とりあえず、歩くか。晴れた日は星空の下で寝るのもいい。

週末の九州自然歩道のトレッキングや日常の雑感です。英語版のトレッキングログもこちら https://nayutakun.hatenadiary.com/  で公開しています。

マムシグサ 凶悪そうな名前どおりの有毒植物

 今年の初登山で登った糸島市の二丈岳の下山途中。道端から顔をのぞかせる草を見てドキッとした。ヘビだ、と。

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マムシグサ 苞は黒く変色し果実は真っ赤に熟している

 この草はサトイモ科テンナンショウ属のマムシグサArisaema serratum、蝮草)。北海道から九州にかけて分布する多年草で、木の陰になるような草地によく見られる植物。ごく普通に見られる植物で、珍しいものではない。写真でも分かるように、球根から立ち上がった葉の根元の部分である葉柄によってできた偽茎の、まだら模様がマムシに似ることからマムシソウと名付けられた。夏には花茎を直立させて開花するが、パッと見て花のように見える部分は花弁ではなく葉が変形した部分である苞(ほう)。多数の花が密生した肉穂花序(にくすいかじょ)を一枚の大きな苞(ほう)が包んでいる。とくにサトイモ科では苞の発達が顕著で、仏炎苞(ぶつえんほう)と呼ばれる。

 同じサトイモ科のミズバショウアンスリウム、カラーなどにも見事な苞があり、花材や鑑賞の対象にされている。

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中央の赤い花(苞)がアンスリウム

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白い苞のカラー

 今回目にしたマムシグサは、夏ごろの苞は紫色に近いのだが、この時期には白いドット模様のついた黒。まるで邪悪な毒ヘビの頭部のよう。中の果実も真っ赤に熟しており、捕えた獲物から滴り落ちた血液かと思えるほど。

 このマムシグサは見かけの凶悪さのとおり、有毒として知られている。針状結晶が強い刺激をもたらすシュウ酸カルシウム、界面活性作用によって細胞膜を破壊する性質のあるサポニン、それから、中枢神経および運動神経に対する麻痺作用のあるアルカロイドの一種であるコニインを含んでいる。草の汁に触れるだけで皮膚に炎症を起こす。もちろんそのままでは食べることはできず、食した場合には死に至ることもあるとされている。かつてはアイヌの毒矢にも使われていたとか。

 しかし、マムシグサは生薬としては天南星(てんなんしょう)の名で皮膚病薬として使われ、江戸幕府によって管理されていた駒場御薬園での栽培標本リストの中にもその名を見ることができる。また、飢饉や戦争などで食料が不足した時の食糧としての救荒植物として利用された歴史もある。

 それにしても、このグロテスクな姿から、口にするのはためらわれるかと思うが、調理して実際に食べたことを記録に残している人がいるから驚きだ。(マムシグサとその仲間は救荒植物の皮を被った破壊神だった http://zazamushi.net/mamusigusa/ 2020年1月4日アクセス)。未処理のマムシグサを口にして七転八倒したところから、加熱処理等によって可食化するところまで克明な記録がなされており、興味深く読むことができた。世の中には物好きな人がいるものだ。