7:35に清々しい気分でホテルを出発した。昨日宿泊したホテルは正解だった。小さなビジネスホテルだが、清掃が行き届き、朝食も美味しく、とても居心地が良かった。宣伝を頼まれたわけではないが、応援したくなるような小さなホテル、こめや旅館。宇土市街はこれと言って見るものはあまりないのだが、街の中のホッコリとした風景が心に残る。
河口が近い市街には水路が多い。海抜は2mとの案内がある。宇土市が面した有明海は干満の差が大きいことで知られるが、防潮堤が何か所も設置してある。
8:50に宇土市と熊本市を隔てる緑川に架かった平木橋を渡り、熊本市に入る。正面には本日の目標の金峰山と、その隣には二ノ岳が見える。
熊本も米どころで知られる。緑川の河口の周囲は穀倉地帯で、一面の水田が広がる。稲の成長の具合を見ると、茎が太く、がっしりと大地をつかんでいるが、まだ穂は出していない。先月の天草の稲の成長がどれだけ早いかよくわかる。この辺りは平らな土地ばかりで木陰がなく、喉が渇く。たまらず熊本を中心に弁当屋のチェーンを展開するひらいの店内に入り、アイスコーヒーを注文し、イートインコーナーで休憩をする。
11:10には、熊本市南区の城山ゆめタウンに到着し、店内の冷房でクールダウンしながら、昼食休憩。12:03に行動再開した。
城山にある高橋稲荷の傍を通過し、井芹川に沿って北上する。太陽が頭の上から照りつける。13:15に登坂橋から西に折れて、金峰山の登山口に入る。住宅地を抜けて、少しづつ高度を上げていく。熊本の市街地が下に見えてきた。金峰山の登山道には草枕の道の案内表示がある。ここは夏目漱石ゆかりの道だ。旧制五校(現熊本大学)に奉職したことがある漱石には、この地にちなんだ作品がいくつかある。
14:20にバスの終着点となる荒尾橋に到着。自販機で清涼飲料水を購入してしばし休憩。さらに30分ほど舗装路を歩くと、鎌研坂の標示があり、舗装路から山道に分かれる。ここが漱石の「草枕」の冒頭の「山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。情に掉させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」の山路だという。美しい文章だなあ。青空文庫で確認しながら書いたが、高校1年生の時に読んでから忘れられない。しかしこの文章の意味がわかってきたのはその後20年以上経ってから。今回は迷わず鎌研坂を選択して登り始めた。
ほんの10分ほどで鎌研坂の山路は終わってしまい、再び舗装路に出る。そこから10分ほど登ると、これも草枕に登場する峠の茶屋があらわれる。漱石の頃の峠の茶屋はすでに解体され、看板しか残っていないようだが、茶屋を模した記念館が建てられている。内部をざっと見学してから、その下の駐車場にある甘味処で名物の揚げ饅頭とイチゴ氷を頂く。
16:27に大将陣の登山口に到着した。ここには休憩施設がある。下山したばかりの地元の男性にどの登山道から登ったらよいか尋ねると、「ギャンして登ったら、ギャン曲がっとっとでしょう。そこばギャン行ったらサルスベリっちゅう道に入っとですよ。」と非常に丁寧にサルスベリというお勧めルートを教えてくれる。ただし、熊本の言葉では方向を示す単語はギャンの一択で、上下左右などという方向指示語がないので若干理解が難しい。身振りを観察すればだいたい分かる。男性の勧めに従って、鳥居の前でお辞儀をしてから、直登ルートのサルスベリから頂上を目指す。男性の言葉の最初のギャンは真っすぐ、次のギャンは右、最後のギャンは上向きの急勾配を示すことが、登るにつれて理解できた。
40分ほどかけてサルスベリルートを上り、17:15に金峰山(665m)の頂上に到着した。途中で数分間だけ大粒の雨が降ったこともあって、頂上は涼しい。東には熊本市街、西には有明海が一望できる素晴らしい眺望。雲仙の麓には積乱雲から雨が降っているのが見える。残念ながら頂上の金峰山神社は、熊本地震で崩壊してしまい、現在再建を目指しているところ。
30分ほど金峰山の頂上でゆっくりした後、17:45に行動再開。西に向かって真っすぐ下山路を進み、18:30に柑橘畑の中のパイロット道路に出た。立派な農道の正面には明日の目標の二の岳が見える。周囲を柑橘畑に囲まれた心地よい農道を2kmほど歩き、宮本武蔵の像のある公園で本日の行動は終了とした。
2020年8月9日 九州自然歩道 40日目 熊本県宇土市本町~熊本市西区岩戸観音 晴れ時々曇り 気温31/24 距離28.4km 行動時間11:52 平均速度3.7km/h 44225歩