本日は周囲が明るくなってきた5:30に、山中のテントの中で目を覚ました。まだ小雨が降っている。
昨日は1日中ひどく雨に降られた。それに加えて、谷川を徒渉する際に転倒して膝上まで水に浸かってしまい、散々な目に遭っている。レインウェアはテントの中に一晩ぶら下げていたため、なんとか着ても良いかと思える状態まで回復した。今現在も着用している綿のズボンは本来は撥水性のものであるが、水に浸かったらその効果もないようで、冷たいまま。靴下はメリノウールでできており、まだビチョビチョ。ただし靴下は、前回の教訓から替えを持参している。靴は洗濯を終えて脱水前となったTシャツぐらいの濡れ具合。ウーム、これをもう一度履くのは勇気がいる。とりあえずコーヒーを淹れ、ビスケットをかじって朝食とした。
日の出時刻の6:00頃にテントの中で撤収作業を始め、雨が弱くなったところで外に出た。雨の中を、急いでテントを畳んで袋に詰め込んだ。テントを入れた袋からは水がしたたり落ちる。ザックの一番下に押し込んだが、ザックを担ぐと背中に水がしみてきた。ウーム、これは新感覚。例えるならば、10kgのエチゼンクラゲを背負ったような。やったことはないが。
6:52に行動を開始した。まだ小雨が降っているが、霧はなくなったため、南の方の宮崎平野に町が見えてきた。その向こうには海が見える。佐土原あたりだろうか。しばらく林道を歩いていると、海の方から雲が吹き寄せてきて、雲海のように町を覆い始めた。晴れても曇っても、朝の山間の光景は美しい。しかし、風景ばかりに気をとられて油断すると、水たまりに足を踏み入れてしまいそうだ。
林道を歩き始めたら、シカがしきりに高い声の警戒音を発している。このあたりのシカの密度はかなり高そうだ。この山はシカの領土。彼らの縄張りに侵入する私に対して、いつまでも警戒音を止めることがない。
渓流に沿った心地の良い林道を下り、7:28に清水兼(きよみずかね)集落に到着した。このあたりの水田もすでに田植えは終えている。
先ほどの渓流は幅の広い川に顔を変えている。川に沿って歩いていると雨脚が強くなってきた。道路の脇の木の下で雨具を装着した。道路脇にはミツバチの巣箱が設置してある。このあたりではよく見かける風景だ。
川に沿って歩き、次の岩下集落には8:06に到着した。立派な民家の大きな庭にミツバチの巣箱が設置してあり、男性が手入れをしている。挨拶を交わして尋ねると、市役所を退職して、4年前から趣味で養蜂を始めたという。日本ミツバチの養蜂に取り組み、自力で女王バチを確保して繁殖に成功し、現在25箱の巣箱を管理しているという。西洋ミツバチよりも飼育が難しく、採蜜量も少ないとのこと。いろいろと奥深い話を聞かせてもらった。
さらに集落を先に進むと、道路脇に大きな黄色い花の着いた植物のハウスの手入れをしている女性がいる。カボチャの花のようだが、つる性ではないようだ。女性に尋ねるとズッキーニだという。カボチャの仲閒だとのこと。野菜としてはスーパーマーケットで見るが、植物自体を見るのは初めて。今日はいろいろ勉強になることがある。
8:17には九流水(くるす)の集落を通過。ここには商店があるが、営業はしていないようだ。8:24に吉田集落、8:31に麓集落と、順調に歩を進める。降ったり止んだりする雨だけが恨めしい。
8:47に通過した長谷集落の先で、庭先に立つ男性に挨拶をしたら呼び止められた。仕事で森林の調査している方で、歩く格好に興味を感じたようだった。庭先ではスギ、ヒノキ、アスナロや、ナナカマドの苗を栽培している。自家焙煎をしたピーナッツを頂いた。
ここからは少し勾配の強い舗装路を歩く。道路脇では、福岡ではゴールデンウィークあたりに盛りとなる藤の花が満開となっている。
9:40に長谷観音(九州自然歩道支線)との分岐に到着した。ここには柑橘類の無人販売が設置してあった。安くて新鮮。欲しかったが持ち歩けないし、ゴミの処分にも困る。残念ながら、購入せずに後にした。
9:49に林道の笹々礼支線の分岐に到着した。ここは九州自然歩道の本線が2つに分かれるところ。真っ直ぐに木城町に向かって進むこともできるし、右に曲がって西都原の古墳群に寄り道をすることもできる。今回は分岐点を右折して、西都原に寄り道をすることにした。
林道笹々礼支線は渓流沿いの、とても快適なコンクリート舗装路だった。雨のためコンクリート舗装が少し滑りやすいが、右手には清流が流れて気持ちが良い。途中には張り出した岩壁にシダが密生したところがあり、壁から滝のように水がしたたり落ちているのが風情があった。
