とりあえず、歩くか。晴れた日は星空の下で寝るのもいい。

週末の九州自然歩道のトレッキングや日常の雑感です。英語版のトレッキングログもこちら https://nayutakun.hatenadiary.com/  で公開しています。

福岡建築散歩 その3 天神エリア 後編

 福岡建築散歩の天神エリアの後編。前編では福岡市営地下鉄赤坂駅を起点として、天神の西にあたる赤坂、大名、天神北のおよそ6kmの道のりを歩き、15の建造物を楽しんだ。

 次に紹介するのは天神の南半分。地名では、天神、春吉、渡辺通の周辺となる。まずは前編の終着点であるアクロス福岡に向かうため、福岡市営地下鉄天神駅の16番出口からアクロス福岡の地下2階に入り、いったん北側の正面玄関から外に出てみよう。全面ガラス張りのピラミッドを思わせるような建物が目の前に拡がる。

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アクロス福岡

(1) アクロス福岡

福岡市中央区天神1-1-1
構想:日本設計/竹中工務店/エミリオ・アンバーツ
基本・実施設計:日本設計/竹中工務店
竣工:1995年

 アクロス福岡は、旧福岡県庁跡地に建てられた天神のランドマーク。館内には福岡シンフォニーホールという九州交響楽団の本拠地や、国際会議場、パスポートセンターなどが展開する。

 設計はアルゼンチン出身の建築家であり、MOMAニューヨーク近代美術館)でデザイン部門のキュレイターをつとめた経験もあるエミリオ・アンバース(Emilio Ambasz)と、2018年度の業界売り上げ日本4位の日本設計+ゼネコン業界5位の竹中工務店

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那珂川を隔てて眺めるアクロス福岡

 アクロス福岡の最大の特徴は大規模な屋上緑化。南に位置する天神中央公園の芝生の上に立ってアクロス福岡の南面を見たら驚くであろう。山そのもののステップガーデンが目の前に聳え、5階相当部から1階に向かって滝が流れている。このステップガーデンには登ることが出来るので、ぜひ最上階の展望台まで行ってもらいたい。

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天神中央公園から眺めるアクロス福岡の南面はまさに山

 天神中央公園の芝生に立って西に目を移すと、15階建ての白いビルが聳える。

(2) 福岡市庁舎

福岡市中央区天神1-8-1
設計:菊竹清訓
竣工:1988年

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福岡市庁舎

 設計は福岡県久留米市出身の菊竹清訓菊竹清訓も非常に作品の多い建築家で、彼の手になる近隣の建造物で有名なのは太宰府市に建つ九州国立博物館。かつて気象庁の中庭に転がっていたといわれる下駄のような形態の江戸東京博物館も彼の設計である。これらの作品に比べると福岡市庁舎は非常に抑制がきいた作品。

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九州国立博物館菊竹清訓の設計

 さらに南に視線を転じると壁面の曲線が美しい済生会福岡総合病院。380床の地域の中核病院である。

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済生会福岡総合病院

(3) 済生会福岡総合病院

福岡市中央区天神1-3-46
設計:日建設計、栄相互設計
竣工:2002年3月

 天神中央公園からは福岡市の中心地に立つ3つの建造物をいちどに眺めることができる。

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 天神中央公園から東に向かって橋を渡ると、ルネッサンス様式の古風な建物が見えてくる。

(4) 旧福岡県公会堂貴賓館

福岡市中央区西中洲6-29
設計:三條栄三郎
竣工:1910年

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旧福岡県公会堂貴賓館

 コンクリート建造物かと見まがうばかりだが木造。100年以上の歴史を経ているが、いまだに健在で、内部の公開もされている。この辺りは1945年6月の福岡大空襲でも大きな被害を受けているはずだが、よくも生き残ってくれたものだと思う。

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旧福岡県公会堂貴賓館

 福岡県公会堂貴賓館の公園から南に狭い小路に入っていく。この辺りは西中洲の気の利いた店が多数存在する。公園から30mほども進んだところで、福岡でも有数の有名寿司店である河庄の格子柄の建物が見えてくる。

