎると、「こん先は柵に電気ば流しよるけん」とわざわざ追いかけて教えてくれた。「はい、気を付けます」と返事をしたものの、気を付けようがなかった。九州自然歩道の行く手には、イノシシ除けの電気柵が水平に、30cmほどの間隔で背丈ほどの高さまで張り巡らされていて、脱走できない収容所のような状態だった。

f:id:nayutakun:20200921215819j:plain

f:id:nayutakun:20200921215853j:plain

 通常はこのような時は人の手で開けられる部分がどこかにあるはず。ところが、右に進めども、左に進めどもそんなところがない。台地の末端にあたるこの圃場には、向こう側に行く理由はないため、ドアに使われる部分はなく、柵を突破するかそれとも1.5km戻るかの2択となった。

 行くしかない。イノシシ除けの電気柵は200Vである。まずはバックパックを外し、電気柵の向こう側に送っておいた。次いで、トレッキングポールを使って電気柵を上に引き上げ、柵の隙間からそろりそろりと匍匐前進で向こう側に進んだ。もう少しというところで、臀部が電気柵に触れた。銭湯にある電気風呂の10倍ぐらいの痛みが一瞬起きただけで、ズボンに穴が開くこともなく、無事に通過することができた。

f:id:nayutakun:20200921215946j:plain

 電気柵の後は、200mぐらいで林道に出られるはずであるが、その先は道がまったく無くなっていた。やむなくGPSを頼りに、真っすぐ突き進んだ。こんな状況は南阿蘇外輪山で慣れている。最後は20mほどの崖。まっすぐ進めないので、巻いた。巻くとは通過可能なところまで迂回することを、登山用語でこういう。尻尾を巻くわけではない。ようやく20mの崖をクリアしたと思ったら、林道はすぐ先に見えるのに、またもや高さ1.5mの電気柵。こんどは300mほど迂回。尻尾を巻いた。1km足らずに1時間以上かかり、11:19に林道の米野橋に這う這うの体でたどりついた。墓穴を掘る覚悟で選択した道だが、実際に墓穴を掘ってしまった。

f:id:nayutakun:20200921220056j:plain

f:id:nayutakun:20200921220128j:plain

 林道わきの木陰で肩で息をしながら休憩していると、白い軽トラックのおじさんが通りかかって話しかけられた。人の良さそうな林業のおじさん。杉の材木の値段は50年前から変わらないとぼやいている。イノシシの電気柵でお尻をやられたというと、大笑いされた。

 30分ほど楽しく話しをして行動再開。米内蔵の集落を通過し、11:56に10軒ほどの民家の集まる譲原集落を通過して、三差路を右折してスイッチバックして台地の上に向かう。傾斜はきついが、舗装路で路面の状態は良い。自動車は10分に1台通過するかどうかぐらいで歩きやすい。

f:id:nayutakun:20200921220242j:plain

f:id:nayutakun:20200921220306j:plain

 しばらく進むと九州自然歩道の標識が唐突に現れ、しかも140度ぐらい地図上のルートとは違った方向を向いている。いま歩いている快適な舗装をそのまま行けば間違いなく九州自然歩道のオリジナルコースになる。一瞬だけ考えて、舗装路を進むことにした。ようやく学習したのである。

f:id:nayutakun:20200921220339j:plain

突然反対向きの九州自然歩道の標識

f:id:nayutakun:20200921220446j:plain

反対方向に怪しく登っていくルート

f:id:nayutakun:20200921220534j:plain

選択した舗装路はこっち向き

 そのまま舗装路をしばらく歩き、台地の頂上近くの笠月に12:27に到着した。ここで立派な道路と交差するが、それは気にせずまっすぐ進む。12:33に白糸第一小学校の跡地を利用した山の都サテライトオフィスに到着した。自販機でもないかと訪ねてみたが、自販機はなく、誰もいない。玄関先で行動食の昼食を摂って休憩とした。

f:id:nayutakun:20200921220700j:plain

サテライトオフィス

 サテライトオフィスの先は左折して県道180号線南田内大臣線に入る。今日の目標は内大臣内大臣は平家の落人の内大臣から付けられた地名のよう。この県道で九州自然歩道本線はショートカットコースと合流することになる。

f:id:nayutakun:20200921220816j:plain

 棚田を眺めながら、わずかにアップダウンを繰り返して台地の上を進んでいく。1時間近く、自動車のほとんど通らない県道をのんびりと歩いた。

f:id:nayutakun:20200921220847j:plain

f:id:nayutakun:20200921220905j:plain

 相藤寺という小さな集落を抜けた後は下りになる。正面には高い山が見え、中腹をスイッチバックしながら登っていく林道が見える。手掘りのような白藤第2トンネルと白藤第1トンネルを抜けると、地図では等高線15本(150m)以上の標高差があり、スイッチバック7回の道路が現れる。最上部から写真を撮ったが木に隠れて4回分しかスイッチバックが写らなかった。

