松本清張の推理小説「点と線」の舞台として知られる香椎(かしい)。え?知らない?1957年の小説だもんね。古すぎるか。私は大学1年生のときに読んで、小説で使われた寝台特急「あさかぜ」に乗ってみたくて、帰省の際に使ったことがあるけど、あさかぜも2005年に廃止となっているからね。
そんな歴史的な名作の舞台になった香椎の沖合の博多湾には、現在はアイランドシティという人工島ができている。1994年に開始した総事業費3940億円の事業によるものであるが、現在も整備事業は継続している。しばらくはガラーンとした空き地ばかり広がり、福岡市民はいったいどうなることやらと気を揉んでいた。しかしここ数年は、青果市場が移転したり、こども病院が移転したりして、建設ラッシュが始まっているため、魅力的な建築も見られるようになってきた。
このエリアに行くためには、天神からは福岡市営地下鉄の貝塚行きとなる箱崎線を選んで乗車し、終点の貝塚からさらに西鉄貝塚線に乗り換える。4駅で西鉄香椎駅に到着する。
西鉄香椎駅からは、駅前の道をまっすぐ海に向かって進む。香椎浜北公園の中を通る快適な道となり、御島かたらい橋(みしまかたらいばし)を渡ってアイランドシティに上陸する。そこまでで約2km。橋を渡った先には円形のビル群が目に入る。
(1)アイランドシティインフィニガーデン
福岡市東区香椎照葉3-2-4
設計:ガナス総合研究所・愛宕産業JV
施工:新日鐵エンジニアリング・松本・大高JV
竣工:2007~2008年
中庭を取り囲む形の、ぐるっと360°の円形に近い集合住宅。ノース棟、イースト棟、サウス棟と3棟に分かれて、それぞれの棟の間には切れ込みがあり、中庭にアプローチすることができる。非常にユニークな設計の14階建ての賃貸マンション。
円形マンションの先から左に曲がると、ガラス張りの菱餅を地面に置いてしまったかのようなビルが目に飛び込んでくる。
(2)シーマークビル
福岡市東区香椎照葉3-2-1
設計:北山孝二郎・K計画事務所・竹中工務店JV
施工:竹中・新日鉄エンジニアリング・西中洲・樋口建設JV
竣工:2007年6月
オーナーは大分県佐伯市の伯洋海運で、海に浮かぶ船をイメージしたとのこと。そう言われてみればそんな感じも。菱餅は失礼だった。設計を担当したK計画事務所の主宰である北山孝二郎は安藤忠雄の弟。ちなみに安藤忠雄は双子で、安藤の双子の弟である北山孝雄は北山創造研究所(都市コンサルタント/商品デザイン)を主宰している。北山家に生まれた兄弟の中で忠雄のみが安藤姓を名乗るのは、一人娘であった母方の家を継ぐために養子に行ったため。
シーマークビルの前の緑地は、福岡アイランドシティ中央公園である。中央に、修景池という水辺を置く。その中の施設が伊東豊雄設計のぐりんぐりん。
(3)福岡アイランドシティ中央公園中核施設ぐりんぐりん
福岡市東区香椎照葉4-1
設計:伊東豊雄
施工:竹中工務店
竣工:2005年
ぐりんぐりんを設計した伊東豊雄は、ブリツカー賞受賞の建築家。東京大学建築学科卒業後に菊竹清訓事務所に勤めている。
ぐりんぐりんは、埋め立て地の何もない平坦なところに、池を作り、丘を作りして造成された公園の一部の施設である。2005年の完成時の写真を見ると、埋め立て地のむき出しの土の上に、まさにグリングリンとうねる様な構造がよく見て取れるが、現在は公園の緑化も進み、ぐりんぐりんの半地下構造と屋上緑化のために、外観からはどこからどこまでグリングリンか判別が困難な状態になっている。しかしそれも伊東豊雄の狙いかと感じる。
公園内にある織物のフォリーというオブジェも、伊東豊雄の監修。
公園から北に1ブロック、200mほど進むと、グレーの方形の建物、福岡市総合体育館が現れてくる。
(4)福岡市総合体育館(照葉積水ハウスアリーナ)
福岡市東区香椎照葉6-1-1
設計:梓設計・雅禧建築設計事務所
施工:清水・西中洲樋口・旭・宮川JV
竣工:2018年12月1日
真新しい体育館で、空調も良好。
総合体育館から西に1ブロックのところに建つのがセンターマークスタワー。
(5)センターマークスタワー
福岡市東区香椎照葉5-1-12
設計・施工:竹中工務店