(5) 河庄

福岡市中央区西中洲5-13
設計:吉村順三
竣工:1959年

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河庄

 設計は東京藝術大学教授を務めた吉村順三。インテリアもすばらしいようだが、まだ一度も入店したことがない。庶民には敷居が高すぎる。

 西中洲のこの一角には素敵な店がまだまだあるが、そこをぐっとこらえて河庄の前の道を東に100mほど進み、那珂川沿いに出たところで南(上流)に150mほど進む。そこで国道202号線と交差する春吉橋西の信号に出るが、信号の先を見るとスペインかメキシコ辺りに迷い込んだかのような気がするはずだ。

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ホテルイルパラッツォ

(6) ホテルイルパラッツォ

福岡市中央区春吉3-13-1
設計:アルド・ロッシ
竣工:1989年

 設計はイタリアの建築家のアルド・ロッシ。赤い石の外装とファサードの緑色銅板の庇が特徴的。単独で見るととても上品なのだが、ここ春吉はすこし地域がよろしくないところがあり、せっかくのデザインが誤解を招きそうで残念。

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ホテルイルパラッツォの不思議な時計

 イルパラッツォから那珂川を挟んだ対岸にはブルガリアヨーグルトの看板が目に入ってしまうが、その後ろには特徴的な建造物群キャナルシティ博多が控えている。

(7) キャナルシティ博多

福岡市博多区住吉1-2
設計者:ジョン・A・ジャーディ
基本・実施設計:日本設計/竹中工務店
竣工:1996年

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キャナルシティ博多那珂川

 ここは巨大な複合商業施設で、魅力的な内部もぜひ見てもらいたいが、今回は川のこちら側から概観を眺めるだけにして、先に進むことにする。

 イルパラッツォからは、キャナルシティを左に見ながら、那珂川に沿った道を南に向かってまっすぐ進むと、400mほどで灘の川橋、さらに200mほどで住吉橋、さらに250mほどで柳橋に至る。柳橋と交差する片側3車線の道路が住吉通りである。ここを渡らずに右折して200m進むと、最上階に緩いカーブを描いた半円状の構造物をいただいたホテルニューオータニが見える。

(8) ホテルニューオータニ博多

福岡市中央区渡辺通1-1-2
設計:大成建設
施工:大成建設
竣工:1968年

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ホテルニューオータニ博多

 ここは結婚式や宴会でしばしばお世話になるところ。立食の宴会の際には、寿司とローストビーフ、フォアグラ丼をまずチェックする。ここの寿司はとびきり旨く、ローストビーフは3Aクラスの赤身が勝った肉を上手に焼き、フォアグラ丼は香ばしい香りが食欲をかき立てる。

 その向かいにある九州電力本店跡地に建てられたビルが電気ビル共創館。

(9) 電気ビル共創館

福岡市渡辺通2-1-81
設計:三菱地所設計
竣工:2012年

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電気ビル共創館

 電気ビル共創館とホテルニューオータニ博多とに挟まれた広い通りの名が渡辺通りである。クランクで有名な天神橋口交差点から、この渡辺通1丁目交差点までの南北に走る1.3kmの区間の道路愛称である。現在の西鉄の前身となる博多電気軌道の設置に尽力した渡辺輿八郎にちなんで付けられた愛称で、この道路上には1979年まで路面電車が走っていた。

 渡辺通りと直交する住吉通りの愛称は、渡辺通り1丁目交差点で名前を変え、城南線と呼ばれるようになる。城南線を西に100m進んで向かい側を見ると、エッジの立ったビルが見える。

(10) C-WEDGEビル

福岡市中央区高砂1-24-26
設計:TIS&パートナーズ
竣工:1991年

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C-WEDGEビル

 設計は神田神保町に事務所を構えるTIS&パートナーズ。この事務所は構造設計を得意とするところがあり、アクロバチックな構造を有した設計はどれもエッジが立っている。主宰の今川憲英は外科医的建築家を名乗るだけのことがある。他にも国内に多数の魅力的な作品があり、ぜひ見に行きたいと思っている。

