TJARをご存じだろうか?
TJARとはTrans Japan Alps Raceの略称で、日本アルプス縦断レースのこと。日本海側の富山湾をスタートし、北アルプス、中央アルプス、南アルプスを縦断して太平洋側の駿河湾まで走り切るというスパルタンな山岳レースである。2年に1回開催されるこの過激なレースの模様は、最近ではテレビでも放映されているようなので、ご存じの方も多いのではないだろうか。
全行程415kmのこのレースの標準コースタイムを合計すると33日ほどとなる。ところがTJARのタイムリミットは8日間。合計30か所あるチェックポイントのいくつかには通過制限時間が決められており、相当な数の参加者がチェックポイントで制限時間オーバーを宣言されることになる。
完走できる人間がこの世にいるだろうかと思うような設定のレースなのだが、ちゃんと完走者がいる。しかも最近では4日台の記録で走破した超人まで現れた。
2002年から2年ごとに実施されているTJARは、エントリーのための資格すら厳しく、自分にはとても出場はかなわない。でもどんなコースで行われているのか、この目で見たくなった。
ということで、2023年7月13日には富山県魚津市のミラージュランドを出発し、9日目の7月21日に上高地に到着した。昨年の一人TJARはここでいったんお休み。今年は上高地からの再開となる。
今年2024年は7月30日から年休を取得。福岡から空路で中部国際空港。名鉄、中央本線と乗り継いで松本に前泊した。
松本では地元感満載の居酒屋で名物の山賊焼を頂く。
今朝は前泊地の松本のホテルを4:20に起床。シャワーを浴びて5:00にホテルを出発。途中のコンビニで朝食のおにぎりとパン、飲料水を購入してから松本バスターミナルに向かった。
ほどなくバスがターミナルに入庫してきた。予約のみの5:30のナショナルパークライナー01便01号にはすでに行列ができている。
バスはほぼ満席。いよいよ始まる今回の旅の期待と不安が拡がる。
国道158号線を通って、5:57に新島々の駅を通過。その先はいくつものトンネルを抜けて、定刻の7:05に上高地バスターミナルに到着した。
上高地登山管理事務所の前から7:15に歩き始めた。いよいよ一人TJARのスタートだ。気温は21℃。快適。
梓川の川縁まで進む。残念ながら雲のために西穂高の山々は望めない。昨年の離脱地点の道標から南に歩き始める。
美しい梓川の流れを見ながら歩く。水はあくまでも透明。河原の石は白く、角の尖った大きな岩が多い。
7:37に梓川にかかる田代橋と穂高橋を通過。川の流れは早い。雪解けを含むこの水の流れが、暴力的にも見える。
8:10に大正池の辺りに出た。正面には噴煙をなびかせる焼岳。活火山で、一部は現在立ち入り禁止になっているはずだ。
大正池から先は県道24号線を進む。唐松橋を渡ってからはトンネル群に入る。
まず8:30に上高地トンネルに進む。588mの長さで、2016年7月完成。高規格のトンネルで道幅が広く、歩道がある。
ほんの数10mの間隔を挟んで、8:39から釜トンネルの1310mの歩道を歩き始める。釜トンネルも2005年6月完成の新しい高規格トンネル。
長いトンネルを抜けて、8:51に中の湯の信号に到着した。この信号から上高地に向かう釜トンネルには一般車は侵入できない。2名の交通指導員が車に案内をしていた。
信号横にあるのが中の湯という温泉。卜伝の湯と書いてある。戦国時代の塚原卜伝に関連しているのか?秘湯感満載。ここに駐車場はあるのだろうか?どうやったら入浴できるのだろう。
ここからは国道158号線となり、規制はないため交通量は格段に増える。
右側に梓川が流れる。大正池で堰き止められているため、流量は少ない。河原の石は赤い。焼岳から噴火の際に算出された岩石が鉄分を多く含んでいたのだろうか?川から流れてくる風にも温泉の臭いが漂う。
9:00に赤怒谷(あかぬたに)トンネルに入る。396m。1984年3月完成で狭いが歩道はある。
