天神と肩を並べる福岡市内の繁華街は博多駅のエリア。そもそも福岡と博多は一緒だろ?とか、福岡の博多という言い方はおかしいんじゃね?、とかいう意見も聞こえそうだが、福岡ローカルに言わせると福岡と博多は異なる地域。オリジナルの博多は御笠川と那珂川に挟まれた地域のことを指し、まさに博多駅の周辺の地域。現在の福岡市博多区の西の半分が狭義の博多エリアとなる。
歴史を振り返ってみると、博多は日本最古の港とされ、古くから大陸との交易の拠点として機能してきた。この地の名前については、那津(なのつ、現在でも地名として残る)、荒津(あらつ、現在でも地名として残る)、冷泉津(れいぜんつ、現在も地名として残る)などとも呼ばれてきたが、博多という呼び名が文書として残るのは797年の「続日本記」の中に博多大津と記されたのが最初とされる。
これに対して、福岡という呼び名の地域が成立したのは、関ヶ原の戦い(1600年)の後、知行を得た黒田長政が1607年に福岡(舞鶴)城を築城して領治を開始し、一帯の城下町を福岡と命名したことから。江戸時代には、福岡城の城下町であり武士の起居する福岡と、主に商人の住んだ博多のエリアは厳密に分かれており、関所まで設けられていたほど。
それはさておき、福岡建築散歩の博多駅エリアに出発することとする。今回スタートするのは福岡市営地下鉄の中洲川端駅。中洲川端駅は地下鉄空港線と箱崎線の分岐するところで、ホームが上下に二重構造になっている。天神駅を出て東に進む地下鉄は、貝塚駅に向かう箱崎線の場合には地下2階のホームに向かって進行し、福岡空港に向かう場合には地下3階の空港線ホームに進むことになる。
中洲川端駅の5番出口から地上に出ると、正面に聳えるのがリバレインセンタービル。
その右隣が博多座・西銀ビル(博多リバレインイーストサイド)。
さらにリバレインセンタービルの横を通って北の部分がホテルオークラ福岡ビル。
これらの3つのビル群が博多リバレインである。
(1) 博多リバレイン(リバレインセンタービル+博多座・西銀ビル(博多リバレインイーストサイド)+ホテルオークラ福岡ビル
福岡市博多区下川端町3-1
設計:日本設計
施工:大成建設、鹿島、清水建設、飛鳥建設、大林組、竹中工務店、間組、熊谷組
竣工:1999年2月26日
博多リバレインのセンタービルは1999年3月にはスーパーブランドシティとして開業。すでにバブルは跡形もなく消え去った後で、福岡市民はヒヤヒヤしながら行方を見守っていたと思うが、案の定というか3年後には経営破綻してイニミニマニモとして再スタート。この早口言葉のような運営組織イニミニマニモもほどなく経営に行き詰まり、2015年からは博多リバレインモール by TAKASHIMAYAとして高島屋が運営を担当している。
もともと博多リバレインには、福岡市で最初にデパートをオープンした福岡の名門百貨店である福岡玉屋が核テナントとして入居するはずであったものの、すったもんだの末、結局入居することはなく、1999年には福岡における百貨店の歴史を閉じることになった。このあたりの盛衰の事情については福岡ネイティブではない私は詳しくはなかったのだが、ギンギラ太陽’sという店舗等のかぶり物を使用して福岡の戦後の歴史などに関する演劇を行う劇団のパフォーマンスを幾度となく観た結果、異常に詳しくなってしまった。ちなみにギンギラ太陽’sのステージは抱腹絶倒。主宰の大塚ムネトは、脚本からかぶり物まで手がける天才。未見の方はぜひ劇場で見てもらいたい。チケットは即日完売のこともあるので注意すること。
少し脱線してしまったが、次に隣の博多座ビル(博多リバレインイーストサイド)。
最後に博多川のほとりを北(河口に向かって)に歩くとホテルオークラ福岡ビル。ホテルオークラの正面が須崎通りという路地になっているが、ここが須崎問屋街廻り止めといって、博多山笠の追い山の終点となる。
ホテルオークラの前の大通りが昭和通りである。400mほど北に向かって進むと片側4車線の大きな道路、大博通りとの蔵本交差点に出る。この交差点を左に折れると、コンクリート打ち放しの素敵な小学校が現れる。
(2) 福岡市立博多小学校
福岡市博多区奈良屋町1-38
設計:シーラカンスK&H/工藤和美+堀場弘
竣工:2001年
シーラカンスK&Hの工藤和美は鹿児島生まれではあるが、福岡市内の高校を卒業しているためか、福岡市内にはいくつか作品がある。シーラカンスには他にもCAt、CAnのユニットがあり、建築作品を調べていると、ときどき数種類のシーラカンスに遭遇する。