 城南線をさらに西に100m進み、渡辺通西の交差点から右に入ると180床の病院の建物が見える。

(11) 医療法人佐田厚生会 佐田病院

福岡市中央区渡辺通2-4-28
設計:村田相互設計+西村建築工房
竣工:1997年10月

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佐田病院

 9階建ての素敵な病院であるが、じつは気になるのはこの建物ではなく、病院の脇に建ったTHE SADA HOSPITAL。

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THE SADA HOSPITAL

 残念ながらこの建造物の情報はまだ入手に至っていない。奥まったドアなどから、おそらくファサードは時代をつけた施工でリノベーションしているかと思われるが、センスが良い。佐田病院の先代か先々代が建てた病院だろうか。それにしてもメインテナンスがよい。新病院かこちらかのどちらかをあげるといわれたら、こちらを選ぶ。私は欲がないのだ。

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THE SADA HOSPITAL

 THE SADA HOSPITALの斜め前に建つのが、現在、福岡では1、2を争う寿司の有名店であるやま中。

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やま中

(12) やま中 本店

福岡市中央区渡辺通2-8-8
設計:磯崎新
竣工:1997年

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さすがにやま中の設計には隙がない

 ここは建物も寿司も一流。設計は大分市出身の磯崎新東京大学の丹下研究室出身である。世界的に知られた巨匠であるが、九州には作品が多い。しかし、飲食店の設計に関わったのはやま中ぐらいではないであろうか。

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でも、やま中のドアはくぐりにくい

 やま中のすぐ先に立つホテルがタカクラホテル。地元のホテルである。

(13) タカクラホテル福岡

福岡市中央区渡辺通2-7-21
設計:大林組本店建築設計部
施工:大林組
竣工:1968年

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タカクラホテル福岡

 内装の写真を見せられないのが残念だが、インテリアが上品。食事もよく、個人的には好感を持っており、私の自宅まで地下鉄の便がよいことから、お客さんに泊まってもらうことがある。

 タカクラホテルの前を通り過ぎて50m進むと、右手にガラス張りの建物が見えてくる。

(14) 河合塾福岡校

福岡市中央区渡辺通4-2-11
設計:日建設計

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河合塾福岡校

 素敵な建物なのだが、この建造物については残念ながら情報が少ない。

 そのまま西鉄電車のガード下を北に500mほど進むと、天神の繁華街である渡辺通4丁目交差点辺りに到着する。渡辺通りの向こう側に見えるのは葉祥栄が設計した福岡市営地下鉄七隈線天神南駅

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天神南駅

(15) 福岡市営地下鉄七隈線天神南駅

福岡市中央区渡辺通5
竣工:2005年
設計:葉祥栄

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天神南駅

 葉祥栄は熊本市出身の建築家。弟の葉祥明は絵本作家で、他にも写真家、イラストレーターなどを擁する芸術一家である。

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天神南駅

 葉祥栄の作品の中では福岡で最も知られているのは糸島の木下クリニックではないだろうか。福岡の西の観光スポットである糸島半島をドライブしている最中に、飛び立ちそうな宇宙船を目撃した人は多いと思われる、

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糸島の宇宙船 木下クリニックも葉祥栄の作品

 国体道路を挟んで天神南駅の反対側に建つのがエルガーラビル。

(16) エルガーラビル

福岡市中央区天神1-4-2
設計:梓設計、三島設計
施工:竹中工務店JV
竣工:1997年2月

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エルガーラビル

 下層階には大丸百貨店が入居する。隣の西日本渡辺ビルとエルガーラビルとの間はガラス屋根によって覆われており、パサージュ広場と呼ばれている。こう呼ばれてはいるものの、じつはここは天神再開発線という名称の歩行者専用の市道である。

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パサージュ広場

 エルガーラの北に建つのがイムズビル。

(17) 天神MMビル(イムズビル)

福岡市天神1-7-11
設計:三菱地所設計
施工:間組
竣工:1989年

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イムズビル

 正式名称が天神MMビルだということは、今回調べてみて初めて知った。そのぐらいイムズビルという名称が浸透しており、Inter Media Stationの頭文字をとってIMS(イムズ)だということまで認知されている。地下から8階まで続く吹き抜けが特徴。ちなみに私はここの5階にある楽器店でついついドラムを購入してしまい、翌々週には引っ越しを余儀なくされてしまっている。

