とりあえず、歩くか。晴れた日は星空の下で寝るのもいい。

週末の九州自然歩道のトレッキングや日常の雑感です。英語版のトレッキングログもこちら https://nayutakun.hatenadiary.com/  で公開しています。

モモの季節がやってきた

 モモは数あるフルーツの中でもとくに芸術的な農作物だといつも感じる。

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 芳醇な香りと、豊かな果汁が迸る果肉。そのままでも美味しく、ヨーグルトにもあう。生ハムやクリームチーズをのせても美味しい。まさにその味覚は芸術的。

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 それから、繊細な取り扱いを要求されるところも芸術品並み。

 細かな毛に覆われた薄い皮に包まれた果肉は、ほんの少しの外力で傷みやすく、容易に変色してしまう。生産者から青果店への輸送には細心の注意やパッケージングを必要とするであろう。青果店で購入してから家に持ち帰るまでは、レジ袋にそのまま入れるようなことは決してせずに、貴重品を取り扱うかの如く、もう片方の手に持ち、助手席に座ってもらうのが常だ。

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 食べ方も然り。収穫後は完熟を経てすぐに柔らかくなるモモは、安易に冷蔵庫に入れて食べごろを逃してはならない。室温に置き、できるだけ手で触れずに、香りや外皮の風合いで、最高の状態で食べられるタイミングを見極めることが必要である。

 栽培についても、その繊細な果肉のために病害虫に侵されやすく、風に吹かれて外皮に傷がつきやすく、雨に打たれて落果しやすい。栽培には袋掛けが必要な、手間のかかる農作物であることが知られている。品種によっては、外皮をあくまでも白く仕上げるために遮光のできる袋掛けをする。美しい赤に発色した外皮を育むためには無袋期間を適切に調整したりと、かなりの手間と技術を要すると聞いている。

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 モモ Amygdalus persica L.バラ科モモ属の落葉小高木。春先にたくさんの花をつけ、観賞用の花桃としての栽培や品種もあるが、今回はその木になる果実の話。中国西北部黄河上流の高山地帯が原産とされており、欧米にはシルクロードを通ってペルシャPersia経由で伝わったことが、種小名のpersicaや英名のpeachの由来になっている。

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 日本では長崎県多良見町にある約6,000年前の縄文時代前期のものとされる伊木力(いきりき)遺跡から、モモの種(桃核)が見つかっている。ここは九州自然歩道のトレッキングで通過したところ。食用として本格的に栽培が始まったのは江戸時代ぐらいからとされているが、明治時代に中国から導入された水蜜桃を品種改良したものが現在一般に流通している各種のモモの原型となっている。

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 現在日本で栽培されているモモの元祖は岡山県の「白桃」で、中国の「上海水蜜桃」から偶発的に生まれた(偶発実生)可能性が示唆されている。この白桃を親として、現在の生産の主流となっている「白鳳」や「川中島白桃」、「あかつき」などの多彩な品種が作られている。これらはすべて、皮に柔らかい毛が生えている一般的な食用の実桃で、水蜜(すいみつ)種といわれるものであるが、大きく、白桃(はくとう)・白鳳(はくほう)系、黄桃(おうとう)系の3つに分けられる。

 農林水産省の品種登録ホームページ(http://www.hinshu2.maff.go.jp/)で確認すると、モモPrunus persica (L.) Batsch(モモのもう一つの学名シノニムはPrunus)で品種登録されているものは、2020年6月20日現在で240品種に上っている。このうちのいくつかはネクタリンで、登録品種名だけではいわゆるモモの白桃との区別はできないが、モモは200品種程度が農林水産省に品種登録されている。また、ここに品種登録されていない有力なモモの品種もある。

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 大雑把に言って、シーズン前半には果肉が柔らかく果汁豊富な白鳳系が生産され、シーズン後半には果肉が硬めで樹上の期間が長いために大玉になる傾向をもつ白桃系が出回り、シーズン最後まで残るのが黄桃系となる。

 2015年果樹生産動態等調査に基づく生産量の多いものから、代表的な品種を挙げると次のようになる。

あかつき

  • 生産量1位
  • 親の組み合わせ:「白桃」×「白鳳」
  • 国内の栽培面積:約1,599ヘクタール(2015年)
  • おもな産地:福島県(約51%)、長野県(約15%)、山梨県(約12%)
  • 収穫期:7月上旬~8月下旬
  • 神奈川県平塚市にあった果樹試験場で「白桃」と「白鳳」を交配して育成されたモモ。1952年に育種されたが、栽培が難しく、福島県が栽培技術を確立した1979年にようやく命名登録された。現在、福島を代表する品種であると共に、全国各地で栽培されている。
  • 果実の重さは250~300gくらいで、肉質は締まっていて緻密。
  • 袋栽培が可能なため、日光を浴びて赤く発色したものが多く出荷されている。
  • 糖度は12~14度と高く、桃の主要品種の中ではトップクラスの品質。

白鳳

  • 生産量2位
  • 親の掛け合わせ:「白桃」×「橘早生」
  • 国内の栽培面積:約1,359ヘクタール(2015年)
  • おもな産地:山梨県(約44%)、和歌山県(約22%)、岡山県(約9%)
  • 収穫期:5月下旬~8月中旬
  • 1925年に神奈川県の農事試験場で「白桃」と「橘早生」を交雑して育成され、1933年に白鳳と命名
  • 果実はやや大きく、重さは250~300gほど。
  • 果皮は地色が白く、日光に当たる部分が赤く発色する。
  • 果肉はやわらかく、酸味は控えめ。果汁を豊富に含んでいて、口当たりが柔らかい。
  • 白鳳の枝変わりの品種として「日川白鳳」、「長沢白鳳」、「八幡白鳳」、「桃山白鳳」、「みさか白鳳」、「山梨白鳳」などがあり、白鳳系と呼ばれる。
  • 白鳳系は自家受粉で着果する自家結実性を有し、着果に異品種の受粉が必要な白桃系と異なる。