竣工:2019年2月
センターマークスタワーは、地上46階で152mとアイランドシティのビルの中では現在、最も高い建物である。黒く天に向かって伸びる姿は2001年宇宙の旅に出てくるモノリスのよう。
センターマークスタワーの南の建物が福岡市立こども病院。
(6)福岡市立こども病院
福岡市東区香椎照葉5-1-1
設計:山下設計
施工:戸田・松本建築JV
竣工:2014年8月
福岡ドームの近くにあったこども病院が老朽化と手狭になったため移転したもの。
こども病院の横に立てられたドナルド・マクドナルドハウスは病気の子供とその家族が利用できる滞在施設。こちらの建物も温かみがある。
こども病院の向かい側には福岡みらい病院が建つ。
(7)福岡みらい病院
福岡市東区香椎照葉3-5-1
設計:安井建築設計事務所
施工:株式会社フジタ
竣工:2015年5月
こちらの病院は波打つようなガラスパネルのファサードが特徴的。
みらい病院の奥に見える直方体のビルを3棟連結した高層マンションがアイランドタワースカイクラブ。アイランドシティでは早くから建造された高層建築物であったので、ランドマーク的な存在であった。近年は両隣にさらに高いビルが建造されてしまったが、依然として3棟連結された特異的な構造は目を引く。
(8)アイランドタワースカイクラブ
福岡市東区香椎照葉3-3
設計:竹中工務店・司建築設計事務所
施工:竹中工務店・松本組JV
竣工:2008年
地上42階で、高さは145.3m。高さは両隣のビルに抜かれてしまったが、近くで見ると存在感は強烈。
隣に建つ赤いビルがI TOWER。アイランドタワースカイクラブをわずかに高さでしのいでいる。
(9)I TOWER
福岡市東区香椎照葉3-2-7
設計・施工:竹中工務店
竣工:2016年2月22日
センターマークスタワーと対をなすような赤いモノリス。地上45階で高さは149.47m。
博多港からアイランドシティ方面を眺めると、これらの3つのビルが際立って見えるが、アイランドシティではさらに150mを超えるようなビルを複数建造中で、今後はさらにこのエリアの風景は変わっていきそう。
I TOWERからは再び御島かたらい橋を渡り、香椎駅方面に戻る。1kmほどでイオンモール香椎浜が見えるが、そこから右折し福岡都市高速1号香椎線の下を500mほど進み、香椎浜中央の交差点から左折して市街地の中に100mほど進むと、周囲とは少し異なった風景が見えてくるはずだ。
(10)ネクサスワールド
磯崎新がコーディネートして、国内外の有名建築家が集合住宅を競作した地域がネクサスワールド。魅力的な建築物が建ち並ぶ。
オスカー・トゥスケ棟(1号棟)
設計:Oscar Tusquets
ポルザンパルク棟(2、3,4号棟)
設計:Christian de Portzamparc
マーク・マック棟(8号棟)
設計:Mark Mack
レム・コールハース棟(9、10号棟)
設計:Rem Koolhaas
スティーブン・ホール棟(11号棟)
設計:Steven Holl
これらの集合住宅には、店舗が入り、住民が生活している。オスカー・トゥスケ棟には不動産店が入居し、実際に物件としてこれらの賃貸や分譲を行っている。美術館に住むかのような不思議な気分がする。
ネクサスワールドを堪能した後は、福岡東郵便局の先の三叉路から南東に1kmほどで千早駅に着く。千早駅は西鉄とJRがほぼ同じ位置に立つ。ここまでで約9km。商業地域ではないため、やや距離は長くなってしまう。
(1)アイランドシティインフィニガーデン福岡市東区香椎照葉3-2-4
(2)シーマークビル 福岡市東区香椎照葉3-2-1
(3)ぐりんぐりん 福岡市東区香椎照葉4-1
(4)福岡市総合体育館 福岡市東区香椎照葉6-1−1
(5)センターマークスタワー 福岡市東区香椎照葉5-1-12
(6)福岡市立こども病院 福岡市東区香椎照葉5-1-1
(7)福岡みらい病院 福岡市東区香椎照葉3-5-1
(8)アイランドタワースカイクラブ 福岡市東区香椎照葉3-3
(9)I TOWER 福岡市東区香椎照葉3-2-7
(10)ネクサスワールド 福岡市東区香椎浜4-2-2