f:id:nayutakun:20200921220943j:plain

f:id:nayutakun:20200921220959j:plain

f:id:nayutakun:20200921221021j:plain

f:id:nayutakun:20200921221047j:plain

f:id:nayutakun:20200921221107j:plain

 7回のスイッチバックの末ににたどり着いた谷底を流れる川の名が内大臣川。水量の豊富な渓流である。地図では500mぐらい上流に行くとキャンプ場があるので行ってみた。おしゃれな斜張橋を渡り、しばらく進むと猿が城キャンプ場に到着した。入り口近くの道路がわずかに崩落しているためか、管理棟には人がおらず、営業していないようだった。

f:id:nayutakun:20200921221141j:plain

f:id:nayutakun:20200921221155j:plain

f:id:nayutakun:20200921221218j:plain

 仕方がないので500mほど下流にある平家の湯という、これまた風情のありそうな温泉に行ってみることにした。電話をかけてみると、立ち寄り湯はないけれども料理だけならば出せるというので、とりあえず平家の湯に向かった。

f:id:nayutakun:20200921221256j:plain

 内大臣川に架かるつり橋を渡り、内大臣水力発電所の脇の狭い道を進むと見えたのが平家の湯。こぢんまりとした川魚料理の店で、民宿もやっているようだった。看板はなく、秘湯感満載。料理を頼もうと思ったら、歩いてきたというとびっくりして、一部屋空いたから泊まっていくかと尋ねられた。渡りに船と、今日は15:27で行動終了し、平家の湯に浸かってゆっくりすることとした。

f:id:nayutakun:20200921221417j:plain

f:id:nayutakun:20200921221436j:plain

f:id:nayutakun:20200921221459j:plain

f:id:nayutakun:20200921221522j:plain

f:id:nayutakun:20200922062141j:plain

2020年9月21日 九州自然歩道 52日目 熊本県上益城郡山都町笹原~山都町内大臣峡 晴れ 気温25/9 距離20.0km 行動時間8:44 平均速度2.6km/h 34158歩

2020年9月20日 九州自然歩道 50日目 黄金色の収穫の秋 熊本県阿蘇郡高森町清水峠~山都町笹原

 本日は標高1000mの南阿蘇外輪山からのスタート。昨夜は夜半に少しだけ雨がパラついたが、その後は晴れて星がきれいだった。トイレに行こうとライトを着けたら、すぐ近くでビーーーというシカの警告音が響き、数頭の足音が遠ざかった。きっと雨でヒトの臭いに気が付かなかったのだろう。

f:id:nayutakun:20200921075009j:plain

 6:00にテントから出ると根子岳が正面に聳える。最高のロケーションだ。気温は9℃。半袖Tシャツ1枚だと少し肌寒い。撤収を済ませ、根子岳を見ながら山コーヒーを味わい、7:10に行動開始。

f:id:nayutakun:20200921075045j:plain

 昨日の外輪山は藪漕ぎの大盛りだったため少し慎重にスタートする。しかし、いつまで進んでも道が良い。通常の山道の2倍以上の幅で草刈りが行われている。刈られた葉を見ると、この1か月以内に整備がされているよう。ラッキーだ。草原から杉が植林された森に変わり、その後は広葉樹の森に変わる。両脇の笹は背丈を軽く超えるので、もし草刈りされていなかったら恐怖の藪漕ぎだったはずだ。

f:id:nayutakun:20200921075115j:plain

f:id:nayutakun:20200921075127j:plain

 広葉樹の森に上りの木道が現れる。300段以上ある天空まで続くような木道。整備状況は最高に良いが、もし、ひとし君カードをもらっていたならばここでそのカードを行使して100mワープすべきようなコース。

f:id:nayutakun:20200921075243j:plain

f:id:nayutakun:20200921075257j:plain

空まで続くような木道が伸びる

 汗だくになって木道の頂上まで上がるとそこが高千穂野(たかじょうや、1100m)だった。このあたりは聖域のようで、野焼きされた痕跡がなく、広葉樹の森が広がっている。少し先に進むと阿蘇岳が正面に見える絶好のロケーションにベンチが設置してある。ここでシリアルの朝食とした。

