とりあえず、歩くか。晴れた日は星空の下で寝るのもいい。

週末の九州自然歩道のトレッキングや日常の雑感です。英語版のトレッキングログもこちら https://nayutakun.hatenadiary.com/  で公開しています。

村おこしにトレイルの整備はどうだろうか?

 「再来月はもう福岡マラソンだなー」、と歩きながら考えた。ここは福岡県と大分県の県境に近い添田町の山の中。もうそろそろ、出場予定のマラソンの練習を始めなければならないのだが、やっぱり今週末も山に来てしまった。

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やっぱ、こんなところを歩いているときは幸せだなー

 最近、町おこしにマラソン、というのが増えている。秋や春のシーズンになると、毎週のように開催されているようで、登録しているサイトからマラソンの開催案内が届く。東京シティマラソン、大阪シティマラソンのように数倍の倍率で、何万人ものランナーを集める大会もあれば、地方ではなかなか出場者の集まらない大会も出てきているようだ。いくら世間が健康ブームで、ランナーが増えてきているとは言ったものの、やはりフルマラソンを走ろうというランナーの数は限られているし、しかも毎週毎週走るというのもさらに難しいからだ。パイの大きさ、つまりマラソンランナーの数は限られており、またマラソンランナーになるための新規参入のハードルはそれほど低いわけではない。

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福岡マラソンの15kmぐらいの地点 このあたりは風景が楽しめる 出場していても

 マラソンで街の活性化というのは、経済的には魅力的であろう。1万人の参加者から1万円の参加費を集めれば1億円。参加者が一人5000円飲食してくれれば5000万円。さらに半分の5000人が県外からの参加で、宿泊するとなれば、宿泊費1万円とさらに追加の飲食で平均5000円とすれば7500万円。ざっと2億2500万円のお金が街に流れ込んでくることになる。

 しかしマラソンにはいくつかの制限もある。基本的には市民マラソンは年に1回しか開催できない。ランナーの心理を考えたら、せっかくならばいろいろな地方のコースを走ってみたいだろう。交通規制を受ける住民の理解を考えても、年に複数回のマラソン大会開催は困難かと思われる。さらには、大会の開催には、交通規制の支援要員や、レースの運営要員、給水やトイレ、医療などの要員も必要になる。ランナーの着替えなどの荷物を運んだり、ゴールから最寄りの交通機関まで送迎する支援も必要になる。これらの要員・支援者はおそらく1000名近く必要になるのではないだろうか。機材もかなりのものが必要になる。人員にはボランティアもある程度動員できたとしても、機材やプロの支援者の費用も考えると、数千万円から1億円近くの費用が必要になるかもしれない。なにしろ、1kmあたりに10名の人員を配置するだけでも420人以上必要なのがマラソンなのだ。端的に言ったら、1年に1回しか開催できず、参加費のみでは運営費は赤字になり、地域全体で1億円の収益を上げるのがやっとというイベントではないかと思われる。しかも、地域にマラソンランナーの宿泊、食事などの需要を受け入れられるキャパシティがあってからこそ受益できるものである。

 では、マラソンよりもさらに年齢の高い集団に、より人気の高いウォーキングで村おこしというのはどうだろう。ウォーキングはマラソンよりも参入のハードルはかなり低い。村の中に1日で歩くのに適当な15kmのトレイルが3コースあるとする。それぞれ、春・秋の花や紅葉が楽しめるコース、渓流沿いの夏も涼しく歩けるコース、岩場や傾斜地もあるハードなコースといったバリエーションがあって、季節を問わず訪れることができるコースがあるのが望ましい。レースや大会を開催するわけではない。トレイルを整備して、遠来の方に歩いて楽しんでもらうのが目的なのだ。参加者数の予測はなかなか困難だが、毎週100人来てくれれば、年間5000人以上訪れてくれることになる。地域おこしとしてはかなり小さな話だ。

 さて、トレイルを整備してそれを近隣県の愛好者に周知ができたとする。こんな事業で、どれぐらい収益が期待できるか。レースや大会でもない限り、トレイルウォーキングでは参加費の徴収はできない。参加費収入は0円だ。期待できるのは、食事やお土産に関連した支出で、日帰りのトレイルウォーキングならばせいぜい一人当たり3000円程度かと思われる。トレイルを歩く人の10人に一人が宿泊してくれると予想したら、年間に500人の宿泊が期待できるが、そもそも村には大型の宿泊施設がないので、これぐらいの集客力の増加ぐらいがありがたいかもしれない。これらの収入を合わせるとおよそ3000万円程度。加えて日帰りの訪問者のための駐車場収入も期待できるかもしれない。

 では、トレイルの整備と維持にはどれぐらいの費用が掛かるだろうか。15kmのトレイルが3コースで、45km。ほぼマラソンコースと同じ距離だ。舗装されていない山道だとすると、定期的な草刈りや、土砂の流れ止め、落ち葉やごみの収集、標識の管理などが必要だろう。これらの費用の見積もりはなかなか難しいが、1kmの整備に8名の人員が6時間必要としておく。ただし、これらの作業は時給1000円のシルバー人材でできそうだ。45kmで216万円の人件費を要する。機材も必要なので、300万円としておこう。年に2周して整備・維持をするとしたら、600万円。費用は掛かる。しかし、地域の人材を活用できそうなところが魅力的だ。

 さらに、コースにはトイレの管理も必要だ。コース上に飲料水の自動販売機や、最近のトレッキングには必須のGPSスマートフォンを使用するための充電施設があったら、訪問客にも好評だろう。これらを合わせて、トレイルの整備には年間1000万円必要とする。トレイルの訪問客が村内で使用するお金が3000万円としたら、村全体の収益は2000万円。小さな費用で、小さく、年間を通じて稼ぐというビジネスモデルになる。しかも整備のための人材には村内のシルバー人材を活用できるという利点がある。年間を通じて、継続的な訪問客を誘引できる。マラソンのような一過性のイベントではないため、大型の施設の整備が必要でないところも、財政規模の小さな自治体には有利な点だ。名所・旧跡があればなおよいが、必要なのは交通量の少ない林道や山道だけなのだ。整備された山道というのは、意外と少なく、貴重なものなのだ。

 マラソンでの地域おこしは1回の開催で大きな収入と巨額な費用を特徴とするが、もし地域に十分な宿泊施設や飲食店がなかったならば、収益さえ十分に得ることもできない。数千人の宿泊施設が用意できそうな地域は限られているだろう。これに対してトレイルウォーキングでの地域おこしは小さく長くといったモデルだ。運営のための人材は地方で賄える。宿泊施設や機材への投資も小さなもので済ませられる。地域の人材や体力の中での運営を考えた、持続可能性の高いプランではないだろうか。

 さあ、マラソンからトレイルでの村おこしへの転換はどうだろうか?