バゲットサンドの巻を読んだ方から、あの巻の写真に写っていた皿の上の食品はピクルスであろうか、もしそうであればレシピを教えよとリクエストが来た。
そのとおり。あれは私の自家製のピクルスである。エッヘン、と威張るほどのものではないが、簡単に作れるので、レシピを載せておこう。この6年ほどは、年に4回程度仕込んでいるものである。
必要な材料と器材はつぎのとおり。
ピクルス液:
リンゴ酢 500ml
水 500ml
砂糖 150g
塩 25g
ベイリーフ(ローレル) 5枚
赤唐辛子 5本
パイレックス耐熱ガラスボウル
ピクルス野菜(保存瓶3本分の目安量):
キュウリ 5本
ニンジン 2本
ダイコン 1/4本
パプリカ 2個(できれば赤+黄)
セロリ 1本
その他 好きな野菜
保存瓶:容量800ml程度(我が家のものは幅110mm×奥110mm×高さ120mm程度のサイズ)のもの3個
まずはピクルス液の調製。ピクルス液の材料をすべてパイレックスの耐熱ガラスボウルに入れ、砂糖が溶解するまでよく撹拌する。
ボウルには、わずかに隙間を開けてラップをかけ、電子レンジ(500W)で20分加熱する。
加熱することにより、リンゴ酢はマイルドな味になるため、面倒ではあるがこの工程は省略しないほうがよい。ラップは、加熱したピクルス液が沸騰してレンジ内を汚染するのを低減するためである。緊密に被覆せず、隙間を開けておかないと、加熱によってラップ内の空気が膨張してラップが破損して、せっかくラップをしたのにレンジ内にリンゴ酢が飛散することになる。加熱後は電子レンジから出し、室温程度に冷却するまで放置する。ピクルス液の過熱時から冷却するまでの間は、窓を少しだけ開け、換気扇を回しておかないと、キッチンにはリンゴ酢の匂いが3日ほどこびりついてしまうので注意のこと。
ピクルス液の冷却を待つ間に野菜の準備をする。まずは野菜を適切な長さと太さに切りそろえて、皿に並べて置く。
長さは保存瓶の高さを考慮して、決して保存瓶よりも長くならないようにする。太さは、キュウリは1/4の太さを基本とし、ダイコンは10mm×10mm角を目安に、ニンジンは7mm×7mm角を基本の太さと考える。キュウリのような細胞間隙が疎でピクルス液が浸透しやすいものは太くし、ニンジンのような細胞間隙が密なものは細く切る。細胞間組織があまりないもの、細胞間に繊維が密に走行しているもの、あるいは硬い外皮に被覆されたものは、ピクルス液の細胞への浸透が遅延するからである。これが何を意味するかというと、漬けてから4日ほど経つと1/4切りのキュウリは食べごろの時期となるが、同日に15mm×15mmの太さに切ってしまったニンジンをガリっと齧ると、「まだ漬かってねーじゃん、ペッ」と吐き出してしまうことになるからである。「硬い野菜は細く」の原則と記憶しておいたら簡単かと思われる。
すべての野菜を切りそろえて皿に並べたら、保存瓶への野菜のパッキングを行う。この工程にも様々な注意が必要である。まず、左手(利き手でないほうの手)で保存瓶を保持し、60°ほどの傾きに維持する。最初に最基底部にパプリカ(赤)を1つ置き、隣にはダイコンなどの薄い色の野菜を配置し、その隣にはパプリカ(黄)を配置する。
ここでのポイントは、パプリカはその曲線的な形態のため、保存瓶の外側に位置させるのが適当であるということ、パプリカの色を際立たせるためには、その隣には薄い色の野菜を配置するのが望ましいということである。また、最初に野菜を位置するときは、太いほうを下にすることが望ましい。保存瓶は一般に、底面に比して口が小さいことが多いため、野菜の太いほうを下にして配置しないと、保存瓶内の野菜密度が不均等になりがちであるためである。簡単に言うと、保存瓶の中がスカスカになってしまうのである。
さらに同様に、保存瓶の外側にはパプリカを1つおきに配置するようにしながら、全体に野菜をパッキングする。個人的には、隣り合う野菜の色が異なるように配置する。4色あればできるはずであるが(4色問題)、実際には瓶の中で野菜は私の意思に反してしばしばその位置を変えるため、悔しいことに、同色の野菜が隣合う事象が発生してしまう。もしや4色問題の反例ではないかと目を凝らすが、これまでそうであったためしはない。
もし、パッキング中に野菜が転倒したら、面倒ではあるが、箸などを使ってきちんと体勢を立て直す。この、転倒野菜の姿勢修正はなかなか難しく、ときには周辺野菜を巻き込んだ大惨事を引き起こすことがあり、そのような際には泣く泣く最初から作業をやり直すことになるので、注意深く作業を進めることが肝要である。
保存瓶に野菜がパッキングされたら、瓶をテーブルに置き、上方から仔細に観察を行い、隙間を見つけてさらに野菜を詰め込む。その際に詰め込むのは、ダイコン、ニンジンなどの硬い野菜が望ましい。今回は、野菜の細いほうを下に向けて、隙間に挿入したら、ぐいっと力を入れて野菜を詰め込む。硬い野菜の細いほうから挿入すると、くさび効果が働き、比較的容易に挿入されるはずである。できるだけ、緊密になるように野菜を挿入するように努力する。
3本分の保存瓶に野菜をパッキングを終え、ピクルス液が室温近くまで冷却したら、保存瓶の中にピクルス液を填入する。ピクルス液は野菜の上縁にぎりぎりかかる程度でよい。好みで、ピクルス液に入っていたローリエと唐辛子も保存瓶の中に入れる。これはこの段階で取り除いてもかまわない。両方比べてみたが、大きな差はなかった。
冷暗所に保存して4日ほどで食べごろとなる。一番おいしいのは7~12日だと感じるが、これは個人差が大きいだろう。経験的には、冷蔵庫内で保存したほうが、可食期間が長くなる。
例に挙げたものの他に、ピクルスにして美味しい野菜は、長芋、トマト、ペコロス(皮を剥き、電子レンジで軽く加熱)、菜の花(ごく軽く茹でて)、リンゴなどがある。彩りがよく、歯ごたえの良い野菜をいろいろ試してみたい。
長々書いたが、野菜を切って瓶に入れ、酢を入れれば、数日でピクルスは出来上がりである。難しく考えることなど何もない。