f:id:nayutakun:20200921075350j:plain

f:id:nayutakun:20200921075411j:plain

f:id:nayutakun:20200921075435j:plain

 朝食を済ませて9:00に行動再開。9:07には天神峠(1000m)に到着した。少し進むと水の音が聞こえてきた。山道の脇に小さな沢が流れている。ここは外輪山コース初の水場。洗顔、歯磨きを済ませて再出発。

f:id:nayutakun:20200921075516j:plain

f:id:nayutakun:20200921075549j:plain

 さらに20分ほど歩き、9:42に多津山峠(1060m)に到着。ここまで山道の整備状況は最高に良い。さらに1.4km先の駒返峠(1070m)には10:14に到着。コースタイムよりもずいぶん早く到着した。ここでは反対側から外輪山を歩いている登山者と初めて出会った。清水峠より先の山道の状態をありのままに伝えると、清水峠で高森に下山しようかなと言いながら出発していった。ちょっと悪いことをしたような気がした。

f:id:nayutakun:20200921075627j:plain

f:id:nayutakun:20200921075646j:plain

f:id:nayutakun:20200921075711j:plain

 駒返峠からは南阿蘇外輪山から南に折れて山都町に向かう。これから先も山道の整備状況が良いように祈りながら駒返峠を左折して進む。ここも両側は背丈を軽く超えるような笹なのだが、しっかりと草刈りがされている。このあたりは先週ぐらいに刈ったばかりのようで、いまだに笹の良いにおいが漂っている。笹原が終わると杉の植樹林に変わるが、相変わらず整備状況は良い。なんなく林道に到達。

f:id:nayutakun:20200921075755j:plain

f:id:nayutakun:20200921075807j:plain

f:id:nayutakun:20200921075822j:plain

 ここからは九州自然歩道に従って山中に突入する方法と、並行する林道を安全に進む方法があるが、今日の整備状況の良さから一か八かで山中に突入した。すると、ここも幅広い山路が整備されている。奇蹟だ。コースの最後こそ、間伐材が散乱しており、自然歩道が一部消失していたが、ほとんど問題なし。大矢国有林入り口までの5kmの道のりを1時間で踏破した。舗装路と変わりないタイムだ。

f:id:nayutakun:20200921075904j:plain

f:id:nayutakun:20200921075926j:plain

 ここからは自動車も通行可能な林道を歩く。よく手入れされた山が続く。3kmほど歩くと舗装路に変わり、休憩を挟んで13:17に稲生野の集落に到着。バス停があるので時刻表を確認。平日のみ2便で、山歩きへの利用は困難そうな運行状況だった。ここには食堂があるような地図情報があったので探してみたが店舗はなし。バス停の前に自販機があったので飲料水を補給した。

f:id:nayutakun:20200921075955j:plain

f:id:nayutakun:20200921080009j:plain

f:id:nayutakun:20200921080024j:plain

f:id:nayutakun:20200921080108j:plain

f:id:nayutakun:20200921080124j:plain

 いくつか小さな集落を抜けたところで、川沿いの気持ちのよさそうなところがあったので、道路から下りて行ってラーメンの昼食とした。川の水は透き通り、心地よい昼食だった。

f:id:nayutakun:20200921080152j:plain

f:id:nayutakun:20200921080204j:plain

 さらに進むと、九州自然歩道は県道から離れ、手掘り風の小川トンネルを抜け、山越えルートに入る。小さな峠を超えると後谷の集落に着いた。川沿いの集落だが、集落の前面が一面の田んぼになっており、黄金色の稲穂が揺れて輝いていた。

f:id:nayutakun:20200921080235j:plain

f:id:nayutakun:20200921080250j:plain

f:id:nayutakun:20200921080303j:plain

 あまりの見事さにしばらく見とれていると、地元の90歳のおじいさんが電動カートで通りかかり、地域の説明をしてくれた。米の銘柄はヒノヒカリで、10月に収穫予定、数年前に運転免許を返上して、現在はこれが愛車とのこと。

f:id:nayutakun:20200921080330j:plain

 おじいさんとは15:53に分かれ先に進むと、5kmほどで通潤橋の分水と、さらに500mほど遡って通潤用水の取水口に出た。

f:id:nayutakun:20200921080356j:plain

f:id:nayutakun:20200921080407j:plain

f:id:nayutakun:20200921080422j:plain

f:id:nayutakun:20200921080437j:plain

 時間は17:00ちょうど。時間もよいので、このあたりで今日の活動を終えることにした。 

f:id:nayutakun:20200921080507j:plain

2020年9月20日 九州自然歩道 51日目 熊本県阿蘇郡高森町清水峠~上益城郡山都町笹原 晴れのち曇り 気温24/9 距離21.1km 行動時間9:47 平均速度2.7km/h 33693歩