福岡で半日の時間ができた時に歩いて巡る建築物のコースを教えて欲しいというリクエストに対して、前回は百道浜のエリアをピックアップして、3時間で歩いて巡ることのできるコースを考えてみた。このエリアは、福岡市の市制施行100周年を記念して開催されたよかトピア(アジア太平洋博覧会)の会場として使われた地域で、バブル華やかなりしころの匂いを色濃く残している。
次に紹介するのは、福岡市の最大の繁華街である天神エリアか、あるいはオフィスビルの立ち並ぶ博多駅周辺をとも考えたのだが、このあたりの紹介本やブログは多数ある。ここは変化球で、ふだんからジョギングや通勤で通っている自宅付近の道沿いの気になる建築を、やはり地下鉄駅から地下鉄駅まで3時間で歩くコースとして紹介したいと思う。
今回のスタート地点は福岡市営地下鉄空港線の大濠公園駅。天神から2つ目の駅である。6番出口から外に出ると、目の前に建つのが旧 逓信省福岡簡易保険支局庁舎(現 かんぽ生命保険 福岡サービスセンター)。延べ床面積16000平米の大規模な庁舎で、戦後は米軍に接収され、陸軍病院として使用されていた。
(1) 旧 逓信省福岡簡易保険支局庁舎(現 かんぽ生命保険 福岡サービスセンター)
福岡市中央区大濠公園1-1
設計監督:大蔵省営繕管財局
施工:間組
竣工:1934年
鉄筋コンクリート造4階建
西に30m進むと福岡市民の憩いの場である大濠公園の入口があるので、そこから公園の大濠池のほとりまで進む。池の畔を右折してロイヤルガーデンカフェの前を通り過ぎ50m進むと、正面に大濠公園能楽堂が現れる。設計は東京・千駄ヶ谷の国立能楽堂の設計も手がけた大江宏。大濠公園能楽堂は、国立能楽堂の3年後の作品となる。
大濠公園能楽堂から右に折れて、いったん大濠公園の外に向かい、片側3車線の明治通りまで出る。明治通りを左(西)に100m進み、黒門橋の信号から左に折れて50m進むと、次の建造物がすぐ目に入る。強烈なインパクトを持ったファサードが迫る大村美容ファッション専門学校だ。コテコテのアイディアだが、「O」はそのとおり、大村のOである。専門学校の創設は1929年。創始者の大村トミの開設した福岡で2番目となるML美容室を出発点としている。
(3) 大村美容ファッション専門学校
20mほど進んだ路地の先には、大村美容ファッション専門学校4号館がある。同じく高松伸の設計だが、先ほどの本館のインパクトが強すぎて、ガラス張りの近代的な建築が平凡に思えてしまう。
(4) 大村美容ファッション専門学校4号館
福岡県福岡市中央区黒門4−41
設計:高松伸
竣工:2002年
さらに50mほど大濠公園に向かって進むと在福岡米国領事館が見えてくる。ここは24時間、警察官が警備に立っており、立ち止まって撮影していると警告されるので、しっかりした写真が撮れない。
(5) 在福岡米国領事館
福岡市中央区大濠2丁目5-26
設計:クラーク ビュトラー ロックライズ共同事務所
施工:鹿島建設九州支店
竣工:1960年
鉄筋コンクリート造地下1階・地上2階建
ここからは大濠池のほとりに出て、300mほど池の周りを南に進む。池の中の小島(鴨島)が正面に来たあたりで大濠公園を離れ、西に向かう。住宅街の中を縫うように進む必要があるが、大濠聖母幼稚園を通り過ぎて600mほど、鳥飼2丁目の信号の50m先に舞鶴幼稚園がある。グレーに統一された色調の、シャープなデザインの幼稚園。2015年には福岡市 第17回都市景観賞を獲得している。
(6) 舞鶴幼稚園
福岡市中央区鳥飼1丁目6-1
設計:竹下輝和/牧敦司 株式会社一粒社ヴォーリズ建築事務所九州事務所
施工:西松建設
舞鶴幼稚園の前の道路を南に800m進むと城南区役所北口の交差点に出る。そこを右折して西に500m進むと、右手に映画「戦艦ポチョムキン」の階段のようなものが見えてくる。これが中村学園女子中学・高等学校だ。入口の階段と、その横の円筒状の建物、前に迫り出した屋根を持つ校舎が強烈な印象を与える。2012年に日本建築家協会優秀建築選を受賞している。