次いで上坂巻橋を渡り、坂巻トンネル(294m)を歩き始める。1978年11月完成で歩道あり。しかし、歩道があってもバスのすれ違いの際などは両幅が一杯一杯でなかなかスリリング。
坂巻トンネルを出て、坂巻橋を渡った先が坂巻温泉。トンネルとトンネルの100mほどの間にポツリとある温泉。このトンネルのない時代にはどんな温泉だったのかと想像してしまう。残念ながら8月まで休館中だった。
9:25に行動再開し、すぐに白なぎトンネル(263m)を進む。白なぎ橋を渡った先は清水トンネル(756m)、芝そりトンネル(116m)、ひのきべつりさわ橋を挟んで、ほだこやトンネル(130m)、雲間の滝トンネル(228m)、山吹トンネル(800m)とトンネルのラッシュ。上高地に向かう大型バスが5分と間をおかずに通過するため、気を抜ける時間がない。
つかザクラ橋を渡った先に白骨温泉との分岐が見え、その先は沢渡(さわんど)になる。沢渡にはバスターミナルがあり、自動車で上高地に来た人はここでバスやタクシーに乗り換えることになる。10:20に沢渡の旅館街を通過。
10:30に沢渡大橋を渡ってしばらくはトンネルのない道を歩く。交通量は多い。
あけぼの橋、梓湖大橋と過ぎて、10:44に日向窪橋を渡った後は、とくさトンネルに入る。
ここから先は歩道がないか、あっても幅が狭く、ぬかるんでいる。自動車が通過するたびに止まって避けなければならない。
10:57に進んだ前川渡トンネルには歩道がなく、親子滝トンネルは1265mと長いが歩道はなく、バスが通過するたびに立ち止まってトンネルの壁に背を付ける。かなりの恐怖。
次の水道沢トンネルは329mで歩道なし。そして最後の奈川渡トンネルは977mの苦行。11:35に奈川渡ダムに出た時にはホッとした。
奈川渡ダムは大きなアーチ式のトンネル。堰き止められてできたのが梓湖。湖面の一部に材木が浮かんでいるが、上流域の豪雨被害の結果だろう。
奈川渡ダムからは国道185号線を離れて南に向かって県道26号奈川木祖線に進む。
11:50に宮の下トンネルに入る。長さは銘板が落下して紛失しているため不明。500mぐらいだろうか。トンネル入口に野麦街道と書いてあるが、トンネルが歴史的な野麦街道を称するとは不思議だ。歩道あり。
宮の下トンネルから数十メートルで、12:01からブナの木トンネル(647m)に進む。このトンネルには歩道なし。幸い国道158号線からはかなり交通量が減っている。
しばらく道路を走ってから鈴原トンネル(113m)に進む。歩道のない、幅の狭い規格の古いトンネル。12:26から歩き始めた角ヶ平トンネル(394m)も古い規格のトンネルで歩道なし。
しばらくは県道26号奈川木祖線を南下する。12:42に通過した田の萱集落では自販機を発見。
この先は市街地を通らずにバイパスの道を進む。12:51に雪見が原橋を通過して、13:14に旧奈川村役場だったかと思われる奈川文化センターに到着。中のベンチを借りて昼食とした。自販機あり。雪見が原橋
10分ほどで行動再開。13:36にながわ山菜館前を通過。道の駅のような規模。残念ながら水曜日が休館日だった。
しばらくベンチで休憩してから行動再開。県道26号奈川木祖線をさらに進む。
14:57そばの里から左折して300mほど坂を上ると15:10に宿泊予定の大石屋に到着。ご主人に迎えられて行動終了。
アルカリ性の温泉が心地よく、料理にも心がこもっていて、いい宿だった。
同宿には、すでに仕事を離れて、まずは北海道宗谷岬から鹿児島佐田岬先端まで歩いた男性がいて夕食時に話が弾む。現在は旧道の歩き通しに専念されているよう。かつての街道の起点から終点までを、宿場に泊まって中断しないで歩くというコンセプト。確かに徒歩以外の交通機関のない昔は、セクションハイクはできなかったから、かつての街道歩きを忠実に体験できることになる。面白い楽しみ方だと感心しきり。
2024年7月31日 TJAR歩いてみた 10日目 長野県松本市安曇上高地〜長野県松本市奈川
曇り 25/16℃ 行動距離37.2km 行動時間7:46 獲得高度1345m 48302歩 行動中飲水量 1500ml