2010年の秋に、仕事で米国コロラド州のデンバーに行く機会があった。仕事の現場はデンバー市街からさらに170kmほど西の山中にあるキーストーンKey Stoneであったため、デンバー国際空港に到着した後、レンタカーを借りてとりあえず郊外のモーテルにチェックインした。キーストーンはスキーリゾートとして有名なのだが、10月はシーズンオフで、公共交通機関で向かうのは困難なため、レンタカーしか選択肢はなかった。到着翌日は現場に到着して、登録だけすれば良いので、ほぼ一日中自由に使える。せっかくコロラドに来たから、トラウトでも釣りに行ってみようかな、などと思いながら、モーテルのフロントにおいてあるパンフレットを見ていてズキュンときたのがPikes Peak Cog Railway(パイクス・ピーク・コグ鉄道)。北米一高いところを運行している登山鉄道だと書いてある。
私は高いところが好きである。デンバーの南にあるパイクス・ピークという標高4301mの山は、「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」というインディ500と肩を並べるような歴史のある自動車レースがあり、日本人の選手が連続優勝記録を伸ばしていたことから聞いたことがあった。しかし、この山に山頂まで鉄道があるとは知らなかった。
Pikes Peak Cog Railway のCogとは歯車のこと。私はテツ分が少ないので正確さには欠けると思うが、おそらくアプト式のような歯車と歯軌条を使用した鉄道だろう。インターネットで空席状況を確認すると、9:00は満席。ところが10:00の便に奇跡的に最後方右に1席だけ空席がある。これでここに行くことが確定した。
翌朝は6:00に起床して、モーテルにサービスで置いてあるデニッシュとコーヒーを朝食に摂って出発した。始発駅のあるマニトゥー・スプリングスManitou Springsまでは90マイル(145km)ほど。ハイウェイを飛ばして、2時間ほどで迷うことなく駅に到着して、最後方右の座席の指定券を確保した。
すでにホームには赤い2両編成の列車が入線している。型式なんかはまったく分からない。軌間は1435mmの標準軌のようだ。山岳鉄道ならば1000mmとか、もっと狭いものかと思っていたので意外。列の最後尾に並び、無事に車両に乗りこむことができた。
無事に列車は出発し、最初は森林帯を走って行く。ディーゼルのようで、ガウガウ音を立てながら谷間や切り通しを抜けて、ぐんぐん高度を上げていく。ところどころに停車場はあるが、誰も乗車する人はなく、列車も止まらずにぐんぐん進んでいく。
20分ほど走ると森林帯は終わり、荒涼とした風景に変わっていく。ずいぶん下の方に青い水を湛えた湖が見えた。
途中には列車の交換をするような施設があった。ここではいったん停車し、保線夫のような人が1名乗り込んできた。
そしてさらに山の上を目指して進む。こんなところに鉄道を敷設して大丈夫かしらと思うようなところを平気で進んでいく。1時間15分ほどでパイクス・ピークの頂上に到着した。
頂上では折り返しまで30分ほど停車時間がある。その間、あちらこちらうろうろしていたら、少し気分が悪くなってしまった。標高4301mという富士山の山頂よりも高いところにいるわけだから、走ったりすると身体には堪えそうだ。
麓まで降りると、コロラドは黄葉の秋。いい思い出だ。