昨夜は疲れ果てて、昼食の残りのおにぎりを食べただけで眠りについてしまった。ときおり響くシカの鳴き声を聞きながらぐっすり眠っていたら、夜半に大きな音で目を覚ました。原因は雨。四阿の下に入り口が隠れるようにテントを設置していたのだが、屋根の下に入らない頭の部分には、テントに直接雨が降りつける。もともとテントというのは雨音が響きやすいのだが、それでもこの雨は猛烈だ。新橋のガード下で、山手線と京浜東北線が同時に入線したときよりもうるさいぐらい。雨音を聞いていると恐ろしくなってきた。
大雨の音でうつらうつらして朝を迎えた。幸い雨は小降りに変わっていた。5:00に起床したが、霧に包まれており、明るくならない。天気予報をみると、今日は一日中降水確率が100%。おまけに雷雨注意報まで出ている。本格的に降り出す前に、急いで荷物をパッキングした。
5:50に行動開始。歩き始めるとともに大粒の雨が降り出し、あわてて四阿に戻って上下の雨具を装着した。遠くから雷鳴が聞こえてきた。最近の天気予報は本当に精度が高い。雷の発生まで当ててしまう。三秀台を降りたところで、屋根のあるバス停を見つけた。ここでしばらく雨宿りした。
雨は覚悟でどうにかなる。問題は対応策のない雷だ。雷鳴はだんだん近づいてきて、閃光の5秒後には音が鳴り響くようになってきた。距離はおよそ1.5km。バス停の小屋の中で、本日の計画を再検討してみた。
このバス停から高千穂バスセンターまでのコミュニティバスは1日3本ある。いまなら、ここから福岡に引き返すこともできる。もし先に進んだら、標高差800m、15kmの道のりを進んで祖母山の山頂に到り、そこから5km標高差1500mの急傾斜の山道を下ることになる。下りの斜面はすでに大分県竹田市。当地の天気予報は午後には60%の降水確率と改善傾向。天気予報に賭けてみることにした。しばらく雨宿りしていたら、雷鳴がずいぶん遠くなっていったので、6:40にバス停を出て、とりあえず行動を再開した。
県道8号線を進み、五ヶ所集落から右折して祖母山の登山口に向かう。雨は強く雨具を打つ。
前方に尖った山頂が見えてきた。地図を確認するとおそらく三尖という山。そのまんまの名前。舗装路から砂利道に変わるが、歩きやすい。その先にも高い山が出てきた。おそらく黒岳。黒岳、親父山、障子岳と1500mを越える山々が祖母山まで連なっているはずだが、雲のために手前の方しか見えない。
7:57に広い駐車場のある一の鳥居に到着した。ここから先の舗装状況は良好。雨さえ降っていなければ、よっぽど快適だと思う。
8:30に北谷登山口に到着した。ここにも広い駐車場があり、小屋、トイレがある。小屋でしばらく休憩し、ナッツの朝食とした。
小屋の中で登山届を記入し、8:50に行動再開。カウンターを1回押して、登山道に進んだ。しばらく急な斜面を登る。木々が勢いを和らげてくれるものの、雨は依然として強い。雷鳴は鳴り止んだ。山で雷は危険なので、いつまでも鳴り止まない場合は撤退する覚悟は持っていたので助かった。
9:43に稜線に出た。木の下で小休止。荷物を下ろすと楽になる。まだ身体ができていないようだ。
稜線に到達すると、ここからは緩やかな山道になる。千間平と名付けられている。木々の間を進み、5合目の標識を通過した後、10:05に宮崎、熊本、大分の三県境に到着した。ここには小さな境界標識が立つだけ。
10:54に視界が開け、国観峠に到着した。九州自然歩道のオリジナルコースは、ここで左折して大分側に下山していくのだが、あと1時間も歩けば祖母山の山頂だ。迷わず山頂を目指すことにした。
国観峠から先はやや傾斜が強く、滑りやすいが、危ないところにはローブが設置してある。さすが百名山は整備状況がよい。
11:52に9合目を過ぎ、もう一踏ん張りで12:04に1756mの祖母山の山頂に到着した。このとき雨は止んでくれた。しかし、残念ながら一面の雲で眺望はなかった。
写真を撮ってから、雨が降り出さないうちに下山を開始した。300mほど進んだところで右折して、少し遠回りになるが避難小屋に立ち寄ってみることにした。
12:30に9合目小屋に到着したが、よく整備されていて感心した。以前は市が管理する有料の有人小屋だった。現在は無料の避難小屋として開放されている。ここで、上から下までずぶ濡れになった服を干して、しばらく休憩とした。
