とりあえず、歩くか。晴れた日は星空の下で寝るのもいい。

週末の九州自然歩道のトレッキングや日常の雑感です。英語版のトレッキングログもこちら https://nayutakun.hatenadiary.com/  で公開しています。

ぶっ飛びアート 養老天命反転地

 名古屋出張のこの日、午前中で仕事がすべて終わり、午後の時間がポッカリ空いた。こんな日は美術館、寄席、植物園の順にイベントを探すが、これというものはない。

 こんなときのためにかねてから用意してある、「都市近郊の半日以上使わないと行けないけれどもいつか行きたい場所」リストを見ていたところ、ピッタリのところが見つかった。

 名古屋から電車を乗り継いで2時間弱。近くには孝行息子の伝説で知られる日本の滝百選の養老の滝。そこまでの鉄道も周囲の景色が美しい第3セクターの単線。今回の目的地は、「養老天命反転地」。怪しげな、宗教系のモニュメントのような名称の場所である。

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まずは中央本線で名古屋まで

 金山駅から12:30の中央本線に乗って名古屋駅まで1駅。ここで12:46名古屋始発の関西本線に乗り換える。車内は空いている。ワンマン運行で、無人駅もいくつかあるようで、無人駅では2両編成の前の車両しかドアが開かない。

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名古屋で関西本線に乗り換える

 13:15に桑名に到達。桑名は交通の要衝で、JR、近鉄、そして養老鉄道が乗り入れている。江戸時代の東海道の運用では、ここは名古屋南部の熱田から木曽三川木曽川長良川揖斐川)の河口部分を桑名までの船便でショートカットしていた港。「その手は桑名の焼きハマグリ」が売られていないかと駅周囲に目を凝らすが、すでに海は遠いよう。

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桑名で乗り換え

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海は、遠い

 桑名駅は新しい駅舎で、高架を越えて養老鉄道のホームに向かう。ICカードは使用できず、券売機で養老までの乗車券を購入する。軌間距離は1067mmでJR在来線と同じ。ちなみに近鉄の主力線の奈良線大阪線名古屋線は1453mmの標準軌なので、近鉄系としては養老鉄道は異色。また、近鉄系には軌間762mmの北勢線四日市あすなろう鉄道もあるが、これらは未乗。

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養老鉄道に乗り換える

 Wikipediaを見てみると、養老鉄道は1911年創立のインディ系の鉄道会社。1913年に養老-大垣-池野間が開業している。1919年には現在の運行と同じく、桑名-大垣-揖斐間が開通している。その後、伊勢電気鉄道に合併されたり、参宮急行電鉄に合併されたり、第2次世界大戦中には国策的に近鉄に合併されたりしている。

 2006年には慢性的な赤字路線である養老鉄道の部分の維持を近鉄が諦め、養老線を分離するために近鉄100%出資の子会社「養老鉄道株式会社」を立ち上げて経営を分離し、沿線3市4町が財政支援を行う第3セクターとなっている。

 さて、鉄道のことはさておき、養老鉄道の南端の桑名駅から13:25発の近鉄から無償供与された600系の列車に乗って10駅先の養老に向かう。乗客は少なく、運転台の横に陣取って前方を眺めながら進むが、だれからもジロジロ見られたりすることはない。

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養老駅に到着

 14:08に養老駅に到着。桑名からこれまではすべて無人駅であったが、養老駅には常勤の職員さんがいる。駅舎は孝行息子を連想させる落ち着いた民家風。駅からは西に舗装路を進む。途中には東海自然歩道の標識が現れる。

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養老山系に向かって進む

 駅から500mほども西に進むと、養老公園の看板が出てくる。養老天命反転地の看板も出てくる。今のところは健全な雰囲気。

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養老天命反転地の入口に到着

 キリッとした雰囲気のゴシック系の文字で養老天命反転地と書かれた標識が出てきた。となりの注意事項の看板を読むと、穴に入ると出られなくなるとか、頭を打つから気をつけろだとか、不穏な雰囲気が漂ってきた。事務所で入場料を支払って中に入っていった。

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さまざまな注意がならぶ

 最初に現れたのが養老天命反転地記念館。内部はカラフルなミトコンドリアのような構造。

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養老天命反転地記念館

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養老天命反転地記念館の内部

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 次に現れてきたのが「極限で似るものの家」。カブトムシの羽根を組み合わせたような外観もさることながら、内部には入り組んだ壁にめり込んだ机やソファ、電話、便器、などなど想像を絶するデフォルメされた生活の場が展開する。

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極限で似るものの家

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極限で似るものの家の内部

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 地名のプリントされた波打ったコンクリートを上ると、「精緻の棟」と名付けられたモニュメント。

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精緻の棟

 直径50mほどのクレーターのようにくぼんだ緑地の周囲を歩いて進むと、「運動路」と名付けられた不思議な壁。

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 運動路の壁から急斜面を下りると「宿命の家」と題した構造物。正面には「白昼の混乱地帯」。もう、タイトルなどどうでもいいという気分がしてきた。どれもこれも平衡感覚を失うほど傾いており、まっすぐ立っているのが困難なほど傾いたところに建てられている。自分の言葉ではこのアートを表現できない。口の中に手を入れられて、消化管を裏返しに拡げられたような、そんな衝撃的な気分を味わうことができた。

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宿命の家

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白昼の混乱地帯

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もののあわれ変容器

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陥入膜の径

 作者は名古屋出身の芸術家の荒川修作と、そのパートナーのニューヨーク生まれのマドリン・ギンズ。作った芸術家も立派だが、こんな巨大なモニュメント群を作らせてしまった養老町にも拍手。養老の滝を擁するような保守的な町内では、制作された1995年頃には賛否両論、ものすごい嵐が起こったのではないだろうか。

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 養老天命反転地は死ぬ前に見るべき芸術作品300のリストに加えておいた。東京三鷹にある彼らの作品三鷹天命反転住宅も、見に行く機会を作らないといけないなと考え始めた。