博多小学校の隣には、外観を調和させた設計で作られた奈良屋幼稚園が並ぶ。
(3) 奈良屋幼稚園
福岡市博多区奈良屋町1-6
設計:シーラカンスK&H/工藤和美+堀場弘
施工:岩崎建設
竣工:2000年
奈良屋幼稚園からは、大博通りを博多駅に向かって150mほど進むと、呉服町の交差点の向こう側に、福岡では百道や西新あたりでときどき目にする独特な色使いのビルが見えてくる。
(4) 呉服町ビジネスセンター
福岡市博多区上呉服町10-10
設計:マイケル・グレイヴス
施工:竹中工務店
竣工:2003年
マイケル・グレイブス(Michael Graves)は、米国インディアナポリス生まれの建築家で、福岡には作品が多い。福岡建築散歩 その1 百道浜エリア(2020年4月13日投稿)でも、ネクサス百道レジデンシャルタワーとももち南2街区B棟マイケル・グレーブス館(現在改修中)を紹介しているが、色使いと正方形の窓の形状が特徴的。内装にも配慮が行き届いている。
ここからは出発点の中洲川端駅に向かっていったん戻り、300mほど進んだ博多座前西通りから左に折れて100mほど進むと冷泉(れいぜん、れいせんの2種類の読み方が拮抗状態)公園があり、その向かい側に古びた典型的な公団住宅様の建築物が見えてくる。
ここは築60年をこえる昭和のレトロビル。
(5) リノベーションミュージアム冷泉荘
福岡市博多区上川端9-35
設計:吉原住宅有限会社
竣工:建物1958年 改修2011年
内部は様々にリノベーションされ、オフィスやショップとして活用されている。
ここからは中洲川端通りの商店街の中を歩き、300mほど進むと、キャナルシティ博多が見えてくる。
(6) キャナルシティ博多
福岡市博多区住吉1-2
設計:ジョン・A・ジャーディ
基本・実施設計:日本設計/竹中工務店
竣工:1996年
キャナルシティ博多は、7つのビル群からなる巨大な商業施設。キャナル(運河)の名の通り、内部には180mの運河が流れている。曲線的でカラフルな色調のビルが並ぶ。キャナルシティに来ると、なぜだかハクション大魔王を思い出してしまう。
キャナルシティから裏手に回ると、こんなところにと思える様な場所に建っている素敵な保育園。
(7) どろんこ保育園
福岡市博多区住吉1-2-50
設計:時設計+SAKO建築一級工社
竣工:2015年3月
歓楽街の近くで夜間保育をしている保育園なのだが、採光は良好、緑化もたっぷり、とても明るく楽しげ。夢があっていいな。この建築は気に入っている。
どろんこ保育園から300mほど博多駅に向かって進むと、大御所の作品が見えてくる。
(8) 損保ジャパン日本興亜福岡ビル
福岡市博多区博多駅前2-5-17
設計:黒川紀章
竣工:1984年
ここは黒川紀章の作品。福岡建築散歩 その3 天神エリア前編(2020年4月20日投稿)に登場する福岡銀行本店も黒川紀章の作品(1975年)だが、今回のビルの切り取り方はかなり遠慮気味。しかし、黒川紀章の設計はシャープで、迫ってくるものを感じる。
ここから博多駅に向かって200mほど進むと、赤茶色のシンボル的な建物が後ろ姿を見せてくる。せっかくなので、チラ見せずに博多駅前の広場まで交差点を渡ってから、振り返って正面観をまず見てみよう。
(9) 西日本シティ銀行本店
福岡を代表する建築物の一つである西日本シティ銀行本店。設計は大分県出身の磯崎新。博多駅の正面に神殿のごとく威風堂々と聳える。すでに40年を経過した建築物であるが、古さを感じさせない。
悲しいことに、2020年6月から解体されることに決定している。福岡の文化財であり、シンボル的な建造物であるだけに残念。なんとかならないものかと切に思う。
JR博多駅の表玄関がJR博多シティ。こちら側が博多口と呼ばれ、反対側の呼称は筑紫口。
(10) JR博多シティ
福岡市博多区博多駅中央街1-1
設計:博多駅開発設計JV(三菱地所設計・JR九州コンサルタンツ)
竣工:2011年
正面の大時計は、JR九州の「つばめ」「ソニック」「かもめ」などの車両デザインを手がけた水戸岡鋭治のデザイン。ちなみに彼の設立したドーンデザイン研究所の名は、幼い頃の彼のあだ名の「鈍治(どんじ)」に由来する。
クリスマスの時期はイルミネーションが美しい。