1時間ほど小屋で身体を休めた後、13:40に行動再開。14:07に国観峠に到着した。今度はここから北に進み、竹田市に向かう。
国観峠からは下りのみだが、傾斜がきつい。荷物を持ったときは、上りは身体への負担が大きいが、下りは危険だ。気をつけてゆっくり下る。
一人で登ってきた登山者に出会った。北九州からの登山客で、午前中の雨で登山を諦めようと思ったところ、昼から雨が上がったので登ってきたとのこと。徒渉地点が何カ所かあるが、いずれも増水して危険なため、気をつけるように言われた。
この辺りはブナの森。雨が止んで、雲を通った柔らかい日差しが差してくると、緑が美しく映える。大きな水の音が聞こえる。山頂からまだそれほど下っていないのに、連日の雨のせいか、ものすごい水量だ。谷川というよりも、傾斜が強いため滝となっている。
14:48にさきほど注意を受けた渡渉地点についた。ローブが渡してあるが、膝上の徒渉となる。倒木に足をかけて、滑る岩にしがみついたが、ザックの一部は水没した。この先も何カ所か、膝下の徒渉を行う。一度濡れてしまうと、その後は何も抵抗がなくなる。しかし、ふやけた靴下がつま先を圧迫して、左の親指の爪が剥がれかけてきたような気がしてきた。
15:47に5合目小屋に到着。ここは大きい小屋だか、無人ですこし薄気味悪い。中には入らず、外で休憩した。小屋の横を流れる川には御社の滝。
ここから先の山道は川沿いに進む整備状況のよい山道。渡渉地点があったが、もう気にならない。歩きやすいように木製の階段が設置してあったのだが、雨のために非常に滑りやすく、うっかり出した足が滑って左足首を捻ってしまった。それほど強い痛みはなかったので、気にせずそのまま歩き続けた。
16:30には登山口駐車場に到着した。予想どおり、本日の登山客は1名のみ。
本日滞在を予定している神原集落までは残り3kmほど。2車線の舗装道路が続くが、自動車はまったく通らない。最後の力を振り絞って歩いていたが、途中で脱水症状が生じて、道ばたでダウンしてしまった。10分ほど横になっていたら回復してきたため、残り1kmを進む。
17:54に本日宿泊の民宿に到着。窓から山が見える絶好のロケーション。さっそく鉱泉のお風呂に浸かって筋肉をほぐす。お風呂も川沿いで、窓から爽やかな風が入る。
なによりも食事が素晴らしかった。和食ではあるが、なぜかソースにもこだわりがあり、フレンチのコンセプトを感じる。聞けばご主人はフランスのトゥールーズで料理を学んだ後、湯布院で働き、地元のこの地で民宿を開いたとのこと。
食事が終わった頃に、同宿の二人組の男性が話しかけてきた。明日、祖母山に登るという。しばらく山の話しや宮崎の古墳の話しなどをして盛り上がる。
最後にデザートのシャーベットを頂く。これも美味しい。
部屋に戻って布団に倒れ込む。下りで痛めた左足首が痛んできた。明日、歩けるかどうか心配しながらウトウトと眠りに入っていった。
九州自然歩道107日目 宮崎県西臼杵郡高千穂町五ヶ所~大分県竹田市神原 雨のち曇り 24/19℃ 行動距離21.1km 行動時間11:59 41442歩
2021年7月18日後記
翌朝、民宿の布団で目を覚ますと、左足首が痛くて立ち上がれない。昨日の木製階段で滑って転倒した際に捻挫してしまったようだ。本来の今日の予定は、竹田市神原から湧水群を見て、岡城まで20kmほど歩いて、豊後竹田駅から帰途につく予定だったが、20kmも歩く自信はない。
朝食の時に、畳に座ることができないため、椅子を用意してもらった。痛がる私を見て、ご主人は豊後竹田駅まで自動車で送りましょうと言ってくれる。ふだんから宿泊客の送迎もしているとのこと。
九州自然歩道トレッキングを中断することになるが、次回、この民宿に前泊して継続するという手もある。むしろそれがいい。もう一度、あの夕食を楽しみたい。
ということで、3日連続で進むはずだった九州自然歩道トレッキング再開編だが、今回はウィルスではなく、外傷による中断と相成った。人類のウィルスへの勝利の証と張り切って歩いたものの、多難な幕開けを予感させる。
復路: 竹田市神原民宿清流送迎(平日のみオンデマンドコミュニティバスあり)10:30-豊後竹田駅11:00/12:12豊肥線-大分駅13:23/要町バスターミナル14:02-博多バスターミナル16:42