林道の上には枯れ葉が落ちていることから、交通量はあまり多くはないようで、途中で1台の自動車にも遭遇することはなかった。先に進むと道路沿いのスギの木の根元にグルリと皮を剥いだものが並んでいた。ひょっとするとこれらは近々伐採するマーキングかななどと考えながら歩いていた。
植林部を抜けて空が見えてきたところで、急に雨が強くなってきた。10:26にちょうど農機具倉庫があったため、軒下を借りて雨宿りをした。朝沸かしたお湯がサーモスに残っている。これでカフェオレを淹れて小休止とした。
雨は依然として降り続いていたが、10:46に行動再開。ほどなく笹々礼支線は終点となり、レンゲの咲く圃場を通り、11:04に山路集落に着いた。ここからは2車線ある県道40号線を左折して進んだ。
県道40号線は交通量が多い。この道を500mほど進み、トンネルの前で右に分かれる旧道を進んでトンネルの真上まで出る。
地図ではトンネルの直上で右に分岐して進むように見える。ここだと思った部分を進むと、木に赤のテープが巻きつけてある。九州自然歩道はこっちだと確信して先に進むが、すぐにひどい藪の中に突入し、その先は崩落地となり、苦労してここを乗り越えた。さらに進むが踏み跡はまったくなくなり、GPSで確認するとまったく見当違いな方向に進んでいる。15分ほどで藪漕ぎを諦めてもとの分岐点まで撤退した。
大幅な迂回を覚悟して、分岐点を直進して進み始めた。ところが5分ほど進んだところで、迂回していると思った山道が、GPSの上では正規の九州自然歩道であるように表示されている。狐につままれたような気分がしたが、しばらくGPSを信じて進んでいたら、ツツジが咲く野原に出て、目的地の西都原考古博物館前の駐車場に出ることができた。
雨にもかかわらず多くの人が満開のツツジを見に来ていた。せっかくなので、ツツジの咲く丘を登り、11:58に展望台に到着した。丘の麓には緑の草原が拡がり、古墳と思われる盛り土がいくつも観察された。
12:07に展望台から行動を再開し、12:20に西都原考古博物館に到着した。とても美しい建物で、展示も豪華なのだが、どうしても興味が湧かない。なぜならば、展示には旧石器時代から古墳時代までの流れが詳しく説明してあるが、ここ西都原の古墳にはいつ頃の誰が埋葬されているのかという情報を欠いていたため。一般的な歴史ではなく、この古墳のことを知りたかったのだが、南九州の産の発掘品が並べてあっても感情が移入できない。
12:50には博物館3Fの食堂に行き、ランチとした。ちょうどお昼時で、混んでいるかと心配したが、すぐに座ることができた。赤米と団子汁のランチを頂いたが、団子汁には地鶏をふんだんに使ってあって、とても美味しかった。
13:17には博物館を出て、カウンターでもらった地図を頼りにメジャーな古墳を制覇しようと、西都原古墳群を歩き始めた。まずは一番北に位置する4号墳に向かう。古墳の上に登る階段が設置してあり、周囲の多数の古墳が一望できる。ものすごい数の古墳が並ぶ。
次は西に進み、日本最大の帆立貝型古墳とされる男狭穂塚(おさほづか)と、九州最大の前方後円墳の女狭穂塚(めさほづか)のエリアに向かう。すでに大半が散ってしまった桜並木の下を歩き、古墳の姿を見ようと周囲を見回すが、ここは宮内庁の管理地で森に囲まれた古墳の中には入れない。残念。
ここからは雨にぬかるむ畦道を歩いて広い圃場を横切り、反対側の大山祇塚(おおやまづみつか)に向かう。ここは第2古墳群とされ、多数の大型の古墳が並ぶ。南の端まで歩くと、台地の上から、西都の街並みが見えた。
最後は菜の花の中を抜けて鬼の窟(おにのいわや)に向かう。ここは周囲に土塁が巡らしてある珍しい形態の古墳。しかも横穴式の古墳の内部まで入ることができて大興奮。しばらくは時間を忘れてしまった。
古墳を見終わった頃にようやく青空が見えてきた。古墳が築造されたとされる4世紀から7世紀頃にはこのあたりにはどんな生活があったのだろうと思いをはせながら、14:50に西都原古墳群を後にした。
台地からのんびりと市街地に下り、15:16に西都バスセンターに到着。ここで本日の行動を終了することにした。
ここからは宮崎市内までバスで戻る。次の新八代までの高速バスまで1時間以上あったため、銭湯で汗を流した。バスの中で食べた宮崎名物の椎茸弁当が美味だった。
2021年4月4日 九州自然歩道 95日目 宮崎県西都市上三財~西都市西都バスセンター 雨のち曇り 24/13℃ 行動時間8:22 20.3km 31439歩
復路交通 西都バスセンター16:10宮崎交通バス-橘通4丁目17:05/18:23B&S-新八代20:43/20:58九州新幹線さくら408号-博多21:48