(7) 中村学園女子中学校・高等学校
福岡市城南区鳥飼7-10-38
設計:日建設計(妹尾賢二・吉生寛 ) 共同設計・監理/永田建築事務所
竣工:2010年
中村学園からはもとの道を引き返し、城南市役所北口の交差点から舞鶴幼稚園に向けて左折する。今度は2つ目の信号を右折し300m、樋井川にかかる草香江新橋を越えると、道路の左側にカラフルな建物が見えてくる。クレシュ六本松という保育園である。ここは毎週末のジョギングコースであるので、建設中から何が建つのかとても楽しみだった。
(8) クレシュ六本松
福岡市中央区草香江2丁目15-5
設計:Emmanuelle Moureaux(エマニュエル・ムホー)
竣工:2017年
クレシュ六本松からさらに東にまっすぐ250m、草香江2丁目の信号を越えて突き当たりまで進み、左折して200m進むと片側2車線の広い道路、国体道路の大濠公園南の交差点に出る。国体道路を50m右(東)に進むと、その交差点が気象台前の信号。交差点の対角線上にあるのが福岡管区気象台である。
(9) 福岡管区気象台(旧中央気象台福岡支台)
福岡市中央区大濠1丁目2-36
設計:逓信省
竣工:1939年
福岡管区気象台の建物自体にはこれといった特徴もないのだが、気象台の横の路地に進んでみて欲しい。気象台の大濠公園に面した裏庭にサクラの木が立っているが、これが福岡のサクラの標準木である。このサクラが5、6輪開花すると、福岡ではサクラの開花宣言が出される。
ふたたび国体道路に戻り、正面を見ると大きな吹き抜けの目立った近代的な建物が見える。これが大濠高校である。
(10) 福岡大学附属大濠中学校・高等学校
福岡市中央区六本松1丁目12-1
設計:日本設計
施工:鹿島建設
竣工:2010年
さらに、国体道路を東に200m進むと福岡市美術館の入口となる。この美術館を設計したのが前川國男。東京帝国大学工学部建築学科を卒業後、近代建築の祖ともいわれるル・コルビジェのパリの事務所に勤め、薫陶を受けている。東京都庁舎などの設計で知られる丹下健三は前川事務所の出身。
(11) 福岡市美術館
福岡市中央区大濠公園1-6
設計:前川國男
竣工:1979年
福岡市美術館は、ダリ、ミロ、ウォーホール、バスキアなどの大作を所蔵するが、私の一番のお気に入りはレオナール藤田の仰臥裸婦である。もし、この美術館の絵をどれでもいいから1枚あげると言われたら、迷うことなく、この横たわる裸婦と猫の絵を持って帰ることにしている。
福岡市美術館から大濠池に抜け、池に沿って北に200m進む。右手に、大濠公園の緑に溶け込むように建てられたスターバックスコーヒーが見えてくる。気をつけないと見落としそうなぐらい景観になじんでいる。
福岡市中央区大濠公園1-8
設計・施工:松本組
竣工:2010年4月
スターバックスコーヒーから50m進むと、右に折れる石畳の道がある。これが福岡城の三の丸に続く道。この道に入り100mほど進み、本丸へと続く名島門をくぐり抜ける。門の正面が福岡城の本丸で、右手の丘には天守台の跡が残っている。正面には福岡国際マラソンのゴールとなっている福岡市営平和台陸上競技場がある。
今回は福岡城址には進まず、名島門をくぐり抜けたところで舗装路を左折して、150mほど坂を下ると、正面に聳えるのが福岡フィナンシャルグループ本社ビルである。下層部分には巨大な吹き抜けをもち、周囲の景観との調和が良い。福岡市の第22回都市景観賞一般表彰を受賞。
(13) 福岡フィナンシャルグループ本社ビル
福岡市中央区大手門1丁目8番3号
設計:松田平田設計
施工:戸田建設
竣工:2008年
ここから西に進むと、150mほどで大濠公園駅の5番入口が見えてくる。これで約7kmの徒歩の旅が終着点となる。このあたりが私の週末のジョギングコースである。