川中島白桃

  • 生産量3位
  • 生い立ち:長野県で偶発実生として発見
  • 国内の栽培面積:約1,166ヘクタール(2015年)
  • おもな産地:長野県(約20%)、山梨県(約19%)、山形県(約19%)
  • 収穫期:8月上旬~9月下旬
  • 武田信玄上杉謙信との間の数次にわたる戦いでも知られる長野市川中島町の農園で、1963年頃に池田正元氏によって偶発実生として発見された。
  • 当初は発見者の池田氏にちなんで「池田1号」の名で出荷されていたが、1977年に「川中島白桃」と命名された。
  • 果皮は濃紅色でうぶ毛が多く、果重は250~350gほどと大玉。
  • 果肉はややかため、糖度が高く、食味良好。
  • 収穫時期は8月から9月と晩生種。

日川白鳳

  • 生産量4位
  • 生い立ち:「白鳳」の枝変わり
  • 国内の栽培面積:約857ヘクタール(2015年)
  • おもな産地:山梨県(約54%)、和歌山県(約13%)、福島県(約6%)
  • 収穫期:5月下旬~7月下旬
  • 「白鳳」の枝変わりとして山梨市で1973年に発見。
  • 発色の良い桃で、果皮は濃い赤色。酸味はやや少なく糖度が高め。
  • シーズン序盤に出回る早生品種。

清水白桃

  • 生産量5位
  • 生い立ち:岡山県で偶発実生として発見
  • 国内の栽培面積:約361ヘクタール(2015年)
  • おもな産地:岡山県(約65%)、和歌山県(約23%)、大阪府(約4%)
  • 収穫期:7月上旬~8月下旬
  • 岡山発祥の果皮が白い桃で、極上の品質の「桃の女王」と証される岡山ブランド高級品種。
  • 乳白色の果肉はやわらかく、果汁が豊富で口当たりはなめらか。上品な甘味と香りが特徴。
  • 果実の重さは260~300gで大型。
  • おもに岡山県和歌山県などで栽培されている。

なつっこ

  • 生産量6位
  • 親の組み合わせ:「川中島白桃」×「あかつき」
  • 国内の栽培面積:約305ヘクタール(2015年)
  • おもな産地:山梨県(約62%)、長野県(約26%)、新潟県(約5%)
  • 収穫期:8月上旬~9月上旬
  • 長野県の果樹試験場で「川中島白桃」と「あかつき」を掛け合わせて育成され、2000年に品種登録された。
  • 果実は300~350gほどと大きく、食味は極めて良好で、比較的保存性が良い。
  • 優れた品種のため、新しい品種であるが栽培面積が増加している。

加納岩白桃

  • 生産量9位
  • 生い立ち:「浅間白桃」の枝変り
  • 国内の栽培面積:約158ヘクタール(2015年)
  • おもな産地:山梨県(約75%)、岡山県(約11%)、香川県(約4%)
  • 収穫期:7月上旬~8月中旬
  • 「浅間白桃」の枝変わりとして山梨県で発見され、1983年に品種登録された。
  • 果実のサイズは250g程度と大きく、果皮の発色は薄めで、日にあたる部分が発色する。

黄金桃

  • 生産量10位
  • 生い立ち:「川中島白桃」の偶発実生
  • 国内の栽培面積:約143ヘクタール(2015年)
  • おもな産地:長野県(約38%)、福島県(約22%)、山形県(約21%)
  • 収穫期:8月中旬~9月下旬
  • 川中島白桃」の偶発実生で、池田正元氏が育成。
  • 果肉が濃い黄色をしているのが特徴。
  • 袋掛けして遮光したものは果皮が黄色になるが、日光に当てると赤く発色する。
  • 果実のサイズは250~300gくらいと大きめ。
  • 独特な香りと、濃厚で強い甘味がトロピカルフルーツを思わせる。
  • 晩生種。

白桃

  • 生産量 ランキング外
  • 生い立ち:岡山で偶然実生として発生
  • 国内の栽培面積:約27ヘクタール(2015年)
  • おもな産地:長野県(約48%)、岡山県(約15%)、山梨県(約11%)
  • 収穫期:8月上旬~8月下旬
  • 岡山市東区瀬戸町で1901年に大久保重五郎氏が偶発実生として発見。
  • 「上海水蜜」の系統と考えられている。
  • 「純白桃」あるいは「本白桃」とも呼ばれる歴史のある品種。
  • 果実の大きさは260g程度と大玉で、袋掛けした果皮は完熟しても白く、高級品としてブランド化している。
  • 白桃を親として開発された派生品種は数多く、現在栽培されているモモの多くに、その血統が引き継がれている。

 

参考文献:

旬の食材百科:https://foodslink.jp/syokuzaihyakka/syun/fruit/momo.htm
果物ナビ:https://www.kudamononavi.com/zukan/peach
農林水産省品種登録ホームページ:http://www.hinshu2.maff.go.jp/
ももの作業講座:https://eat-a-peach.jp/sagyoukouza/kouza_hukurokake.htm