とりあえず、歩くか。晴れた日は星空の下で寝るのもいい。

週末の九州自然歩道のトレッキングや日常の雑感です。英語版のトレッキングログもこちら https://nayutakun.hatenadiary.com/  で公開しています。

Dabbawala ムンバイのお弁当デリバリーサービス

 久々にいい映画に巡り会えた。2013年(日本では2014年)公開のDabba(邦題:めぐり逢わせのお弁当、英題:The Lunchbox)。監督はインド・ムンバイ生まれのRitesh Batra。家庭で作ったできたての弁当を弁当配達人(Dabbawala、ダッバーワーラー)がオフィスに届けるという、ムンバイに独特なシステムを背景とした作品である。めったに起きないはずの弁当の誤配をきっかけとして生まれた、妻を亡くした寂しさを埋められない初老の男性と、夫の裏切りに気がつき、どこかにあるはずの幸せを探そうとする女性との間の心の交流を温かいタッチで描いている。

 Ritesh Batraの初めての長編作品とのことであるが、とてもよくこなれている。俳優も演技を抑え気味にして、感情の機微を上手に表現している。細かなストーリーはネタバレになるのでこれ以上は書かないが、私の「死ぬまでに見るべき映画300選」の候補に入れておいた。

 ここで気になったのがDabbawalaというムンバイのお弁当宅配サービス。映画の中の話だけではなく、現在もこのシステムは実在し、ムンバイでは自宅で作られた弁当が毎日、会社に届けられているようなのだ。さっそく調べてみることにした。

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これは娘の弁当箱

 Web検索してみると、Dabbawalaの組織が運営しているホームページを閲覧することができる(https://mumbaidabbawala.in/)。これによると、1890年から始まったデリバリーサービスで、現在、5000人の配達人が20万人の弁当の配達を行っているとのこと。最初はムンバイ在住のゾロアスター教の銀行家が自宅で調理された料理を食べたいと思い、配達人を雇い始めたことから始まった。参考までに、ゾロアスター教徒はParsiといわれ、菜食主義などの宗教的な制限が多いため、自宅で調理された料理を食べる必要があったかもしれない。もう一つ参考までに、QueenのFreddie MercuryはParsiの両親から生まれている。この弁当配達人Dabbawalaのアイディアに多くの人々が飛びつき、配達の需要が拡大し、最初は個人の活動であったものが、Mahadeo Havaji Bachcheがこれを商機と捉え、現在のチームデリバリー形式で100名のDabbawalaによるランチデリバリーサービスを開始し、今に至っているということである。

 ムンバイにおいてDabbawalaの始まった1890年頃はインドは英国の植民地であった時代である。インドの歴史はなかなか複雑であるが、1858年のシパーヒーの乱の後、イギリスがムガル帝国の君主を廃し、インド帝国を成立させ、1877年以降はイギリスの君主がインドの皇帝を兼ねている。英領植民地時代にはさまざまな英国式の習慣がインドにもたらされたと思うが、こう言っては失礼かもしれないが、食事の内容にはさほど執着することのない人の多い英国人と付き合わざるを得なかったインドの人には、食事は痛切な問題であっただろう。たんに味が合わないというだけでなく、ヒンドゥー教では牛が食べられない、イスラム教では豚が食べられないといった、禁忌に触れる問題もある。そもそも上位カーストに属している人にはベジタリアンが多いし。また、下位のカースト出身者が作った食事を食べることにも強い抵抗がある。社員食堂が成立しにくい背景がありありなのだ。

 映画のタイトルにもなったDabbaはヒンディー語で箱のことを意味する。つまり、弁当箱のことだ。そして、Walaはヒンディー語で~する人を意味する。Dabbawalaで弁当箱配達人の意味となる。弁当箱はDabbawalaから提供される直径25cm、高さ50cmほどの円柱状の金属製のものがデフォルトのようだ。

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 ホームページを見ると、デジタルDabbawalaもあり、スマホやPCからの申し込みや契約もできるよう。オンラインで見積もりもできる。残念ながら福岡は適用範囲外のようであるが、もしムンバイに住むことになったら、ぜひ使ってみたいものだ。