 さらに北に続くのが天神コアビル。

(18) 天神コアビル

福岡市中央区天神1-11-11
設計:東京浦辺建築事務所
施工:間組鹿島建設JV
竣工:1976年

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天神コアビル

 天神ギャルの聖地として君臨し続けてきたが、2020年3月31日で閉館。閉館の日には天神ギャルが別れを惜しんで来店していたのがローカル局で何度となく放映されていた。

 さらに隣の渡辺通り明治通りの交わる天神交差点の角に立つのが福岡ビル。福ビルの愛称の方がローカルでは通りがよい。

(19) 福岡ビル

福岡市中央区天神1-11-17
設計:日建設計工務 設計顧問:内藤多仲、今井兼次
施工:間組福岡支店
竣工:1961年

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福岡ビル

 設計は日建設計であるが、設計顧問には東京タワーの設計を行った内藤多沖(ないとうたちゅう)が迎えられている。ちなみに内藤多沖は耐震構造理論を専門とし、日本の耐震構造の父と呼ばれる。東京タワーをはじめとし、札幌テレビ塔名古屋テレビ塔通天閣博多ポートタワーなどの国内の多くの名の知られたタワーの設計は内藤多沖の手によるものである。

 内藤多沖が設計顧問を務めた福岡ビルは、2005年3月20日震度5弱の福岡西方沖地震で窓ガラスが多数割れて盛んに報道された。ただし、これは福岡ビルの構造体の設計の問題ではなく、窓ガラスの取り付けの工法が古くて振動を吸収しないものだったことが原因と特定され、内藤多沖の看板に傷を付けることはなかった。

 福岡ビルは2019年3月末に閉館し、現在は解体工事のフェンスに覆われている。先の天神コアビル、天神ビブレビルとともに天神ビッグバン計画で、2024年には大型複合ビルとして再開発される予定である。

 ちなみにここで言うところのビッグバンとは、宇宙創成初期を説明する爆発的膨張のことであることは皆さんご承知のことと思う。職場で女子が、「天神が韓流になるみたいな噂を聞いたけど、あれってなんなん?」とかいう会話を交わしているのが聞こえたときには、椅子から転げ落ちそうになった。

 福岡ビルは天神の中心にあたる。ビッグバンが福ビルを中心として着手されるのは自然の理であろう。

 福ビル前の地下鉄入り口から地下に下りれば、福岡市営地下鉄空港線天神駅の改札はすぐである。 アクロス福岡から天神の南の地域をぐるりと回って19の建築物を楽しむ約4kmの散歩道である。お暇なときにぜひ一度お試しあれ。

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(1) アクロス福岡 福岡市中央区天神1-1-1
(2) 福岡市庁舎 福岡市中央区天神1-8-1
(3) 済生会福岡総合病院 福岡市中央区天神1-3-46
(4) 旧福岡県公会堂貴賓館 福岡市中央区西中洲6-29
(5) 河庄 福岡市中央区西中洲5-13
(6) ホテルイルパラッツォ 福岡市中央区春吉3-13-1
(7) キャナルシティ博多 福岡市博多区住吉1-2
(8) ホテルニューオータニ博多 福岡市中央区渡辺通1-1-2
(9) 電気ビル共創館 福岡市渡辺通2-1-81
(10) C-WEDGEビル 福岡市中央区高砂1-24-26
(11) 医療法人佐田厚生会 佐田病院 福岡市中央区渡辺通2-4-28
(12) やま中 本店 福岡市中央区渡辺通2-8-8
(13) タカクラホテル福岡 福岡市中央区渡辺通2-7-21
(14) 河合塾福岡校 福岡市中央区渡辺通4-2-11
(15) 福岡市営地下鉄七隈線天神南駅 福岡市中央区渡辺通5
(16) エルガーラビル 福岡市中央区天神1-4-2
(17) イムズビル 福岡市天神1-7-11
(18) 天神コアビル福岡市中央区天神1-11-11
(19) 福岡ビル 福岡市中央区天神1-11-17