とりあえず、歩くか。晴れた日は星空の下で寝るのもいい。

週末の九州自然歩道のトレッキングや日常の雑感です。英語版のトレッキングログもこちら https://nayutakun.hatenadiary.com/  で公開しています。

Wild 自分探しの1100マイルの旅

 前回のブログに書いたが、米国の3大長距離自然歩道の一つにパシフィック・クレスト・トレイル(Pacific Crest Trail、PCT)がある。メキシコ国境に近いカリフォルニア州のCampoという町の南から、カナダのブリティッシュコロンビア州のManning Parkに至るまで、太平洋から160~240kmほどの内陸にある山々をつなぐ4260kmのトレイルがPCTである。このトレイルは徒歩もしくは乗馬にのみ解放されており、自転車やバイク、自動車の通行は許可されていない。トレイルを通して1シーズンで踏破することをThru-hikingというが、これには4か月から6か月ほどを要す。

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 PCTを管理するPacific Crest Trail Association(https://www.pcta.org)によると、2019年のシーズンまでで7597人がthru-hikingを達成している。ここ数年は達成者が急激に増加しており、毎年1000人ほどが賞賛を込めて達成者を呼ぶ2600 milerとして登録されている。

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 トレイル上には商店はほとんどない。カリフォルニア州の南部は灼熱の砂漠で、同じカリフォルニアでもシェラネバダ山脈のエリアは3000mを超える雪の残った峠が続く。食料は自分で運び、水も自力で確保する難行苦行である。トレッキングの経験すらほとんどないような女性が、thru-hikingではないものの、こんなトレイルの相当な区間を一人で歩いた記録からなる自叙伝「Wild: From Lost to Found on the Pacific Crest Trail」をもとに製作された映画が2014年に公開されている。「Wild」(邦題:わたしに会うまでの1600キロ)である。昨夜はこの映画を観た。

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 主人公のCheryl Strayedは、最愛の母を亡くした事実を受け入れられないまま、破綻した生活を送り、離婚を経験する。失ったものを探すために、故郷のミネソタを離れ、1995年6月にハイキングの経験もないままPCT全区間2650マイル(4265km)のうちの1100マイル(1770km)の旅に出かける。最初はテントの設営にも難渋し、ガス缶の種類を間違えてお湯が作れないまま旅を続け、トレイルの真ん中で威嚇するガラガラヘビに遭遇し、山中で出会ったハンターからは不躾な視線を向けられる。そんな多くの苦しみや、ときどき現れるつかの間の喜びや、ひたすら雄大でたおやかな自然に満ちた94日間の旅の先に何かを見つけることになる、そんな自分探しの旅の話だ。ちなみに主人公のFamily nameのStrayedは「迷った」の意で、主人公の名前が「迷えるCheryl」になるのがストーリーにはピッタリくる。

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 彼女のスタート地点はPCTの南端のCampoではなく、ずっと北に上ったMojave砂漠の中。途中でPCTのハイカーたちとKennedy Meadowで集まり、祝福を受けている場面があることから、PCTのトレイルを忠実に歩いていると思われる。ゴール地点はオレゴン州のコロンビア川にかかるBridge of the Gods。この橋は鋼鉄製のトラス構造の橋で、通行は有料。これもトレイルの北端よりは手前になる。この行程をGoogle Mapで再現して測定してみたら、だいたい1100マイル(1770km)になる。Google Map恐るべしだ。しかし、邦題の1600キロはどこからきたんだ?1100マイルや1700キロではダメか?

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 主役のCheryl Strayedを演じたのがReese Witherspoon。1976年生まれの彼女は、アメリカの独立宣言に署名した56名のうちの一人であるスコットランド生まれのJohn Witherspoonの末裔とされ、Stanford大学卒業の才媛。この映画を製作するために自ら製作会社を立ち上げたようだから、ずいぶん力が入っている。この作品で、彼女は2015年のアカデミー賞主演女優賞にノミネートされている。自叙伝をもとにしているため仕方のないことではあるが、プロットが単調でひねりがないため、死ぬまでに観ろ300選の中には入れないが、なかなかの佳作。こんなトレイルを歩いて新天地を求めるのが、西部開拓者の本能であったかのように感じる。

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