JR博多駅の博多口からは筑紫口に向かわず、KITTEビルの吹き抜けを南に進み、さらに線路に沿って800mほど進む。幸田口通りの交差点から線路の下をくぐると、目の前に重力を無視したかのような建物が現れる。
(11) ASO SKY CUBE
福岡市博多区博多駅南2-12-32
設計:日建設計
竣工:2008年
日建設計の設計によるASO SKY CUBE。専門学校の校舎だが、ものすごいことになっている。中に入ってみたい。
そのまま線路に沿って250mほど博多駅に戻っていくと、宙に浮かぶかのような三角形のビルが見える。
(12) 第二博多偕成ビル
福岡市博多区博多駅南1-10-4
設計:竹中工務店
施工:竹中工務店
竣工:2012年
下層階にV字型の柱を設置して、ピロティを広めにとっているためか、空中に浮上するように見える効果を与えている。第7回建築九州賞を受賞。
さらに200mほど博多駅に向かって進むと、今度は草間彌生のデザインのようなドット模様のビルが交差点の前に見える。
(13) 博多偕成ビル
なんとも不思議なドット模様だが、窓ではなく、壁面の開口部となっている。窓は開口部の中にあり、外から眺めると窓そのものは四角いよう。名前からすると第二博多偕成ビルと兄弟のようだが、残念ながらこちらの設計等の情報は分からない。
さらに300m博多駅に向かって進むと博多駅筑紫口に着く。交差点の向こう側には高級感のあふれるビルが光る。銀座のティファニービルを思わせる。
(14) 都ホテル博多
福岡市博多区博多駅東2-1-1
設計:三菱地所設計
施工:大林組・大日本土木JV
竣工:2019年6月
鏡面ガラスの映える立方体のビルではあるが、ファサードの点角部分には切れ込みを作り、緑化を行い、滝まで設えてある。屋上には屋外スパがあるよう。いちど見てみたいものだ。
博多駅筑紫口から都ホテルの横を通り抜け、東に300mほど進むと、公園の前に建つのがこれ。
(15) ハイアットリージェンシー福岡(現 The Basics Fukuoka)
福岡市博多区博多駅東2-14-1
設計:マイケル・グレイヴス
竣工:1993年
百道、呉服町でも見慣れた褐色の色使いのビルは、マイケル・グレイヴスの設計。2019年5月でハイアットとの契約が切れたため、2020年より「THE BASICS FUKUOKA 」として再オープン予定。
ハイアットリージェンシーの向かい側に建つのが福岡合同庁舎。
(16) 福岡合同庁舎
福岡市博多区博多駅東2-11-1
設計:九州地方整備局
施工:大林組・大豊建設
竣工:2007年3月
清潔感のある建築で、官公庁の設計としては自分の好み。なんとなくだが、誠実そうな官吏がいるような気にさせてくれるから。
ここから御笠川の畔に出て、上流に400mほど進んで橋を渡ると東比恵の交差点となる。ここに東比恵ビジネスセンターの3つのビルが交差点を挟んで並んでいる。
(17) 東比恵ビジネスセンター
福岡市博多区東比恵3-1-2
設計:竹中工務店
施工:竹中工務店
竣工:2009年2月
3つのビルはそれぞれテイストが異なるが、いずれも竹中工務店の設計と施工。あえて3つのビルの調和を図らなかったんだなと感じる。
ここまで17の建築物を訪ね歩いて、中洲川端駅から東比恵駅までおよそ6kmの散策となる。いかがだっただろうか。
(1) 博多リバレイン 福岡市博多区下川端町3-1
(2) 福岡市立博多小学校 福岡市博多区奈良屋町1-38
(3) 奈良屋幼稚園 福岡市博多区奈良屋町1-6
(4) 呉服町ビジネスセンター 福岡市博多区上呉服町10-10
(5) リノベーションミュージアム冷泉荘 福岡市博多区上川端9-35
(6) キャナルシティ博多 福岡市博多区住吉1-2
(7) どろんこ保育園 福岡市博多区住吉1-2-50
(8) 損保ジャパン日本興亜福岡ビル 福岡市博多区博多駅前2-5-17
(9) 西日本シティ銀行本店 福岡市博多区博多駅前3-1-1
(10) JR博多シティ 福岡市博多区博多駅中央街1-1
(11) ASO SKY CUBE 福岡市博多区博多駅南2-12-32
(12) 第二博多偕成ビル 福岡市博多区博多駅南1-10-4
(13) 博多偕成ビル 福岡市博多区博多駅東2-5-28
(14) 都ホテル博多 福岡市博多区博多駅東2-1-1
(15) ハイアットリージェンシー福岡 福岡市博多区博多駅東2-14-1
(16) 福岡合同庁舎 福岡市博多区博多駅東2-11-1
(17) 東比恵ビジネスセンター 福岡市博多区東比恵3-1-2